レイヴンVSホシノ、決着…?
《古き傭兵の追憶》から得られたモノは、以前の《大型武装戦闘機》や《壁の守護者》のような、“力”ではなかった。
言うなれば、それは“技”。
人が戦う為に積み重ね、研鑽した先にある“業”。
今はまだ、完全には記憶が燃えていない為に、その追憶の主を思い出すことが出来る。
独立傭兵、スッラ。
ルビコンでのコーラル争奪戦の序盤に私の前に立ちはだかった強敵の一人。
ウォルターと浅からぬ因縁があったようだが、結局ウォルターは詳しいことは話さなかった。
正直、スッラに対し、良い思いは抱いていない。
苦戦させられた程度なら特に思う事は無いが、ヤツは戦いの最中、口を開けば常に戦っている私ではなく、ウォルターに対し、精神攻撃として嫌味や煽りを重ね、動揺を誘い続けた。
勿論、戦いに於いて、その手段が有効であることは重々、承知している。
その上で、不快感と怒りを抱かずにはいられなかった。
それでも、スッラは死んだ。
私自身の手で殺した。
今はもう、不快感も怒りも感じない。
今はただ、私を苦しめたその戦闘技術を私自身の糧にするだけだ。
スッラの追憶を燃やし、得られたものは、言わば《“狩り”の技術》。
相手の不利を突き、自身の有利を押し付ける為の業。
“狩り”とは、対等では無い。
有利な者が“狩人”となり、不利な者が“獣”となる。
しかし、その天秤は不安定であり、“狩るもの”と“狩られるもの”は常に入れ替わる可能性を孕んでいる。
言わば、“狩人”と“獣”とは、表裏一体のコインなのだ。
そして、狩人は常に獲物を捉え続け、最小限の消耗、最高の効率で獣を仕留める。
《狩り》の業は、私の“鴉の眼”の効果を高め、また敏捷性や機動力を向上させる。
攻撃や防御だけでなく、移動や回避にまで真紅の火が発動し、その軌跡には真紅の光芒が閃く。
性能が向上した私に、それでもホシノは食い下がり続ける。
追憶を燃やさなければ、きっと私が先に力尽きていたことだろう。
戦闘に於ける経験や、そこから来る技術は私の方が上だろう。
だが、ヒナやホシノと言ったキヴォトスの強者は、その差を生まれついての“力”で埋める。
仮に“神秘”と呼んでいる、キヴォトス特有の人智を超えた力だ。
それは耐久力であり、膂力であり、エネルギーを纏う光弾だ。
ホシノのスモークグレネードの白煙が私の視界を遮る。
ホシノに関しては、“力”だけでなく、“技”についても長けている。
戦闘力ではなく、戦闘技術と呼ばれる分野だ。
それは、先天的なものではなく、また、一朝一夕で身に付くようなものではない。
視界が遮られていても、“猟犬の耳”はホシノの気配を捉え続けている。
右手のシロコのアサルトライフルの掃射で白煙を切り裂く。
その直後に、ホシノの広範囲長射程射撃が放たれる。
それが三回まで続くことを知っている。
故に、生半可な回避は出来ない。
最初から全力で回避に徹する。
軌道と範囲は“猟犬の導き”によって読めている。
その範囲から逃れるように、横に勢い良く飛ぶ。
イメージはACでのクイックブースト。
クイックブーストをイメージした回避は今、までもやって来たことだが、挙動を真似たものに過ぎなかった。
今回は更にそれに、真紅の火の力を乗せる。
足元での爆発による推進力の獲得。
先程のエア戦でもやっていたことだが、前回と違うのは、その強さ。
爆発によって得られる推進力は確かに高いが、その分、小回りが利かず、制御が難しい。
言うなれば、それはACで言うところのアサルトブーストだった。
そこで、私は追憶から得られた狩りの業を活かし、最低最小限で効果を発揮出来るように挑戦する。
足元の火を爆発させるのではなく、小さく弾けさせる。
それにより、一瞬の推進力を得ながらも、それは即座に鎮まる。
その動きは正しくクイックブーストと呼ぶに相応しい。
真紅の火によるクイックブーストによって、ホシノの放射射撃の範囲から逃れる。
続く第二射は、範囲ギリギリを掠めるように前へとアサルトブーストで攻め込む。
