ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ
レイヴンVSホシノ戦、拮抗


EP-76 尽力戦

一方、基地の外では、対策委員会の三人と便利屋の四人、それにプラス

してヒフミの八人がインカム越しに様子見と打ち合わせを行っていた。

 

「先生、アヤネ、中の様子…二人の戦いの状況はどんな感じ?」

 

先生の説得の甲斐もあり、一先ずは対策委員会と便利屋の面々がイヴとホシノの戦いに割り込みそうな勢いはなくなった。

 

『[“イヴの方は激戦に次ぐ激戦で良い状況とは言えない、かな。負傷もしてるし、武器もショットガン一つで戦ってる”』

 

逆に言えば、そんな状態でもイヴは、ほぼ万全の状態であろうホシノと渡り合うことが出来ている。

 

それでも、否、だからこそ、下手に加勢すれば、現在の危うい均衡の元に成り立っている戦闘を崩壊させかねない。

 

『私としても、無策でこの状況に割り込むのはやめておいた方が良いかと思います…。きっと、レイヴンの負担を増やすことになってしまうでしょうから…』

 

インカムから届くアヤネの声は、無力感と悔しさに震えている。

 

本来であれば、物資の支援や戦闘の支援を行いたい筈だ。

 

それが出来ないのは、意識外からの介入とは、良くも悪くも、集中力を削ぐことになってしまうからだ。

 

それは、この状況に当て嵌めればホシノであり、イヴだ。

 

事態が好転するきっかけにもなり得るが、その反対に転ぶ可能性も看過出来ない。

 

だからこそ、相応の策が必要となる。

 

「イヴは兎も角、ホシノ先輩がそんなに強いなんて…知らなかった…」

 

機会が無かったと言えばそれまでだが、それほど差し迫る状況は訪れなかったのだろう。

 

強いて言えば、ヘルメット団の襲撃でのレイヴンとの戦闘だが、あの時はホシノは全力を出す前に伸されてしまった。

 

その前に、ヘルメット団の猛攻で多少は消耗していたと言うのもあったのだろうか?

 

奇しくも、今回はその時とは真逆。

 

消耗したイヴを万全のホシノが襲撃した形になる。

 

それでも、消耗して尚、万全のホシノと拮抗できるイヴの戦闘力の高さは、思った以上に突出しており、異常な程だ。

 

『そうだね…でも、よく考えたら、私たちやノノミ先輩達が来るまでは、ホシノ先輩一人だけだったんだから、強いのは納得と言うか…』

 

「……」

 

そんなセリカとアヤネの言葉に、ノノミはどこか困ったような、悲しそうな表情を浮かべる。

 

だが、その表情について真意を追求する者は、この場所にはいなかった。

 

ノノミの胸中に秘めた想いは、風に吹かれた砂のように流されて行く。

 

「数で攻めるのはダメなのかしら?」

 

うーん、と唸りながら提案したのはアル。

 

「アルちゃーん、レイヴンに数で当たってボロ負け寸前に投降したの忘れたのー?」

 

呆れ気味のムツキがツッコミ、アルはあっ、と思い至る。

 

「ホシノさんもイヴさんと同じくらい強いという事ですよね…」

 

ハルカが相変わらずの恐る恐ると言った風に溢す。

 

二頭の凶暴な猛獣の縄張り争いに割り込むようなものだ。

 

ましてや、それが二頭の猛獣に劣る獣では…ただでは済まない。

 

『彼らの戦いに割り込むのは、私も推奨しません』

 

ブツッと、便利屋のインカムにノイズが走り、届いた声。

 

それは他でも無い、先生の側にいるチナツのものだった。

 

「アンタは風紀委員の…詳しく聞かせて貰おうか」

 

カヨコの要求に、チナツは一拍の間を置いて説明を始める。

 

その言葉に、カヨコだけでなく、他の便利屋の面々も耳を傾ける。

 

『私は、先生の横で戦闘の映像を見させていただいていますが、彼女たちはウチの委員長に比肩、下手をすると凌駕するレベルの強さに思います』

 

