ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ

おかえり


EP-78 ひと段落、しかし終幕には程遠く

アビドスが再び、五人揃ったところで、私たちは撤収の流れとなった。

 

ホシノが他の四人に揉みくちゃにされながら、出口へと向かって来る。

 

先生はそれには混ざらず、先にこちらに辿り着いた。

 

「そう言えば、風紀委員会とヒフミは?」

 

[“どちらも、先に撤収してるよ。まあ、トリニティとゲヘナだからね…。今は色々と大変な時期みたいだから…”]

 

「そうか…風紀委員会には後で依頼で関わるから良いとして、ヒフミにも改めて礼を言わないとな」

 

風紀委員会とは以前、契約した内容で風紀委員会の仕事を手伝う取り決めがある。

 

その時に今回の件でお礼ができるだろう。

 

[“そうだね。何だったら、後でヒフミの連絡先を教えようか?”]

 

「うん、よろしく頼む。便利屋のみんなも。好きにしろと言ったのは私だけど、お蔭で助かった。ありがとう」

 

私一人では、きっとこの結末は成し得なかっただろう。

 

全てを取りこぼし、或いは、半ばで力尽きていたかもしれない。

 

「べ、別に良いわよ!私たちが好きでやったことだし!」

 

「くふふ〜♪アルちゃんは素直じゃないなぁ〜。でも、それなら〜、お礼に柴関ラーメンで奢ってよ〜」

 

「柴関ラーメンか。私も気になってたんだ。ちょうど良い」

 

そんなやり取りをしていると、ホシノと共に、対策委員会が合流する。

 

ホシノが私に歩み寄る。

 

「イヴちゃん、その…ありがとね。そんなボロボロになってまで、私を止めてくれて…」

 

「私のことは別に良い。それよりも、自分を慕う後輩を大切にして。生命だけじゃなく、その想いも一緒に、ね」

 

「…うん…」

 

[“これで一件落着だね!みんな、帰ろう!”]

 

先生が締めくくり、私たちからは誰一人として反論は無く、出口の外へと向かって歩き出した。

 

──その瞬間。

 

「ん?」

 

私は微かな“揺れ”を感じた。

 

気のせいかと思ったが、違和感を感じたのは私だけではなかった。

 

ホシノ、それにカヨコもまた、同じタイミングで足を止めていた。

 

その揺れは断続的に、だが、徐々に強くなり、他のメンバーも違和感を感じ始める。

 

『先生!大変です!』

 

[“アロナ!?この揺れについて、何か分かったの!?”]

 

『はい!正体不明の巨大なエネルギー反応がこちらに近付いて来ています!生徒さんと一緒にすぐにそこから離れてください!』

 

[“──!!みんな!こっちに何かが近付いて来ている!基地から離れよう!”]

 

「何かって!?何なの!?」

 

セリカが困惑しながら、だが、この場の誰もが思ったであろうことを言い放つ。

 

揺れが次第に強くなり、更には、砂を含んだ強風までもが吹き始める。

 

[“分からない!今は巨大不明存在としか言いようがない!とにかく、離れるんだ!”]

 

「ひとまず分かったわ!私が先頭を行くわ!怪我人と先生は周りから離れないようにね!」

 

吹き荒ぶ砂嵐の中、アルがその風音にも負けない声を張って戦闘を進む。

 

比較的重傷の私とホシノ、非戦闘員の先生が隊列の真ん中に位置し、その周辺に他のメンバーが周囲を警戒しながら付き添う。

 

殿(しんがり)は、ハルカとノノミが務めている。

 

断続的だった揺れは継続的になり、それは強く──否、近付いて来ていた。

 

「砂嵐の予報は出ていなかったはずなのに…!」

 

ノノミの呟きが耳に届き、この砂嵐は自然現象などではなく、地鳴りの主と関係があることを予感させる。

 

