ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ
ホシノ(臨戦)襲来

今回は一方その頃編です

レイヴンVSホシノ(臨戦)前の下準備ですね


EP-74 外なる監視者

少し時間を遡り、基地の外周のゲヘナ風紀委員のヒナとイオリ。

 

『暴走兵器はこれで全て止まったようです』

 

オペレーターを務めるアコの報告に、イオリは大きく肩の荷を下ろす。

 

「…どうやら、彼女が終わらせてくれたようね…」

 

少し前に、基地内部で大きな光と揺れを伴う真紅の爆発を感じてから、すっかり敵の気配が消え失せていた。

 

その爆発の原因は、この場の誰もが察していた。

 

「久々にかなりの修羅場だったな…」

 

イオリはそこそこ、砂に塗れ、汚れている一方で、小さく息を吐くヒナは汚れどころか汗の一つも浮かんでいない。

 

『お二人とも、お疲れ様でした。後は──』

 

その瞬間、基地の内部から再び爆発と思われる光と揺れが二人の元に伝わる。

 

その異変はアコも感じ取ったようで、そこで言葉を切り、素早く状況確認に急ぐ。

 

「なんだ!?まだ残ってたのか!?それとも新手か!?」

 

イオリはこのイレギュラーな状況でも、即座に意識を切り替え、銃を構える。

 

それなりには消耗した様子のイオリだが、普段からゲヘナ中を駆け回って荒事に駆り出されているだけあって、慣れた様子だ。

 

後輩の頼もしい成長した姿に内心で喜びながらも、だが、その一方でアコの声色は芳しくない。

 

『新手、と言って良いかもしれませんね…ですが、これは…。一体、どうして?』

 

まるで信じられないものを見ているかのようなアコの様子に、どうやら単なる敵の増援などではないことを察する。

 

「アコ、説明してくれる?」

 

ヒナの要求に、アコは少しの間を置いて口を開いた。

 

『──レイヴンを小鳥遊ホシノが襲撃した模様です』

 

「はぁ!?小鳥遊ホシノ!?なんでアイツが!?あ、いや、今はカイザーの雇われなんだったか?でも、この件はカイザーも被害者側のはずだろ!?」

 

ほぼノータイムで声を荒げたのはイオリ。

 

今回の騒動は、カイザーPMCの管理していた兵器の襲撃が発端だが、それはカイザーにとっても思わぬ出来事であり、イオリが言った通り、巻き込まれた被害者側だ。

 

それはゲヘナ風紀委員会も情報部を通じて、情報を手にしていた。

 

だからこそ、その騒動の鎮圧に奔走したレイヴンをわざわざ、ホシノを使ってまで、襲う意味が分からない。

 

「…カイザーも、一枚岩では無いのかもしれない…。或いは──」

 

自然と浮かび上がった言葉を飲み込みつつも、カイザーの悪辣さを知っているヒナは、その可能性も十分にあり得ると考えていた。

 

だが、こんなものは先入観から来る、なんの証拠もない推測、妄想に過ぎない。

 

カイザーがホシノを使ってまでして、何かを企んでいたとしても、ヒナにはそれを邪魔するような権利はない。

 

『ヒナ委員長…?』

 

心配するようなアコの声でヒナは我に返る。

 

「取り敢えず、私たちは周囲の見回りをするわよ」

 

そう言うとヒナは外周に沿うように歩き出す。

 

「えっ!?加勢しなくて良いのか!?」

 

そのヒナの背中にイオリが困惑と驚愕の声を掛ける。

 

『…分かりました。先生の側のチナツさんに連絡しておきますね』

 

一方、アコは異論は無いようだ。

 

「アコちゃん!?」

 

アコはそのまま連絡の為に通信を切り替える。

 

「…私たちが加勢したところで、邪魔になるだけよ」

 

ヒナは歩きながら、イオリに言葉を返す。

 

「いや、レイヴンの強さは知らないけど、そんなこと──」

 

「あるのよ、あのレベルの戦いになるとね」

 

ヒナは足を止め、背を向けたまま、イオリに説明する。

 

「自分以外は足手纏い。使い捨てのカカシとか特攻自爆装置なら兎も角、私たちが加勢したら、邪魔以外の何物でもない。──イオリ、貴女、砂狼シロコと戦ったらしいわね?」

 

「え?あ、うん…」

 

数日前、ブラックマーケットにてイオリは、シロコと一騎打ちの戦いに挑んだ。

 