チナツは努めて淡々と感想を告げるが、言葉の端からは僅かな震えが感じ取ることが出来た。

 

それは、今尚、激戦を繰り広げる二人の戦いを目にしているチナツの、二人に対する恐れの感情だったろうか。

 

「えぇっ!?ヒナと同等!?それ以上!?冗談じゃないわよ!?」

 

最早、お約束とも言えるような、気持ちの良いリアクションで白目を剥くアルはご愛嬌だ。

 

「イヴに関しては、まあ分かってたけど…相手もそのクラスだったとはね…伊達にアビドスの年長者はやってない、か…」

 

カヨコ自身は、ホシノが実力者であることは元々、知ってはいた。

 

だが、具体的な実力に関しては測りかねていた。

 

まさか、便利屋を壊滅寸前まで追い込んだレイヴンクラスの実力者だったとは。

 

ヘタをすると、アビドス襲撃の依頼の際に、ホシノにまで壊滅させられていたかもしれない可能性が浮上するとは予想外だった。

 

「二人の間に割り込むのはー、自殺行為って訳だね〜。クフフ〜♪」

 

ムツキが頭を抱えるアルに追い打ちを掛ける様子は最早、恒例行事だ。

 

「で、でも、どうしましょう?イヴさんは旗色が悪いんですよね?このままじゃあ…」

 

ハルカの懸念の言葉に、白目を剥いていたアルも、そのアルを弄り倒していたムツキも、真面目な表情になる。

 

「そうですね…どうにかイヴさんを支援することは出来ないでしょうか?」

 

これまでの話を聞いていたヒフミも、状況を重く受け止め、考えを巡らせる。

 

暫しの沈黙が流れる。

 

「…先生、さっきの話だけど」

 

その沈黙を破ったのは、シロコだった。

 

「私は、イヴが任せてって言ったのなら信じる。イヴならきっと、ホシノ先輩を傷付けずに止めてくれる。でも、ちゃんと託したい。だから──」

 

*****************************

 

エアが操る変異コーラル侵食体との戦闘を経て、満身創痍のところへのホシノの襲撃。

 

恐らく、ホシノの本意ではない、何者かの思惑──推定カイザーの謀略が絡んでいるのだろうが…私もただでやられることは出来ない。

 

私にも、為すべきことがある。

 

エアを止め、引導を渡し、コーラルを焼滅させる。

 

その為にも、此処で倒れる訳にはいかない。

 

だが、満身創痍の身では“歯車”と“残り火”を使っても、万全のホシノに打ち勝つことは出来ない。

 

だからこそ、私は“残り火”の奥義、《追憶》を燃やすことを決意する。

 

──その直後だった。

 

『レイヴン!!受け取ってください!!』

 

突如、インカムから、アヤネの声が届く。

 

それと同時に、頭上に近付く飛来物。

 

恐らくは、アヤネのドローンだろう。

 

何を渡そうとしているのかは不明だが、その物資を受け取る隙をホシノは逃さないだろう。

 

物資補給を妨害し、同時にその隙を好機とし、畳み掛けて来る筈だ。

 

思った通り、ホシノは動き出す。

 

アヤネの支援を妨害し、私の隙を突く為に。

 

──そのホシノが何かを察知したかのように唐突に仰け反る。

 

瞬間、ホシノの顔があった空間の前を銃弾が通り過ぎる。

 

今の銃撃…いや、狙撃は──。

 

 

 

 

 

「ええぇえっ!?何今の回避!?こっちが撃つ前に躱されたんだけど!?威嚇射撃だったけどね!」

 

狙撃の主は、基地を囲う防壁の上に登ったアルだった。

 

 

 

 

 

 

その反対方向からは、回避行動を取ったホシノへとムツキがカバンを放り投げる。

 

「そぉれぇ!!」

 

側にはハルカが控え、その手には起爆スイッチが握られていた。

 

「爆破しますっ!!」

 

直後、ホシノの頭上で爆発が起き、同時に発生した眩い白光が空間を白く塗り潰した。

 

 

 

 

 

 

それらの行動の意図を私は的確に察する事が出来た。

 

