ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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エピローグその壱

1ページに纏めたかったんですが、どうしても長引きそうだったので分割




エピローグ-Ⅰ

どこかの歓楽街。

 

そこは、まだ昼間にも関わらず、多くの人々で賑わっていた。

 

動物やロボットの住人は勿論、生徒の姿もある。

 

人々は飲食店や娯楽施設で、その日のいとまを謳歌していた。

 

そんな中、突如として、一軒の建物から火が噴き出る。

 

火と共に残骸が飛び散り、人々は一瞬だけ驚くが、まるでありふれた日常の一幕のようにすぐに興味を無くし、各々の暇潰しに意識を向ける。

 

実際に、それは彼らにとって日常茶飯事の出来事だった。

 

この場所は“ゲヘナ学園”の自治区であり、そこはキヴォトスでも最も治安が悪いとされる地域だからだ。

 

そんな中、爆発した店から複数の人影が悠々と現れる。

 

「はぁ、このお店もハズレでしたわね…」

 

一人は銀髪を靡かせ、腰から片翼と尻尾が伸びる生徒。

 

「ちょーっと多めに頼んだだけでしたのに、法外な代金を請求して来るなんて…まだ食べ足りないです…」

 

一人は金髪を揺らす頭部から下向き二本一対の角が生えている豊満な体型の生徒。

 

「あんたは食べ過ぎなのよ!もうっ!爆発のせいで料理落としちゃったじゃないっ!」

 

一人は赤髪のツインテールを揺らし、頭から捻れた双角と腰から双翼を生やした小柄な生徒。

 

「料理は美味しかったのに…残念…納豆フレンチトーストのトマトソース和え…もっと食べたかったよー」

 

残る最後の一人は、亜麻色の髪を揺らし、側頭部から二本の巻き角が生えた豊満な体型の生徒。

 

その四人組は、ゲヘナ学園所属、《美食研究会》。

 

一見、平和そうに見える部活名だが、この部の部長──もとい会長は、美食の為なら何でもするような過激な人物であり、他の部員も強くその行動を咎めない為、ゲヘナに於いても、危険集団の一つとして指定されていた。

 

「では、次のお店に行きましょうか」

 

「次のお店でお腹いっぱい食べてやるんだから!!」

 

そんな彼女たちの行手を一人の人物が遮る。

 

「あなた達が美食研究会?」

 

その人物を前に、美食研究会の四人は足を止めるつもりはなかったのだが、声を掛けられ、立ち止まる。

 

ある者は不思議そうに、ある者は不快そうに、また、ある者は興味深そうにその人物へと視線を向ける。

 

「…あら、どちら様でしょうか?」

 

美食研究会のリーダーと思しき銀髪の少女──《黒舘ハルナ》が物腰柔らかく訊ねる。

 

相対する人物──靡く白銀の長髪を後ろで一つに纏め、頭頂に犬のような三角耳が生えた黒衣の少女──イヴ、もといレイヴンは、事務的に淡々と答える。

 

「《風紀委員“代行”》、レイヴン。恨みは無いが、あなた達の捕縛を依頼されたものでね。大人しく捕まってくれると助かるのだけど」

 

そう言うとレイヴンは、一張羅の黒のコート風の制服の左腕に、赤と黒に彩られた腕章を取り付ける。

 

それを目にすると、美食研究会の面々は一目散に背を向けて走り出す。

 

「ちょっとちょっと!風紀委員会は実質的に壊滅状態って話じゃなかったの!?」

 

赤髪ツインテールの小柄な少女、《赤司ジュンコ》は走りながら側の金髪の豊満な少女、《鰐淵アカリ》を問い詰める。

 

「私が小耳に挟んだ話ではそのはずだったんですけど…おかしいですね…」

 

アカリは困ったように、走りながら腕を組み、片方の手を頬に添える。

 

ふと、目を細め、流し目で背後に気を向ける。

 

「それに、彼女は“風紀委員代行”と名乗りました。彼女のような生徒も、風紀委員会どころか、ゲヘナ内でも見た覚えがありません」

 

その眼光は何処か、獲物を見定める捕食者のようであり、アカリは楽しそうに笑みを浮かべた。

 

「壊滅状態というのは間違いありませんわ」

 

そこに口を割り込ませて来たのは後から追い付いたハルナ。

 

「ですが、壊滅しているのは実働部門の下位構成員であって、上位役員、つまりはヒナさんを始めとしたトップ層は普段通りのようです。それでも、人手不足で身動きが取れないと踏んでいたのですが…」

 

「じゃあ何!?あいつは風紀委員が雇ったか何かした助っ人ってこと!?」

 

「でも、これだけ離れたのならもう大丈夫じゃない?向こうも──」

 

亜麻色の髪の巻き角の少女、《獅子堂イズミ》が安堵を浮かべながら後ろを振り返る。

 

だが、背後にいたはずのレイヴンは、既に忽然と姿を消していた。

 

