ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ
レイヴンVSホシノ、決着…?


EP-77 帰結の一幕

《古き傭兵の追憶》から得られたモノは、以前の《大型武装戦闘機》や《壁の守護者》のような、“力”ではなかった。

 

言うなれば、それは“技”。

 

人が戦う為に積み重ね、研鑽した先にある“業”。

 

今はまだ、完全には記憶が燃えていない為に、その追憶の主を思い出すことが出来る。

 

独立傭兵、スッラ。

 

ルビコンでのコーラル争奪戦の序盤に私の前に立ちはだかった強敵の一人。

 

ウォルターと浅からぬ因縁があったようだが、結局ウォルターは詳しいことは話さなかった。

 

正直、スッラに対し、良い思いは抱いていない。

 

苦戦させられた程度なら特に思う事は無いが、ヤツは戦いの最中、口を開けば常に戦っている私ではなく、ウォルターに対し、精神攻撃として嫌味や煽りを重ね、動揺を誘い続けた。

 

勿論、戦いに於いて、その手段が有効であることは重々、承知している。

 

その上で、不快感と怒りを抱かずにはいられなかった。

 

それでも、スッラは死んだ。

 

私自身の手で殺した。

 

今はもう、不快感も怒りも感じない。

 

今はただ、私を苦しめたその戦闘技術を私自身の糧にするだけだ。

 

スッラの追憶を燃やし、得られたものは、言わば《“狩り”の技術》。

 

相手の不利を突き、自身の有利を押し付ける為の業。

 

“狩り”とは、対等では無い。

 

有利な者が“狩人”となり、不利な者が“獣”となる。

 

しかし、その天秤は不安定であり、“狩るもの”と“狩られるもの”は常に入れ替わる可能性を孕んでいる。

 

言わば、“狩人”と“獣”とは、表裏一体のコインなのだ。

 

そして、狩人は常に獲物を捉え続け、最小限の消耗、最高の効率で獣を仕留める。

 

《狩り》の業は、私の“鴉の眼”の効果を高め、また敏捷性や機動力を向上させる。

 

攻撃や防御だけでなく、移動や回避にまで真紅の火が発動し、その軌跡には真紅の光芒が閃く。

 

性能が向上した私に、それでもホシノは食い下がり続ける。

 

追憶を燃やさなければ、きっと私が先に力尽きていたことだろう。

 

戦闘に於ける経験や、そこから来る技術は私の方が上だろう。

 

だが、ヒナやホシノと言ったキヴォトスの強者は、その差を生まれついての“力”で埋める。

 

仮に“神秘”と呼んでいる、キヴォトス特有の人智を超えた力だ。

 

それは耐久力であり、膂力であり、エネルギーを纏う光弾だ。

 

ホシノのスモークグレネードの白煙が私の視界を遮る。

 

ホシノに関しては、“力”だけでなく、“技”についても長けている。

 

戦闘力ではなく、戦闘技術と呼ばれる分野だ。

 

それは、先天的なものではなく、また、一朝一夕で身に付くようなものではない。

 

視界が遮られていても、“猟犬の耳”はホシノの気配を捉え続けている。

 

右手のシロコのアサルトライフルの掃射で白煙を切り裂く。

 

その直後に、ホシノの広範囲長射程射撃が放たれる。

 

それが三回まで続くことを知っている。

 

故に、生半可な回避は出来ない。

 

最初から全力で回避に徹する。

 

軌道と範囲は“猟犬の導き”によって読めている。

 

その範囲から逃れるように、横に勢い良く飛ぶ。

 

イメージはACでのクイックブースト。

 

クイックブーストをイメージした回避は今、までもやって来たことだが、挙動を真似たものに過ぎなかった。

 

今回は更にそれに、真紅の火の力を乗せる。

 

足元での爆発による推進力の獲得。

 

先程のエア戦でもやっていたことだが、前回と違うのは、その強さ。

 

爆発によって得られる推進力は確かに高いが、その分、小回りが利かず、制御が難しい。

 

言うなれば、それはACで言うところのアサルトブーストだった。

 

そこで、私は追憶から得られた狩りの業を活かし、最低最小限で効果を発揮出来るように挑戦する。

 

足元の火を爆発させるのではなく、小さく弾けさせる。

 

それにより、一瞬の推進力を得ながらも、それは即座に鎮まる。

 

その動きは正しくクイックブーストと呼ぶに相応しい。

 

真紅の火によるクイックブーストによって、ホシノの放射射撃の範囲から逃れる。

 

続く第二射は、範囲ギリギリを掠めるように前へとアサルトブーストで攻め込む。

 

ホシノの目と鼻の先まで接近したところで第三射が放たれるが、向けられた銃の斜め横に割り込むように半身で躱す。

 