実力はほぼ拮抗しており、こちらも追い詰めたものの、最後には弱点を突かれ、僅差でイオリの敗北となった。

 

「その時、その場に私以外の仲間が居たらどう?貴女は目の前の砂狼シロコに集中して戦えた?」

 

「……」

 

無理だ、とイオリは内心で溢す。

 

仲間が居たら、仲間に銃が当たらないように気を配る必要がある。

 

自ずと、自身の攻撃範囲を狭め、絞る必要がある。

 

果たしてそれで、あの砂狼シロコに勝てていただろうか。

 

「相手が格下でも無ければ、頭数なんてのは、足枷にしかならない。それこそ、先生のような指揮者が居ることで初めて、複数戦は成り立つものよ。或いは、長い期間、鍛練や訓練を共にした仲間同士であれば、連携も取れるだろうけど…」

 

ヒナの言葉が、そのままイオリに突き刺さる。

 

やはり、ヒナにとって、自身は足枷になっていたのかもしれない、と。

 

『……』

 

アコも聞いているかもしれないと言うのに、言い返せない自分が情けなく感じる。

 

自分がヒナと同じか、それよりも強ければ、何か別の言葉を返せていたかもしれないのに。

 

「…そう、だな。確かに、委員長の言う通りかもしれない…」

 

自然と、銃を握る手の力が強くなる。

 

自身より強く、それでいて戦いを経たヒナの言葉を否定できるような重みのある言葉が浮かばない。

 

どれも、薄っぺらい、中身を伴わない、見かけだけのシャボン玉だ。

 

「…気を悪くしたのならごめんなさい」

 

「あっ!?いや、私はそんなんじゃ…!」

 

「でも、勘違いしないで」

 

「えっ?」

 

「私が言いたいのは、適材適所ってこと。私たちには私たちに合ったやり方がある。レイヴンへの加勢はきっと、()()()()()と先生の方がきっと──」

 

*****************************

 

『ちょっ!?また爆発!?』

 

『戦いは終わったハズじゃないの!?』

 

インカムから先生の耳に届くのは、セリカとアルの驚きの声。

 

カイザーPMCの元理事を撃破した対策委員会メンバーは、便利屋68とヒフミと合流し、イヴの元へと向かう途中だった。

 

イヴの方も、アヤネのドローンによって監視され、敵の撃破を確認していた。

 

──その矢先のことだった。

 

イヴに攻撃を仕掛けたのは、他でも無い、ホシノだった。

 

「…ッ!?ホシノ先輩が…イヴちゃんに攻撃を仕掛けました…!」

 

[“!?”]

 

インカムで今も移動中の対策委員会の三人と便利屋の四人に状況を説明する為、アヤネは困惑と驚愕の中、振り絞るように言葉を紡ぐ。

 

『はぁ!?』

 

『えぇっ!?』

 

『ホシノ、先輩が…?どうして…?』

 

セリカ、ノノミ、シロコが順に声を発する。

 

その声に含まれるのは間違いなく、アヤネが抱いているものと同じもの。

 

『…どう言う事?小鳥遊ホシノは、カイザーに雇われてた筈よね?カイザーが小鳥遊ホシノを使ってレイヴンを攻撃する意味が分からないわ』

 

静かに、だが、不快感と怒りが込められたアルの声が届く。

 

『やっぱり今回の何もかもがカイザーの自作自演のマッチポンプだった、って事でしょ!ぶっ潰すしかないんじゃない!?』

 

ムツキが好戦的に、獰猛に咆える。

 

だが、その声には紛れも無い怒りが宿っていた。

 

『どうしますか!?爆破しましょうか!?爆破した方が良いですよね!?』

 

あのアル至上主義のハルカでさえ、この様子だ。

 

いや、アルの怒りに触発されたのかもしれない。

 

そんな今にもカイザー本社を爆破しに動きかねない三人を宥めるように声を発したのは、最年長のカヨコ。

 

『カイザーも一枚岩じゃないってことかもね。或いは、この戦闘中に方針が変わった、とか』

 

カヨコの言う通り、カイザーはキヴォトスに名だたる大企業。

 

多くの社員を抱えている事だろう。

 

内情の詳細は不明だが、カイザーの首脳となる上層部も複数名で構成されてる事は想像に難くない。

 

そうであれば、全員の意見が一致せず、食い違いこともあるだろう。

 

『ムツキの言った自作自演は流石に無いと思うけど、自分たちへの脅威が排除されて用済みになったイヴを用無しとして始末しようとするくらいはカイザーならしそうだね…』

 