「あれぇ!?さっきまで後ろに居たのに!?」

 

イズミが驚愕と困惑の叫びを上げる。

 

その声を聞き、美食研究会全員に緊張が走る。

 

美食研究会は、風紀委員会に追われることは常だ。

 

しかし、普段とは違う違和感、不気味な予感をハルナは感じた。

 

それは、敢えて表現するのであれば何処となく、ヒナに追われている時に近い。

 

そして、ハルナはふと、視線が横に逸れた。

 

その視界を黒い影が横切る。

 

それは、四人が走る側面の建物の壁を足場に駆け、追い越し、再び四人の進行方向を遮るように降り立った。

 

「悪いけど、追いかけっこに付き合ってる暇はない。大人しく捕まる気が無いのなら──」

 

レイヴンが腰の銃へと手を掛ける。

 

「──アカリさん!!」

 

ハルナが鋭く叫ぶ。

 

それとほぼ同時、まるで予想していたかのような完璧なタイミングでアカリは手榴弾をばら撒く。

 

先手必勝──そんな淡い期待はしていないが、少しでも相手の行動を阻害する。

 

爆炎と黒煙が吹き荒れ、レイヴンの姿を掻き消す。

 

「これはやったでしょ!!」

 

ジュンコが勝ち誇ったように言い放つ。

 

「いいえ!まだですわ!」

 

だが、ハルナは未だ例の感覚が拭えていなかった。

 

ヒナに匹敵する相手であれば、この程度で終わるはずがない。

 

ハルナは自らの愛銃、スナイパーライフルで狙いを定める。

 

いつ、何処から現れても良いように。

 

それと同時に。

 

「イズミさん!爆破後の煙に攻撃を!」

 

「なんか分からないけど了解〜!!」

 

イズミのマシンガンが火を噴き、銃撃が黒煙を掻き消す。

 

黒煙が晴れた先にレイヴンの姿は──無かった。

 

周囲は建物に挟まれた一方通行の石畳の歩道。

 

とは言え、看板や路上に積まれた荷物など、隠れられそうな場所は幾らでもある。

 

ハルナは素早く視線を巡らせ、レイヴンの姿を探る。

 

いや、ヒナに匹敵する相手を前に、視線だけでは不十分だ。

 

音や僅かな空気の流れにまで注意を払う。

 

「──!!捉えましたわ!!」

 

ハルナは背面上方へと銃口を向ける。

 

そこには、看板の上に立つレイヴンの姿があった。

 

空かさず、銃による狙撃を見舞う。

 

命中率を高める為、胴体を狙った銃撃は──即座に跳躍したレイヴンには当たらなかった。

 

ハルナの狙撃を躱したレイヴンは、空中で体勢を整え、美食研究会の側に着地する。

 

「このやろぉ!!」

 

そこへジュンコが側面から二丁のアサルトライフルによる掃射を見舞う。

 

だが、レイヴンは舞い上がるようにジュンコの攻撃を躱し、より近くに着地して距離を詰める。

 

だが、そこに横槍を入れたのはアカリ。

 

「ジュンコさん!こちらへ!」

 

アサルトライフルによる銃撃で牽制しつつ、手榴弾を放る。

 

軽やかなステップで銃撃は躱されたが問題ない。

 

手榴弾の爆煙で目眩しをしている内にジュンコを助けられれば──。

 

だが──。

 

「えっ!?」

 

あろうことかレイヴンは、手榴弾から逃れるどころか、逆に素早く距離を詰めた。

 

そして、手榴弾が地面に触れるよりも早く、それを投げたアカリの方へと蹴り返す。

 

これには、アカリの手榴弾の爆発のタイミングを窺っていたジュンコも度肝を抜かれた。

 

「うえぇっ!?」

 

攻撃も当たらない。

 

策にも嵌められない。

 

だが、この程度で思考停止して動けなくなるようでは、ゲヘナに広く轟く美食委員会の悪名は存在しない。

 

ジュンコは一目散に走り出した。

 

それはもう、脱兎の如く。

 

まだ、仲間たちが居るにも関わらず、敵前逃亡を敢行した。

 

否、それは寧ろ、その状況を利用する為。

 

保身の為。

 

要は、ジュンコは仲間たちを置き去りにし、囮として逃げ出したのだった。

 

そして、それは他の面々も同じだった。

 

レイヴンがアカリの手榴弾を蹴り、それが爆発した瞬間、それぞれがレイヴンを相手にするのは愚行であり、仲間の誰かを囮に逃げ仰るのが正解という答えを導き出した。

 

黒煙が収まり、誰もがいなくなった中、一人残され、レイヴンは佇んでいた。

 

レイヴンは蜘蛛の子を散らすように逃げた美食委員会を見やるが、その後は追わずに、おもむろに側頭部の人耳に手を当てる。

 

「これで良かった?」

 