私は更に、触れ合えてしまいそうな程まで肉薄し、ショットガンの銃口をホシノへと向ける。

 

──ホシノは、まるで敗北を受け入れるかのように目を閉じた。

 

引き金を弾き、私のショットガンが火花を噴き出す。

 

 

 

 

 

だが、私のショットガンの銃弾は、ホシノの頬を掠めるように外れた。

 

──いや、そうなるように、私自身の意思で射線を外した。

 

外れた銃弾は、ホシノの後方の地面や壁に衝突し、複数の小爆発を起こした。

 

ホシノ自身も、私の攻撃が外れたことを理解したのだろう。

 

恐る恐る、瞼を上げる。

 

ホシノの顔に浮かんでいたのは、困惑と驚愕が混ざったような表情だった。

 

「どう、して…」

 

“歯車”も“残り火”も、全てを解除した私はそんなホシノに微笑みかけると──。

 

無言のまま、その鼻っ柱に頭突きした。

 

「ふげぇ!?」

 

ホシノは情けない悲鳴を上げて仰け反り、その場に尻餅を着いた。

 

「いっ、痛ったぁ!?何すんのさ!?」

 

赤くなった鼻を押さえ、ホシノは涙目で私に抗議する。

 

かく言う私自身も、無傷ではなく、額に手を添えながらホシノを見下ろす。

 

私とホシノの視線が交差する。

 

ホシノは憎々しげに上目遣いに私を睨む。

 

だが、その表情には、先程までの追い詰められたような鬼気迫る雰囲気は無かった。

 

それを確認し、私は改めてホシノに声を掛ける。

 

「これで、気は済んだ?」

 

私の言葉に、ホシノは面食らった顔になった後、視線を伏せた。

 

「……どうして、当てなかったの?情けのつもり?」

 

「私がホシノを倒す理由がないから」

 

「言ったはずだよ。君を倒すって」

 

「それなら何で、最後、諦めたように目を閉じたの?」

 

「それは……」

 

そこでホシノの反論は途切れる。

 

あの瞬間、ホシノは自ら敗北しようとしていた。

 

倒されることを受け入れていた。

 

私は、そんな風に感じた。

 

その理由は、きっと自己犠牲だろう。

 

「…私は、カイザーの傭兵だから。奴らの言うことを聞かなきゃいけない。でも、私が居なくなれば…それで全部、丸く収まるって思ったんだ…」

 

大体の経緯が読めた。

 

おそらくカイザーは、アビドスを人質に、私を倒すようにホシノに迫ったのだろう。

 

企業の考えそうなことだ。

 

それであわよくば、不穏分子のホシノ共々、相打ちで無力化と言うのがカイザーの望んだシナリオだろう。

 

かつてのルビコンで、アーキバスが私とラスティを騙して同士討ちさせたように。

 

何処に行っても、企業は変わらない。

 

──けれど、ホシノはもう、そんな企業の思惑に振り回される必要はない。

 

「ホシノはもう、カイザーの傭兵なんかじゃないよ」

 

私の言葉に、ホシノがゆっくりと顔を上げる。

 

その表情は、戸惑いと驚き、そして少しばかりの期待。

 

「え?それってどういう…」

 

「私はここに来る前に、カイザーと取引していたんだ。元理事の暴動を止められたら、ホシノを解放するようにね」

 

それは、私がミレニアムにシロコのドローンを依頼する前、先生との病室での会話の後のことだった。

 

私は、自身に振り込まれる報酬金の代わりに、ホシノの解放を望んだ。

 

ホシノは理解が追いついていないようで、呆然としている。

 

「カイザーは、案外あっさりと了承したよ。好きにすると良い、ってね」

 

思えば、カイザーがすんなりと私の要求を飲んだのは、この襲撃を見越してのことだったのかもしれない。

 

実際に、ホシノのこともどうでも良かったのかもしれないが。

 

「ホシノも好きにすると良い。私のやるべきことは終わった。あとは、()()()()に任せる」

 

私はホシノに背を向け、出口へと歩き出す。

 

「あいつら…?あ──」

 

出口付近には、既に役者が揃っていた。

 

アビドス対策委員会と先生。

 

シロコと目が合い、私が頷くと、頷き返す。

 

「銃、ありがとう」

 

「ん、困ってる時はお互い様」

 

駆け寄って来たシロコに銃を返し、そのままシロコは通り過ぎて行く。

 

私の横をシロコを先頭に対策委員会のメンバーが通り過ぎて行く。

 

「ったく、もう、ボロボロじゃない!ちょっとは自分の身を労りなさいよね!」

 

「このくらい掠り傷だよ」

 

「イヴちゃん、後でちょーっと“お話”、しましょうね?」

 