砂嵐は既に、目を開けていられない程、強くなっており、歩くことすらやっとだ。

 

ふと、足元の揺れが収まる。

 

それでも尚、砂嵐は健在だ。

 

「揺れが止まった…?」

 

「終わったの…?」

 

セリカとアヤネが安堵したような呟きをこぼすの

 

「いや、まだだ!進んで!」

 

ホシノの鋭い叫びが再び緊張感を与える。

 

その直後、再び揺れが発生し、それは継続的に強まって行き、やがて──。

 

爆発じみた大音量と振動と共に、カイザーPMC基地の奥の方で地面が吹き飛んだ。

 

砂嵐と舞い上がった砂煙の中、何か巨大な影が揺らめく──否、蠢めく。

 

砂煙の奥に何かがいる。

 

巨大な、何かが。

 

それを理解した瞬間、私はふと思い出すことがあった。

 

それは、カタカタヘルメット団に帰省した際に、リーダーがポロっとこぼした一言。

 

アビドス砂漠に眠る巨大怪獣。

 

まさか、これがその──。

 

瞬間、砂煙と砂嵐の中で、橙色の光が瞬く。

 

それは、ただの光ではなく、物理的に光を発する眼光だった。

 

直後、橙色の稲妻が迸り、その中心の円環が露わとなる。

 

それは正しく、ヘイローそのものであった。

 

巨大な影が鎌首をもたげ、ヘイローから衝撃波が放たれる。

 

それは砂煙と共に砂嵐をも消し飛ばし、巨影の姿を晴天の下に露わにした。

 

私がその姿を目にして思い浮かべたのは、ルビコンで(まみ)えた氷原の超巨大C兵器、《アイスワーム》だった。

 

大きさで言えばあちらの方が遥かに凌ぐが、こちらは尾の先が見えず、高々と首を持ち上げても、幾重にも地面に横たえられる程に余りある長さを誇る。

 

それは、言うなれば鋼鉄の大蛇、だろうか。

 

全身を純白の装甲が連なるように覆い、その下の漆黒の基部には橙色の光の線が走る。

 

どう見ても機械の類いには間違いない。

 

だが、その威容は、まるで生きた巨大生物のようであり、その頭部に位置する四つの眼光は、獲物を品定めするかのように揺れ動く。

 

私を含め、この場の誰もが大蛇を前に言葉を失い、釘付けになっていた。

 

下手に動くことは出来ない。

 

それが刺激となって、襲い掛かって来るかもしれないのだから。

 

だが、幸いにも大蛇は私たちを一瞥すると、すぐに興味を無くしたように視線を外した。

 

そのまま、カイザーの基地へと頭を突っ込む。

 

私とエア、私とホシノの戦闘にも耐えた基地の床が、容易く突き破られ、破壊される。

 

それだけに留まらず、鋼鉄の大蛇は何度も何度も、その巨体と質量でカイザーPMCの基地を破壊し尽くして行く。

 

私たちは、その破壊の力が自分たちに向けられなかったことに安堵しながら、その場を離れることしか出来なかった。

 

****************************

 

とある高層ビルの一室。

 

豪奢だが、不要な装飾や備品は一切、置かれていないその部屋は、プレジデントの書斎だった。

 

プレジデントが机に向かっていると、出入口の扉が叩かれる。

 

「入りたまえ」

 

「失礼します」

 

入室して来たのは、プレジデントの補佐役のロボットだった。

 

「報告いたします。先程、逃亡中の元理事の身柄を確保したとの報告がありました」

 

「そうか。それは良いことだ。レイヴンは良い仕事をしてくれた」

 

プレジデントは上機嫌に低く笑う。

 

「予定通り、彼女に報酬金を払っておいてくれ」

 

「宜しいのですか?彼女は小鳥遊ホシノの解放を望んだ筈ですが…」

 