レイヴンの人耳には、インカムが装備されていた。

 

『はい、お疲れ様でした。後はイオリと他の委員が各個撃破して回収します』

 

届いたのは風紀委員会の行政官、天雨アコの声。

 

レイヴン──イヴは、風紀委員会の依頼を受け、美食研究会捕縛作戦に臨み、分断役として投入されたのだった。

 

『それではレイヴン、これにて依頼は終了となります。帰投してください』

 

「了解」

 

イヴはアコに返事を返すと、その場を後にした。

 

*****************************

 

仕事を終え、報告の為にゲヘナ学園内の風紀委員会本部へと足を踏み入れる。

 

案内された部屋に行くと、天雨アコに火宮チナツ、それから銀鏡イオリに加えて、空崎ヒナまでもが待っていた。

 

風紀委員会勢揃いである。

 

「ありがとうレイヴン。あなたのお蔭で、そちらを気にせず、こっちの仕事に専念できた」

 

入室してすぐ、空崎が私を労ってくれる。

 

空崎は私とは別に、《温泉開発部》の鎮圧に向かっていた。

 

この様子だと、無事に仕事を終えたようだ。

 

「それで、美食研の連中は?」

 

依頼の成否を訊ねると、天雨アコの代わりに銀鏡が威勢よく答える。

 

「お蔭様で全員捕縛完了だ!今は全員牢屋の中だ!礼を言うぞ!レイヴン!」

 

「はぁ…全くイオリは調子が良いんだから…」

 

作戦がうまく行ったからか、あからさまに銀鏡は機嫌が良く、その様子に火宮は呆れた様子だった。

 

「…それなら良いんだけど……人手が足りてないのであれば、私一人で良かったのに」

 

ゲヘナ風紀委員会は未だに、私が蹂躙した者たちが復帰しておらず、人手不足に悩まされている。

 

先に手を出して来たのは向こうであり、やらなければこちらがやられていた為に後悔はしていないが、貧乏くじを引いて巻き込まれた空崎には同情を抱かずにはいられなかった。

 

私の言葉に、あからさまにため息を吐くのは天雨アコ。

 

「あなたはやり過ぎる危険性がありますから。念の為の采配です」

 

風紀委員会に対して実際に前例がある為、何も言えない。

 

だが、同時に甘いとも思う。

 

聞けば、今回の美食研究会も温泉開発部も、その他の問題児も、何度も鎮圧されては拘束されるが、結局は同じことを繰り返す。

 

再発防止の為に徹底的に罰を課すべきとも思うが…雇われの私に口を挟むべき道理はない。

 

彼女たちには彼女たちなりの考えがあるのだろう。

 

「それじゃあ、他に何も無ければ私は帰るけど」

 

「外まで見送るわ」

 

私が背を向け退室しようとすると、律儀にも空崎が後を追ってくる。

 

その顔にはクマが浮かんでおり、疲れが溜まってる様子が明白だった。

 

ここ数日、仕事に追われているのだろう。

 

「いや、大丈夫。それよりも空崎は少し休んだ方が良い。目の下のクマが見え見えだよ」

 

私が目の下をなぞりながら指摘すると、空崎は恥ずかしそうに顔を赤く染めながら目の下を両手で覆う。

 

その様子に少し微笑ましさを感じつつ、私は言葉を続ける。

 

「休むのも大事な仕事だ。それでも、手に負えそうになかったら、また私を頼って。いつでも手伝うから」

 

空崎は翼で小柄な体を包み、更に小さくなりながらも、頷く。

 

「…そ、そう。分かったわ。ありがとう。それならまた今度、依頼を出すわ」

 

そこで私ははたと思い出す。

 

風紀委員会に銃を借りていたことに。

 

私の銃は先のアビドスでの戦いで、ショットガン以外を破損し、失った。

 

今回の依頼に赴くに当たり、風紀委員会の保管していた予備のアサルトライフルを借りていた。

 

「いえ、それは持っていて良いわ。銃が無くて困ってるんでしょう?代わりが手に入るまでの繋ぎに貸してあげるわ。それに、また、手伝ってくれるんでしょう?」

 

空崎は頬を赤く染めながらも、私に微笑みかける。

 

「…そういう事なら、ありがたく使わせて貰うね」

 

私は取り出しかけていた銃を戻し、出入口の扉へと向かう。

 

・・・そろそろ、天雨アコからの視線が痛くなって来た。

 

「代わりに私が見送ります」

 

そう言ったのは、他でもない天雨アコだった。

 

その顔には笑顔が浮かんでいたが、目元が一切、笑っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、私は天雨アコに、『良いですか!?委員長はあくまでもビジネスパートナーとして信用しているだけですからね!?勘違いしないでくださいね!?分かりました!?』などというニュアンスの言葉で繰り返し釘を刺され続けながら、私はゲヘナ学園を後にした。




エピローグ、ゲヘナ編でした
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