「手短に頼む」

 

「イヴちゃん!私からも話がありますからね!」

 

「はいはい」

 

私を心配するセリカ、ノノミ、アヤネの言葉を聞き流しながら、適当に言葉を返してすれ違う。

 

三人とも不満そうだったが、今は私よりも優先すべき事がある。

 

[“お疲れ、イヴ。ありがとう”]

 

そこに先生もまた、声を掛けてくる。

 

「私は私の仕事をしただけ。あとは頼んだ」

 

[“私の出番は無いかもしれないけど、任せて”]

 

荒事──戦闘は終わらせた。

 

あとは、先生が導くだろう。

 

この歪みかけた物語を喜劇の終幕へと。

 

それを信じ、私が出口に辿り着くと、そこには便利屋四人が待っていた。

 

「また、随分とこっ酷くやられたね」

 

先んじて声を掛けて来たカヨコに、銃と共に返事を返す。

 

「このくらいなんてことない」

 

「そんな訳ないでしょ!?もう、いつもいつも無茶ばっかりするんだから!!」

 

そんな私をまるで母親かのように叱ったのはアル。

 

「くふふ〜、これじゃあ、また病院に逆戻りだね〜♪でも、元気そうで何より♪」

 

ムツキはいつも通りに、おちょくって来る。

 

それが逆に、安心感を覚えさせる。

 

「い、イヴさん!その、お疲れ様です!でも、私もアル様と同じ気持ちです!あ、あんまり無理はしないでください…」

 

ハルカが目元に涙を浮かべながら、上目遣いで懇願するように見詰めてくる。

 

流石の私も、これには罪悪感を感じずにはいられなかった。

 

「ま、そう言うことだから、あんまり周りに心配させないように。ただでさえ一回、倒れてるんだからね」

 

私の罪悪感を見透かしたように、カヨコが締める。

 

便利屋四人の視線が私に集まり、居た堪れなくなる。

 

「…分かってるよ…」

 

私は逃げるように視線を外し、壁に寄り掛かりながら、アビドスの元へと視線を向ける。

 

ホシノの選択、そして、物語の結末を見届ける為に。

 

ホシノと対策委員会、そして先生の六人が向かい合っている。

 

暫く無言で向かい合い、シロコが一歩、ホシノに歩み寄る。

 

「ホシノ先輩」

 

「シロコちゃん…」

 

真っ直ぐ見据えるシロコに対し、ホシノはバツが悪そうに視線を外す。

 

「…アビドスはいつも脅かされて、ずっと奪われ続けて来た。そんな理不尽な境遇だったけど、私たちはみんなで力を合わせて抗い続けた」

 

シロコはホシノを諭すように、淡々と言葉を紡ぐ。

 

「まだ捨てるには早いよ、ホシノ先輩。先輩が背負っているもの、私たちにも背負わせて欲しい。私たちは、たった五人だけのアビドス生徒でしょ?」

 

シロコの言葉に、ホシノが顔を上げる。

 

その表情は、柔らかく穏やかに緩んでいた。

 

「だから、帰ろう、一緒に。私たちの学校へ!」

 

ホシノがゆっくりと立ち上がる。

 

しかし、その顔には影が落ちていた。

 

「ありがとう、シロコちゃん。気持ちは嬉しいけど、私は学校を退学──」

 

[“ホシノ”]

 

先生がホシノに声を掛け、何かの用紙を取り出す。

 

それは恐らく、ホシノが置いていったという退学届だろう。

 

[“顧問の私が承認していないから、退学は無効。だから、ホシノは今でも、アビドス高校の生徒だし、対策委員会のメンバーに変わりないんだよ”]

 

先生の言葉に、ホシノは唖然と固まった後、困ったような笑みを浮かべた。

 

「あ…あはは、そっか…。みんなが、先生が…大人が、ね…はは…」

 

「お、おかえりっ!先輩!!」

 

「ああっ!セリカちゃんに先を越されてしまいました!恥ずかしいから言わないって言ってたのに、ズルいです!」

 

「う、うるさいうるさいっ!順番なんてどうでもいいでしょ!」

 

「…無事でよかった」

 

「ホシノ先輩、おかえりなさい!」

 

「おかえりなさい、です!!」

 

「おかえり、ホシノ先輩」

 

「あはは…何だかみんな、期待に満ちた表情だけど…求められてるのは、あのセリフ?」

 

「ああもうっ!わかってるなら焦らさないでよ!」

 

「うへ〜…全く、可愛い後輩たちのお願いだし、仕方ないなぁ…」

 

 

 

「ただいま」

 

 

 

 




これにて、レイヴンVSホシノ、決着です

そしてホシノ。おかえり
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