大人の戦い
話は全然関係無いんですけど、アビドスは砂漠なのもあって夏場はかなり厳しそうですよねー
雨も降らなそうだし…
でも砂漠だから夜は寒くなるんでしょうね
蒸し暑い夜にならないのは良いですが、寒暖差で対処が大変そう
『あなたとレイヴン、それに加えてアビドスの生徒や例の先生の協力もあれば、間違いなく目標は遂行されるでしょう。ですが、問題は
『あと?』
『えぇ、そこで貴女には選択して頂きたい』
『…何を…?』
『クックック、それは──“レイヴンを倒し、アビドスを守るか”、それとも、“レイヴンと戦わず、アビドスを諦めるか”』
移動する高級車の中、対面する黒服はそのような提案をホシノに持ち掛けた。
『──!?どうしてそういう事になるのさ!?』
『どうしてということに関しては、あなたが知る必要はありません。強いて言えば、“研究の為”でしょうか。あなたはただ、この依頼を受けるか、蹴るか、その選択をして頂ければ良いのです』
本当に、企業とは、大人とは、悪辣極まりない。
──いっそ、この場で暴れ倒してやろうか。
そんな考えをどうにか飲み込み、ホシノは研ぎ澄まされた刃のような目付きで黒服を睨む。
『……蹴ったら、アビドスはどうなる?』
この場で暴れたところで、その事実がカイザーに報告され、これまでの事が全て水の泡になっては本末転倒だ。
湧き上がる悔しさと怒り、憎悪を堪え、黒服の言葉を待つ。
『そうですね、敢えて優しい言葉を選ぶとしたら、生徒の皆さんには、他校へ
黒服の言葉は逆説、その為の方法は手荒なものになると言っているようなものだった。
考えられる最悪は、カイザーの戦力投入による制圧。
カイザーはアビドスだけでなく、キヴォトス全域を見ても大手の企業だ。
その戦力がアビドスに集中し、四方八方から攻め込まれれば、自身は兎も角、後輩たちはひとたまりもない。
『それでも良いではありませんか。砂に塗れた借金地獄から解放されるのですから』
正論だ。
だが、そんなものは所詮、部外者の感想でしか無い。
自分たちが借金を返そうとしているのは、ただ借金から解放される為ではない。
自分たちの居場所を守り、かつての誇りを取り戻す為だ。
だからこそ、借金返済の手段は、真っ当な方法を選ぶ。
真っ当では無い汚れた金で借金を返済したところで、そうして取り戻したものには、誉も誇りも無いから。
『…まあ、幸い時間はあります。考える時間は与えましょう』
良く言う。
選ばせる気のない選択を押し付けている癖に。
……ユメ先輩、ユメ先輩ならこんな時、どうしますか?
後輩をダシに、後輩と親しい恩人に銃口を向ける事を強要されて、ユメ先輩は、どっちを取りますか?
私が出した結論は、イヴちゃん──レイヴンを倒すことだった。
黒服の企みに乗るのは癪だった。
後輩たちの為に戦って、守ってくれたレイヴンと敵対するのは嫌だった。
それでも、やっぱり私は──後輩と、その居場所を守るために戦います、ユメ先輩。
レイヴンへの不意打ちはほぼ失敗に終わり、反撃を許したものの、隙を突いて渾身の攻撃を見舞うことには成功した。
スモークグレネードで姿を隠し、時限爆弾のような、着弾後に一拍置いて起爆する特殊弾で牽制、続く通常弾による追撃で二段構えと見せかけてからの本命の広範囲爆発型の一発。
最後の一発が完全にレイヴンの隙を突いたように見えたが、まだ油断出来ない。
あのレイヴンが、この程度で終わるとは思えない。
以前、ヘルメット団と共に襲撃された際には、完全に上回られてしまったが、あの時以上に、今回は負けられない。
相手の姿は見えないが、気配は感じる。
間違いなく、レイヴンは未だ倒れずにいる。
ならばと、更に追い込む為に黒煙に揺らめく影へと追撃を見舞う。
──その直前に、黒煙の中から何かが飛び出す。
脚だ。
勢い良く繰り出された蹴りは、的確にホシノの頭部を狙っていた。
同時にレイヴンの姿もまた、黒煙から現れる。
全身が煤けている上に、漆黒のコート風の制服もところどころが破け、傷付いた肌が露出している。