あくまで冷静さを欠かさないようにいつも通りの囁くような声だが、何処か氷のような冷たさを感じる。

 

静かな怒りとでも言うべきだろうか。

 

『そんな酷いことは流石にしないと思いたいですけど…あの悪名高いカイザーですからね…十分あり得ます』

 

カヨコの推測を補強したのは、ヒフミだった。

 

あまり普段と変わらない様子だが、僅かにカイザーに対する不快感のようなものが滲み出ていた。

 

『でも、正直、これもまだマシな説。一番の最悪な展開は──』

 

カヨコが提示したのは、この場の誰もが知る由もないが、ヒナが思い浮かべつつも飲み込んだ言葉と奇しくも同じものだった。

 

『──小鳥遊ホシノとイヴの相討ち、共倒れを狙ってるパターンだよ』

 

カヨコの言葉に、通話が暫し無言となる。

 

誰もが、言葉を失った。

 

それは困惑や驚愕、或いは、声すら漏れぬほどの怒り。

 

『先生、ホシノ先輩を止めなきゃ』

 

『そうね。なんでカイザーなんかの言いなりになってんのか知らないけど、イヴと一緒にホシノ先輩を止めないと!』

 

『はい!ホシノ先輩を止めて、イヴちゃんと一緒にお説教です!』

 

[“…”]

 

やる気を見せる対策委員会の三人だが、それを聞いても先生は珍しく乗り気が無い様子。

 

何かを思案しているようにも見えた。

 

「先生?どうかしたんですか?」

 

横のアヤネが訝しげにその顔を覗き込む。

 

[“みんな、二人のことなんだけど”]

 

「先生、少しよろしいでしょうか?」

 

先生に声を掛けたのは、アヤネと共に先生の護衛兼後方支援役のチナツだった。

 

「委員長から伝言との事で、行政官から連絡がありました。“先生()()に任せる”、とのことです」

 

チナツの言葉を聞き、先生は力強く頷いた。

 

[“──此処はイヴを信じて待機してくれないかな?”]

 

****************************

 

時間を遡り、場所はアビドスの外れの廃屋の一室に移る。

 

そこでは、先生と“黒服”が対面していた。

 

「お待ちしておりました。あなたとは一度、こうして話をしてみたいと思っていました。シャーレの先生」

 

[“早速で悪いけど、ホシノを返してもらおうか”]

 

先生の要求に対し、黒服は無言のまま、背を向ける。

 

「…連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在にして、かの“オーパーツ”、《シッテムの箱》の主。あなたを過小評価する者も居るようですが、()()()は違います」

 

再び先生へと振り返った黒服は、一歩、先生に歩み寄る。

 

「……まず、はっきりさせておきましょう。()()()は、あなたと敵対するつもりはありません。むしろ、協力したいと考えています」

 

怪しい相手の、如何にも胡散臭いセリフに、先生は怪訝を通り越した不快そうな険しい表情を浮かべて黒服を睨む。

 

「私たちの計画において、先生、あなたは無視できぬ障害となり得る存在の一つ…そう考えております。敵対することは避けたいのです」

 

相手は、あくまでも紳士然とした振る舞いで説明している。

 

敵意があるようには感じられない。

 

念の為、言葉を選びながら、口を開く。

 

[“あなた達は一体、何者?”]

 

キヴォトスの生徒や、住民である動物やロボット、ましてや自分とも明らかに異なる、異質な存在。

 

「…おっと、そう言えば自己紹介をしていませんでしたか。()()()は、あなたと同じキヴォトスの外部の者…ですが、あなたとはまた違った領域の存在です」

 

「適切な名前がありましたので、今はそれを拝借して使っております。私たちのことは《ゲマトリア》、そうお呼びください。私のことは《黒服》とでも。この名前が気に入っていましてね」

 

私たち(ゲマトリア)は、観察者であり、探究者であり、研究者です。あなたと同じ、“不可解な存在”だと考えていただいて問題ございません」

 

一緒にされるのは御免なのだが、今は敢えて流す。

 

「一応、お聞きしますが、私たち(ゲマトリア)と協力するつもりはありませんか?」

 

その問いは、何となく予感していた。

 

相手に敵意が感じられず、これまでの語り口調から、こちらに歩み寄ろうという意識は、何となく感じていた。

 

しかし、いや、だからこそ、既に答えは出ていた。

 

[“断る。微塵も無い”]

 

自分でも少し驚くほど、力強い拒絶。

 