「どうやら、()()()()()に見舞われたようだからな。その上で仕事を果たした彼女に、報酬を払わないのは一企業として不誠実だろう?金額を上乗せして払っておいてくれ」

 

プレジデントの言う不測の事態とは、ホシノによるレイヴンの襲撃のことだ。

 

当然だが、黒服がホシノに依頼したことは、プレジデントも折り込み済みのことだった。

 

黒服の企みとは別に、プレジデントの企業としての企みも含まれていた。

 

シャーレの番犬たるレイヴンは勿論、小鳥遊ホシノもまた、カイザーの企みの妨げとなる。

 

片方を無力化、あわよくば共倒れを狙ったものだったのだが…。

 

人生とは思うようにはいかないとプレジデントは内心でほくそ笑む。

 

「かしこまりました」

 

「“アレ”についてはどうなっている?」

 

「それですが…残念ながら、現場には微塵も残っておらず、回収出来ていません。申し訳ありません…」

 

「そうか…まあ良い。機会は今後、幾らでもあるだろう。何としてでも手に入れるのだ。あの、“コーラル”という未知のエネルギーを…!」

 

コーラルについては、カイザーもといプレジデントもまた、掴んでいた。

 

そして、あわよくば手に入れようと画策していた。

 

「あの物質のエネルギーはきっと、我が社に更なる力と利益を齎す福音となってくれることだろう…!それどころか、このキヴォトス全土の更なる発展に──」

 

その直後、まるでプレジデントの言葉を途切れさせるように、補佐役のロボットが慌てた様子で何かを取り出す。

 

携帯端末だった。

 

その画面を目にし、ロボットの動きが止まる。

 

「…プレジデント、レイヴンからです」

 

カイザーとレイヴン間の依頼等のやり取りは、内容が機密事項と言うこともあって、特殊な秘匿回線での通信だった。

 

「…彼女から連絡して来るとは珍しい…」

 

補佐は同意するように頷き、スピーカーにして通話に出る。

 

当然だが、この部屋は防音仕様であり、音が漏れ出る心配はない。

 

「どうされました?報酬金でしたら、後日、別途支払いますが…」

 

対応は補佐役に任せ、プレジデントは聴きに徹する。

 

『報酬についてじゃない。それとは別件だ』

 

『あんたら企業のことだ。きっと耳聡く嗅ぎ付けてることだろう。だが、一つだけ言っておく』

 

『カイザーがコーラルに手を出すのであれば、私はコーラルより先に貴様らを滅ぼす。それから──』

 

『もし今後、アビドスに手を出した場合、私がアビドス側に付くこともお忘れなく。それだけだ、じゃあな』

 

一方的に言いたい事だけを言って、レイヴンからの通話が切れた。

 

「…ぷ、プレジデント…」

 

補佐役は恐る恐る、プレジデントを見遣る。

 

プレジデントにしてみれば、レイヴンなど小娘に等しい。

 

そんな小娘に脅迫の声明を受け、プレジデントの逆鱗に触れたのではないかと恐々としていた。

 

プレジデントは一見、無表情で虚空を見詰めていた。

 

「…なるほど…」

 

一言呟き、その後、プレジデントは肩を震わせる。

 

「ふふふ…ハハハハハ…そうかそうか。それほどまでに、コーラルとは、危険極まる代物と言うことか…クックック…」

 

「尚のこと、手に入れたくなったぞ!レイヴン!」

 

****************************

 

そこは、キヴォトスであり、キヴォトスでない、何処か。

 

キヴォトスに住まう人々には観測できない異空間。

 

そこに、複数の人影があった。

 

一人は黒服。

 

ホシノを唆し、先生を仲間に引き入れようとした人のような人ならざるもの。

 

だが、他の者たちは、その黒服以上に、人ならざる姿をしていた。

 