激戦続きのレイヴンは、明らかに消耗し、負傷しつつあった。
満身創痍──それでも尚、纏う闘志と戦意は決して弛まず、寧ろ炎のように激しく燃え盛っている。
いや、実際に燃えているのだ。
レイヴンは頭上のヘイローがいつもと違って荒々しく脈打つように歪み、全身に真紅の燻りを宿していた。
以前、ブラックマーケットでも目にした、レイヴンの奥の手──切り札。
レイヴンの蹴りを首を傾げて躱しつつ、サブアームの拳銃で狙いを付ける。
一分の迷いも無く引き金を弾き、射出された銃弾は、しかしまるで先読みされたかのように鮮やかな身のこなしで躱される。
脇腹狙いの連射を身を翻して躱したレイヴンは、流れるような動きで着地と同時に右手のショットガンを乱射する。
乱射と言えど、その散弾の“芯”と言うべき中心部は的確にホシノを捉えている。
その上で、満身創痍でありながら、SGの反動すらをも片手で封じ込めている。
ホシノからして見ても、“バケモノ”と言える所業。
掠める銃弾に肝を冷やしつつもレイヴンの動きに注視する。
その直後、レイヴンの姿が消える。
──否、消えたのではない。
レイヴンは勢い良く、空中へと飛び上がっていた。
一瞬で視界から外れたが為に、消えたように錯覚した。
前方宙返りでホシノの上を取ったレイヴンは、その位置エネルギーと体重とを乗せ、最早単なる鉄塊と成り下がった破損したスナイパーライフルの銃身を両手で握り、銃床を叩き付ける。
ホシノは咄嗟に身を捩り、間一髪で振り下ろされた銃床から逃れる。
銃床が叩き付けられた地面は単なる砂でなく、砂に埋もれた金属の床だったのだが、その表面が衝撃で歪み、割れ、陥没した。
この威力は戦車の装甲をも叩き砕くだろう。
背筋を冷たい汗が伝う。
だが、恐れ慄いている隙は無い。
──私は、対策委員会のみんなを守る為に、その為に、レイヴンと戦うと決めたのだから。
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ホシノの三段構えの銃撃、その最後の本命となる一撃から身を守るには、“残り火”を燃やすしかなかった。
“残り火”による真紅の火で全身を鎧のように覆うことで、私はダメージの軽減に成功する。
それでも、遮断出来るのは火炎による熱ダメージだけで、爆発そのものの衝撃によるダメージは防ぎ切れない。
ここに来て更なるダメージ。
このままでは、ホシノを倒すことは出来ない。
そんな生温い相手ではない。
だからこそ、私は“真紅の火”に加えて、“歯車”を回す。
膂力、反応速度、五感が大幅に向上し、猟犬の導きと鴉の狙いが研ぎ澄まされる。
半ば不意打ち気味の蹴りは躱され、反撃を許すが、それを躱し、SGを連射する。
片手故に、普段はほとんど連射はしないのだが、今は他の武器が壊れてしまい、火力に乏しい。
攻撃出来る時に出来うる限りを込める。
が、銃撃の芯と言える部分を避けられ、掠り傷を与えるに終わる。
有効打を与えられない。
やはり、負傷と疲労の蓄積の兼ね合いで精度が落ちてしまっている。
ならば、と私が選んだのは、咄嗟の思い付き、行き当たりばったりの攻撃。
向上した膂力に物言わせた脳筋的攻撃。
脚力による前方宙返りで相手の上を取り、腕力に加えて位置エネルギーと体重を乗せた全力の叩き付けを見舞う。
だが、これも間一髪で回避され、地面の金属床を叩き割るに終わる。
やはり、ホシノは基本的には私と同じ、回避力を活かした戦闘スタイルのようだ。
正面からの攻撃や、大振りの攻撃は回避されてしまう。
そして、このまま平行線では、消耗している私の方が先に限界を迎えるだろう。
回避型の敵には、回避し切れない物量、或いは、回避を上回る精密性の高い攻撃が求められる。
私の中空からの叩き付けを躱したホシノは、SGの銃口を向ける。
猟犬の導きが警鐘を鳴らす。
咄嗟に、ホシノの銃身の側面を取るように回り込む。
その直後、ホシノのSGから放たれたのは、広範囲長射程を誇る制圧射撃。
間一髪の危機一髪。