ホシノの目と鼻の先まで接近したところで第三射が放たれるが、向けられた銃の斜め横に割り込むように半身で躱す。
私は更に、触れ合えてしまいそうな程まで肉薄し、ショットガンの銃口をホシノへと向ける。
──ホシノは、まるで敗北を受け入れるかのように目を閉じた。
引き金を弾き、私のショットガンが火花を噴き出す。
だが、私のショットガンの銃弾は、ホシノの頬を掠めるように外れた。
──いや、そうなるように、私自身の意思で射線を外した。
外れた銃弾は、ホシノの後方の地面や壁に衝突し、複数の小爆発を起こした。
ホシノ自身も、私の攻撃が外れたことを理解したのだろう。
恐る恐る、瞼を上げる。
ホシノの顔に浮かんでいたのは、困惑と驚愕が混ざったような表情だった。
「どう、して…」
“歯車”も“残り火”も、全てを解除した私はそんなホシノに微笑みかけると──。
無言のまま、その鼻っ柱に頭突きした。
「ふげぇ!?」
ホシノは情けない悲鳴を上げて仰け反り、その場に尻餅を着いた。
「いっ、痛ったぁ!?何すんのさ!?」
赤くなった鼻を押さえ、ホシノは涙目で私に抗議する。
かく言う私自身も、無傷ではなく、額に手を添えながらホシノを見下ろす。
私とホシノの視線が交差する。
ホシノは憎々しげに上目遣いに私を睨む。
だが、その表情には、先程までの追い詰められたような鬼気迫る雰囲気は無かった。
それを確認し、私は改めてホシノに声を掛ける。
「これで、気は済んだ?」
私の言葉に、ホシノは面食らった顔になった後、視線を伏せた。
「……どうして、当てなかったの?情けのつもり?」
「私がホシノを倒す理由がないから」
「言ったはずだよ。君を倒すって」
「それなら何で、最後、諦めたように目を閉じたの?」
「それは……」
そこでホシノの反論は途切れる。
あの瞬間、ホシノは自ら敗北しようとしていた。
倒されることを受け入れていた。
私は、そんな風に感じた。
その理由は、きっと自己犠牲だろう。
「…私は、カイザーの傭兵だから。奴らの言うことを聞かなきゃいけない。でも、私が居なくなれば…それで全部、丸く収まるって思ったんだ…」
大体の経緯が読めた。
おそらくカイザーは、アビドスを人質に、私を倒すようにホシノに迫ったのだろう。
企業の考えそうなことだ。
それであわよくば、不穏分子のホシノ共々、相打ちで無力化と言うのがカイザーの望んだシナリオだろう。
かつてのルビコンで、アーキバスが私とラスティを騙して同士討ちさせたように。
何処に行っても、企業は変わらない。
──けれど、ホシノはもう、そんな企業の思惑に振り回される必要はない。
「ホシノはもう、カイザーの傭兵なんかじゃないよ」
私の言葉に、ホシノがゆっくりと顔を上げる。
その表情は、戸惑いと驚き、そして少しばかりの期待。
「え?それってどういう…」
「私はここに来る前に、カイザーと取引していたんだ。元理事の暴動を止められたら、ホシノを解放するようにね」
それは、私がミレニアムにシロコのドローンを依頼する前、先生との病室での会話の後のことだった。
私は、自身に振り込まれる報酬金の代わりに、ホシノの解放を望んだ。
ホシノは理解が追いついていないようで、呆然としている。
「カイザーは、案外あっさりと了承したよ。好きにすると良い、ってね」
思えば、カイザーがすんなりと私の要求を飲んだのは、この襲撃を見越してのことだったのかもしれない。
実際に、ホシノのこともどうでも良かったのかもしれないが。
「ホシノも好きにすると良い。私のやるべきことは終わった。あとは、
私はホシノに背を向け、出口へと歩き出す。
「あいつら…?あ──」
出口付近には、既に役者が揃っていた。
アビドス対策委員会と先生。
シロコと目が合い、私が頷くと、頷き返す。
「銃、ありがとう」
「ん、困ってる時はお互い様」
駆け寄って来たシロコに銃を返し、そのままシロコは通り過ぎて行く。
私の横をシロコを先頭に対策委員会のメンバーが通り過ぎて行く。
「ったく、もう、ボロボロじゃない!ちょっとは自分の身を労りなさいよね!」