「…これは…実に興味深い。他の生徒と同じ、“神秘”の側面を持ちながら、自らの意思でそれを“恐怖”へと反転させることが出来るとは…!()()()とは言え、私の望む《崇高》の体現者と言える。しかし、これは他の者たちとは明確に異なるイレギュラーだろう。彼女は一体何者だ…?」

 

それは、まるで木彫りの人形の姿をしており、燕尾服に身を包み、そして頭部、首から上が二つある双頭だった。

 

人影は、円環のテーブルのようなものを囲んで立っており、その中央に浮かぶ映像を食い入るように眺めていた。

 

「彼女の“記号”と“テクスト”も非常に興味深い。表面的には生徒でありながら、内包するテクストには傭兵を秘めている。“猟犬”の記号である獣の耳を持ちながら、同時にワタリガラスのテクストを秘めています。“神秘”の側面だけでも、これだけの“意味”を有するとは…驚きです。それでいて、“恐怖”の面は更に複雑というのですから…」

 

「そういうこったぁ!!」

 

それは、ロングコートに身を包み、片手で杖を突き、遺影のような写真を抱えている。

 

しかし、コートの襟から上にあるべき首と頭部は無く、黒い靄が揺らめくばかり。

 

その代わりか、写真の中には、後頭部を向ける、帽子を被った人物の首から上が映っていた。

 

その頭部には髪の毛は無く、また肌の色は漆黒だった。

 

彼らが釘付けになっている映像には、戦闘中のレイヴンもといイヴが映っていた。

 

「…それで?こんなものを見せる為だけに私たちを集めた訳じゃないのでしょう?私も暇ではないのだけれど?」

 

唯一の紅一点、黒髪を靡かせ、白いドレスに身を包んだ真っ赤な肌を持つ女性的な姿の人影は、苛立ちを一切隠さず、傲岸不遜に言い放つ。

 

「これはこれは…失礼しました“マダム”。彼女の存在の報告が、少しでも我々ゲマトリアの研究の一助になればと思ってのことだったのですがね…クックック…」

 

黒服の態度に、神経を逆撫でされた“マダム”と呼ばれた人物は、その翼のような装飾のマスクが幾重にも重なった中に浮かぶ複数の眼を不愉快そうに細める。

 

「それでは皆さんお忙しいことでしょうし、本題に入りましょう。良いニュースと悪いニュースがあります」

 

「悪いニュースから聞こうか」

 

燕尾服を着た双頭の木彫り人形が要求する。

 

「…シャーレの先生の勧誘には失敗しました。非常に遺憾ながら、今後、我々は否応なく、敵対する事になるでしょう」

 

「そうですか…。それはとても悲しいことです…」

 

「そういうこったぁ…」

 

写真の中の人物と、頭の無いロングコートが、本当に心から悲しそうに呟く。

 

「先生との敵対となれば、彼女──レイヴンもまた、我々の前に立ちはだかることでしょう」

 

「それは厄介だな。見たところ、()()彼女は、生徒という枠組みに収まり、相応に力も眠っているようだが、いつそれが目覚め、顕現するか予測が付かない。そうなれば、我々の手には負えない災いとなるだろう。それどころか、キヴォトスそのものが危うい」

 

「はい。ですが、それが良いニュースに繋がります。彼女の“専門家”が我々、ゲマトリアに加わりました」

 

「専門家…?」

 

燕尾服の人物が訝しげに呟いたところで、突如、空間に深紅に煌めく粒子が漂い始める。

 

『──はじめまして。このような形での挨拶、申し訳なく存じます。ですが、私は本来、形無く姿の無い偏在的存在故に、どうかご容赦ください』

 

『紹介に預かりました、彼女──レイヴンの専門家の“ルナシー”と申します。若輩の身ですが、どうかよろしくお願いします』




鋼鉄の大蛇とか、プレジデントとか、ゲマトリアとルナシーとか、色々と不安要素てんこ盛りですが、一先ず決着ですね!

次回はエピローグとなります!!

全体の後書きはそちらで!
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