今、あれをマトモに食らえば、次は耐えられないかもしれない。
攻撃を回避され、ホシノは苦しげな表情を浮かべる。
向こうにも余裕は無さそうだ。
それを更に追い詰めるべく、私は反撃のSGを振り向き様に乱射する。
真紅の火の強化を受けた銃撃は、生物無機物問わず、着弾と同時に小爆発を起こす。
ホシノは咄嗟に飛び退き、だが、小爆発に巻き込まれる。
しかし、流石は生粋のキヴォトスの住人と言うだけあって、ダメージは軽微だ。
だが、塵も積もれば山となると言うように、掠り傷も積み重なれば有効打となり得る。
畳み掛けるようと一歩踏み出す。
それと同時に猟犬の警鐘。
咄嗟に横に跳べば、その直後に私が立っていた場所が桃色の爆発を起こす。
私が追撃することを先読みして時限式の銃弾を足元に撃ち込んでいたようだ。
それは不発に終わったが、気付けばホシノの姿はスモークグレネードの白煙の中に消えていた。
その中の三方向から飛んで来る桃色の光を纏う三連射撃。
それらを辛うじて躱す。
だが、まだ終わっていない。
白煙の中で光が瞬き、直後、煙を貫いて飛んで来る桃色の光。
先程は、咄嗟に防御するしか無かった。
だが、一度目にし、来ると分かっていれば、対応のしようはある。
そう、回避型であっても、思いがけない攻撃には対応が間に合わない。
──ホシノ、君はこれを回避出来るかな?
私は向かって来る光の銃弾へと、おもむろに左手を翳した。
直後、私の正面に展開されるのは、真紅の障壁。
六角形を組み合わせたハニカム構造の障壁へと、ホシノの光弾が着弾する。
瞬間、中規模の爆発が起き、爆炎が吹き荒れる。
いくら障壁の蔭にいたとは言え、私もその爆炎に飲まれ、ただでは済まない。
だが、それでも、負傷のリスクを負って尚、私がこの障壁を展開したのは、この障壁が単なる防御の為の障壁では無かったからだ。
桃色の爆炎が迸った直後、障壁は真紅の光弾をホシノへと反射する。
《リフレクションシールド》──反射障壁とでも言うべき、この障壁は、触れた攻撃を強化した上で反射する。
反射された真紅の光弾は白煙の中に消え、その直後、白煙を吹き飛ばして爆発を引き起こした。
爆炎と黒煙が揺らめく中、私は立ち上がり、ホシノが居るである方向へと歩き出す。
近づくまでも無く、ホシノの姿が露わとなる。
ホシノは膝を突いていた。
自身の渾身の一撃、それに私の真紅の炎を上乗せしたカウンターを受けて尚、膝を突くに留まっているのは最早、驚嘆を通り越して感嘆する域だ。
それでも、まるで手負いの獣の如き鬼気迫る覇気を放ち、私を睨み、威圧していた。
「まだ、だよ…レイヴン…私はまだ…こんなものでは、倒れない…!倒れられないんだッ!!」
ホシノはふらつきながらも立ち上がり、右手にショットガン、左手にハンドガンを構える。
正直、私自身も限界ギリギリである為、勘弁して欲しいが、ホシノが止まらないのであれば、私もそれに付き合うしかない。
「……分かった。なら、決着を付けよう、ホシノ。どちらかが倒れるまで…勝敗が決まるまで…!」
私は唯一、手の中に残るショットガンを手にし、身構える。
私たちは互いに睨み合う。
依然として、私が不利な状況には変わりない。
“歯車”と“残り火”を発動しているとは言え、私が消耗している上に、二回目であるが故に出力が落ちている。
武器もショットガン一つと、打撃以外には使えない鉄塊となったスナイパーライフル。
対してホシノは、装備は十全、有効打は与えられたが、スタミナ的にもまだ余裕があるだろう。
予断を許さない状況だ。
この状況を覆すには──ホシノを上回るには、更なる力が必要だ。
今度こそ、この戦いに終止符を打つ力を。
そうなれば、私に残された手段は、“最後の切り札”しか無い。
“残り火”の奥義──《追憶》を燃やす。
そして、その“対象”は、奇しくも人型の相手との戦闘──対人戦に向いたものだった。
レイヴンとホシノ、両方を引き立たせる描写を描かないといけないのが難しいところだな…。
覚悟は良いか?俺は出来てる…。
ひぃん…。