私はホシノから距離を離すように咄嗟に飛び退き、頭上のドローンへと目を向ける。

 

ドローンから落とされたのは、二つの長い物体。

 

私は右手のショットガンを咄嗟に腰に納め、落ちて来た二つの物体──銃を受け止めた。

 

私の両手に収まった二つの銃はそれぞれ、シロコのアサルトライフルと、カヨコのハンドガンだった。

 

その直後、再びインカムから声が届く。

 

『イヴ、“ちゃんと返して”、ね』

 

届いたのはカヨコの声だった。

 

そして、その言葉が意味するのは──。

 

「…うん、ありがとう。少しだけ借りるね」

 

そう告げると、カヨコから返事は無かったが、満足したようで通信が切れる。

 

だが、続けて別の通信が届いた。

 

『[“イヴ、戦いの後のことは()()()に任せて。だからお願い。ホシノを止めて!”]』

 

先生の声だった。

 

私は以前、先生に告げた。

 

私は戦う事しか出来ない、だから、代わりに生徒を救うのは先生に任せる、と。

 

そのことを思い出し、私はインカムの向こうの先生へと返した。

 

「ああ、任せろ」

 

短く、端的に告げ、私は右手にシロコのAR、左手にカヨコのハンドガンを手にしてホシノに意識を向ける。

 

ホシノは、アル、ムツキ、ハルカの妨害を受けて一時的に止まったが、再び真っ直ぐ、私へと向かって来ていた。

 

その表情は、切羽詰まっていた。

 

何が何でも、私を倒すという気迫が迸っていた。

 

──でも、ホシノ。

 

その先に、喜劇は無い。

 

企業の言いなりになって、悪辣な大人に迫られた選択を選んだ先には、悲劇しか無い。

 

かつての、私のように。

 

このキヴォトスに、そんな悲劇はあってはならない。

 

だから、ホシノ。

 

私は、あなたを倒し、この戦いに勝つ。

 

──類稀なる強者の追憶に火を灯す。

 

対象、《古き傭兵の追憶》。

 

それは、かつてのルビコンにて、私の前に立ちはだかった傭兵の一人。

 

“第一世代強化人間”、独立傭兵《スッラ》の記憶。

 

****************************

 

やっぱり、レイヴンを倒すのは一筋縄ではいかない、か。

 

分かってはいたけど、想像以上だ。

 

その上で、後方支援まで許してしまった。

 

狙撃と爆撃の目眩しは便利屋の協力によるものだろう。

 

──便利屋のみんなとも協力出来てるみたいで良かった。

 

きっと、他にも、先生の協力があってこそだろうけど、多くの子たちが対策委員会に協力してくれていることだろう。

 

レイヴンの手には、シロコちゃんのアサルトライフルと、便利屋の課長ちゃんのハンドガンが握られている。

 

ショットガンだけでも十分に渡り合えていたのに、更にそこに二つも武器が追加された。

 

レイヴンが複数の武器を巧みに使いこなすことが出来るのは、身を以て知っている上に、何度も見てきた。

 

こちらの武装が万全で、向こうが連戦続きの満身創痍と言えど、戦闘の激化は想像に難くない。

 

それでも、私は──。

 

意を決して、地面を蹴る。

 

レイヴンの脅威は、その回避力。

 

どれだけ密度の高い弾幕を撃っても、まるで読まれているかのように無傷、或いは軽傷で凌がれる。

 

もしくは先程、痛手を受けた反射障壁。

 

あんなものを隠しているのでは、下手に距離を取って撃ったところで、躱されるか、手痛い反撃を受ける。

 

それならば、接近戦で打撃や格闘も織り交ぜつつ、好機を狙う。

 

レイヴンへと、距離を詰めながら、牽制のハンドガンによる連射を見舞う。

 

それに対し、レイヴンは──。

 

消えたかと錯覚するような速度で銃撃を回避しつつ、側面へと回り込んで来た。

 

まさか、ここに来て更に速度を上げて来るとは。

 

だが、それでも見切れる。

 

追い付ける速度だ。

 