だが、このまま毅然とした態度を貫き通すことを覚悟する。

 

黒服は、相変わらず表情が読み取れないひび割れた顔面を先生に向けている。

 

「……左様ですか。真理と秘儀を手に入れられるこの提案を断ってまで、あなたはキヴォトスで何を探求するおつもりなのですか?」

 

“真理”や“秘儀”というワードに、先生の中の中学二年生としての心が惹き寄せられるが、それを封じ込め、表情を変えずに言い放つ。

 

[“少なくとも、そんな提案に興味は無い。私はただ、ホシノを返してもらいに来ただけ”]

 

確かに先程は多少は揺らいだが、少なくともホシノを犠牲にしてまで受け入れるようなものではない。

 

生徒が犠牲になるというなら、そんなものはゴミクズ以下だ。

 

クソ食らえ。

 

「……クックック…」

 

先生の拒絶に対し、それでも黒服は余裕ある様子で不気味に笑う。

 

「…まあ、良いでしょう。お好きにされたらよろしい。既に、私の目的は達せられていますから」

 

[“何を企んでいる?”]

 

「…良いでしょう。折角の機会です。先生、あなたにはお話ししましょう」

 

「元々、私の研究は、《ミメシス》で観測した“神秘の裏側”、つまり“恐怖”。それを“生きている”生徒に適用できるか…そんなものでした。キヴォトス最高の神秘、小鳥遊ホシノ…彼女を実験体として」

 

「ですが、その研究の必要は無くなりました。“渡鳥イヴ”──彼女の存在によって」

 

話の内容はよく分からなかったが、一先ず、イヴで何かを企んでいるのは分かった。

 

[“イヴをどうするつもり?”]

 

「クックック…そう睨まないでください。ところで先生、あなたは彼女の“特異性”に気付いていますか?まあ、気付いていなくても構いません」

 

「渡鳥イヴ…彼女は、他の生徒──キヴォトス最高の神秘とも異なる、異質にして、特異な存在です。何故なら──」

 

「彼女は自ら、自身の内に秘める“神秘と恐怖”という“崇高”を()()()()()ことが出来るのです。これは、非常に興味深い現象です。これは知人の受け売りですが、本来、崇高とは神秘か恐怖、その一側面しか観測することは出来ません。例えるならコインの裏と表。いえ、この例えも正しく崇高を表現出来ているとは言えないでしょう」

 

「何にしても、そのコインの裏と表をひっくり返すことは、少なくとも、これまでの生徒には出来ないことでした。しかし、渡鳥イヴ、彼女は自身の意思で本来、不可能であるはずの“崇高”という概念を知ってか知らずか、“反転”させることを可能としているのです」

 

「そして、彼女が示す記号はレイヴン──つまりは“ワタリガラス”。ワタリガラスは、地域差もありますが、戦争と殺戮の戦神として崇められることもあります。そして、その内には“カラス”も含まれ、カラスとは古来より、太陽の御使(みつかい)とされます」

 

「眉唾と思われるかもしれませんが、この世には“言霊”と言うものがあり、名は体を表すとも言います」

 

「そんな彼女が、キヴォトス最高の神秘かつ天空の神にして、太陽の神とも同一視される──《暁のホルス》、小鳥遊ホシノとぶつかったら…果たしてどんな化学変化を引き起こすか…非常に興味深いとは思いませんか?」

 

[“…少なくとも、あなたが望むような結果にはならないよ”]

 

「…ほう、それはどういうことでしょう?」

 

直後、先生の脳裏に浮かぶのは、対策委員会の全員や便利屋68、ヒフミと共にいるイヴの姿。

 

彼女は、決して悲劇を許さない。

 

受け入れない。

 

『先生、生徒を救えるのは、先生だけだよ』

『だから先生、戦闘は任せて』

 

その為に戦うと、先生の力になると、言っていたから。

 

[“…言ってもきっと、理解出来ないと思うよ”]

 

「…先生、私はあなたのことを気に入っていたのですが…こればかりは仕方ありませんね。精々、頑張ってください。微力ながら、幸運を祈ります」

 

「──先生、私たち(ゲマトリア)は、あなたのことをずっと見ていますよ」




説明が意味分からず長いことで有名なゲマトリア

今回の黒服は原作の『大人の戦い』に加えて、そうりきやだいけつとかのゲマトリアの前口上をイメージしてみました

因みに、神秘恐怖崇高周りについては、考察を見漁った結果の個人的な解釈が含まれていますのであしからず…
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