「このくらい掠り傷だよ」
「イヴちゃん、後でちょーっと“お話”、しましょうね?」
「手短に頼む」
「イヴちゃん!私からも話がありますからね!」
「はいはい」
私を心配するセリカ、ノノミ、アヤネの言葉を聞き流しながら、適当に言葉を返してすれ違う。
三人とも不満そうだったが、今は私よりも優先すべき事がある。
[“お疲れ、イヴ。ありがとう”]
そこに先生もまた、声を掛けてくる。
「私は私の仕事をしただけ。あとは頼んだ」
[“私の出番は無いかもしれないけど、任せて”]
荒事──戦闘は終わらせた。
あとは、先生が導くだろう。
この歪みかけた物語を喜劇の終幕へと。
それを信じ、私が出口に辿り着くと、そこには便利屋四人が待っていた。
「また、随分とこっ酷くやられたね」
先んじて声を掛けて来たカヨコに、銃と共に返事を返す。
「このくらいなんてことない」
「そんな訳ないでしょ!?もう、いつもいつも無茶ばっかりするんだから!!」
そんな私をまるで母親かのように叱ったのはアル。
「くふふ〜、これじゃあ、また病院に逆戻りだね〜♪でも、元気そうで何より♪」
ムツキはいつも通りに、おちょくって来る。
それが逆に、安心感を覚えさせる。
「い、イヴさん!その、お疲れ様です!でも、私もアル様と同じ気持ちです!あ、あんまり無理はしないでください…」
ハルカが目元に涙を浮かべながら、上目遣いで懇願するように見詰めてくる。
流石の私も、これには罪悪感を感じずにはいられなかった。
「ま、そう言うことだから、あんまり周りに心配させないように。ただでさえ一回、倒れてるんだからね」
私の罪悪感を見透かしたように、カヨコが締める。
便利屋四人の視線が私に集まり、居た堪れなくなる。
「…分かってるよ…」
私は逃げるように視線を外し、壁に寄り掛かりながら、アビドスの元へと視線を向ける。
ホシノの選択、そして、物語の結末を見届ける為に。
ホシノと対策委員会、そして先生の六人が向かい合っている。
暫く無言で向かい合い、シロコが一歩、ホシノに歩み寄る。
「ホシノ先輩」
「シロコちゃん…」
真っ直ぐ見据えるシロコに対し、ホシノはバツが悪そうに視線を外す。
「…アビドスはいつも脅かされて、ずっと奪われ続けて来た。そんな理不尽な境遇だったけど、私たちはみんなで力を合わせて抗い続けた」
シロコはホシノを諭すように、淡々と言葉を紡ぐ。
「まだ捨てるには早いよ、ホシノ先輩。先輩が背負っているもの、私たちにも背負わせて欲しい。私たちは、たった五人だけのアビドス生徒でしょ?」
シロコの言葉に、ホシノが顔を上げる。
その表情は、柔らかく穏やかに緩んでいた。
「だから、帰ろう、一緒に。私たちの学校へ!」
ホシノがゆっくりと立ち上がる。
しかし、その顔には影が落ちていた。
「ありがとう、シロコちゃん。気持ちは嬉しいけど、私は学校を退学──」
[“ホシノ”]
先生がホシノに声を掛け、何かの用紙を取り出す。
それは恐らく、ホシノが置いていったという退学届だろう。
[“顧問の私が承認していないから、退学は無効。だから、ホシノは今でも、アビドス高校の生徒だし、対策委員会のメンバーに変わりないんだよ”]
先生の言葉に、ホシノは唖然と固まった後、困ったような笑みを浮かべた。
「あ…あはは、そっか…。みんなが、先生が…大人が、ね…はは…」
「お、おかえりっ!先輩!!」
「ああっ!セリカちゃんに先を越されてしまいました!恥ずかしいから言わないって言ってたのに、ズルいです!」
「う、うるさいうるさいっ!順番なんてどうでもいいでしょ!」
「…無事でよかった」
「ホシノ先輩、おかえりなさい!」
「おかえりなさい、です!!」
「おかえり、ホシノ先輩」
「あはは…何だかみんな、期待に満ちた表情だけど…求められてるのは、あのセリフ?」
「ああもうっ!わかってるなら焦らさないでよ!」
「うへ〜…全く、可愛い後輩たちのお願いだし、仕方ないなぁ…」
「ただいま」
これにて、レイヴンVSホシノ、決着です
そしてホシノ。おかえり