私の左側を取るようにして肉薄したレイヴンは、速度を利用した回し蹴りを繰り出す。

 

恐ろしく速く、正確な、脚の鎌とでも言うべき一撃が、私の側頭部から首に掛けてを狙い、飛んでくる。

 

咄嗟に体勢を低くして躱し、反撃にショットガンの通常射撃による連射を見舞う。

 

攻撃の後隙を狙った反撃だったが、それは向こうも承知。

 

レイヴンは脚を振り抜いたところから一瞬にして体勢を低くする。

 

私の反撃は空を切る。

 

やはり、明らかにレイヴンの動きのキレが増している。

 

レイヴンは私の反撃を躱した低姿勢の状態から、左手のショットガンの銃口を私へと向ける。

 

滑らか過ぎる武装の持ち替え。

 

いつの間にか、ハンドガンからショットガンへと持ち替えている。

 

レイヴンのショットガンから火花が弾ける。

 

私は後ろに退くように身を捻り、弾道から外れる。

 

だが、これでレイヴンとの密着状態が解けてしまった。

 

そうなれば──。

 

私は勘と経験に従うままに、体勢を立て直しつつ、振り向き様にハンドガンをレイヴンへと向ける。

 

その先には、同じようにショットガンをハンドガンに持ち替えたレイヴンが、私へと銃口を向けていた。

 

引き金を弾いたのは恐らく同時。

 

互いの銃口から火花が散り、銃弾が互いに向かって空間を切り裂く。

 

それは一発では終わらず、二、三、四、五、と続く。

 

私とレイヴンは互いに互いの銃弾を躱しながら撃ち続け、武器を切り替えるタイミングはこちらが早かった。

 

それでも、武装の切り替えが遅れたレイヴンは、恐ろしく滑らかな速度で一瞬にしてハンドガンを納めた。

 

そこへ、私は愛用のショットガン、『Eye of Horus』による連続速射を撃ち込む。

 

尚もレイヴンは身軽に躱すが、これは牽制に過ぎない。

 

“本命”の為の布石、スモークグレネードをレイヴンの眼前へと放る。

 

それは真っ白な煙を吐き出し、視界を奪う。

 

レイヴンの姿が白煙に霞む。

 

そこへ、私は“本命”たる、“制圧射撃”を見舞う。

 

広範囲長射程の三連射。

 

だが、その第一射の直前で、レイヴンを覆っていた白煙は真っ二つに切り裂かれる。

 

切り裂いたのは、右手に持つシロコちゃんのアサルトライフルを使用した掃射。

 

視界を明瞭にしたところに、制圧射撃の第一射が放たれる。

 

だが、レイヴンは僅かな赤光の残滓を残しながら、一瞬にして真横に飛び、範囲から逃れる。

 

それは正しく、瞬間移動だった。

 

続く第二射に対し、レイヴンは逃れるところか、逆に突っ込んで来た。

 

だが、ある意味でそれは正しい。

 

散弾と言うのは基本、放射状に広がる。

 

だからこそ、有効射程圏内に限れば、銃口から離れているほど範囲が広く、逆に近ければ狭くなる。

 

それは、この制圧射撃であっても同じことだ。

 

そして、レイヴンは見事に、その放射状の範囲のギリギリ外側を抜けて迫って来ている。

 

だが、普通は分かっていても出来ない事だ。

 

それを平然とやってのける。

 

その胆力があるからこそ、ほぼ目の前に突き付けられた第三射までも、体を逸らすだけで躱して見せる。

 

ここまで、一秒にも満たないほんの一瞬の出来事だった。

 

肉薄したレイヴンが、手にしたショットガンの銃口を私へと向ける。

 

やはり、レイヴンは。

 

──イヴちゃんは強いなぁ…。

 

だからこそ、()()()

 

イヴちゃんなら、きっと、()()()()()()()──。

 

対策委員会のみんなを護ってくれる。

 

私は、自身の敗北と、運命を受け入れるように、瞼を閉じた。




レイヴンVSホシノ、ついに決着!?

ホシノの運命やいかに──!?
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