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イヴ「先生、おはよう。今日の予定は?……そっか、相変わらず忙しいね」
[“イヴは何かめぼしい依頼あった?”]
「相変わらず、ゲヘナの風紀委員からは毎日のように来てるよ。大方、アコの嫌がらせだろう。ヒナはこういう時は遠慮がちに気を遣ってくれるから。イオリやチナツは依頼の発注は管轄外だろうし」
[“ふふっ、そうなんだ”]
「…?今の文脈で何か笑うようなところあった…?」
[“いや、イヴも風紀委員会のみんなと打ち解けて来てるみたいだなーって思って。いつの間にか名字呼びから名前呼びになってるから”]
「……そんなんじゃない。勘違いするな」
[“赤くなってるよ?”]
「…嘘だろ…?」
[“嘘だよ”]
「……取り敢えず、後は便利屋と対策委員会からも協働や手伝いの依頼があったから、そっちに行く」
[“うん、分かったよ”]
「いつまでニヤついてんだ…!はぁ、取り敢えず、今日もよろしく、先生」
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公式のショート動画見てたら思い付いたネタの供養
ちょっとした小ネタはこうやって消化して行こうかなと思います
プロローグ/燻る翼、錆び付く歯車
ふと、私は目を開く。
だが、即座に私は、この場所が現実でないことを理解した。
私の目の前に広がる光景は、キヴォトスの何処でもない場所。
恐らく、星も、次元も異なる、過去の記憶の風景。
──ルビコン。
以前も目にした、衛星軌道上の封鎖ステーション。
そこに私は呆然と立ち尽くしていた。
此処に訪れたのは、かなり久し振りな気がする。
最近は忙しく、寝る時間も少ない為、眠りが浅かったのも遠因かもしれない。
と言うことは、逆説的に今の私は深い眠りに付けているのだろう。
「それで概ね間違いない」
突如として聞こえて来た背後からの声に私は振り向く。
そこに立っていたのは、“黒い私”だった。
まるで、影から現れたかのような、私とは対照的な漆黒の肌と長髪を持つ姿。
結膜も黒く染まり、唯一、瞳だけが私と同じく真紅に染まっている。
以前は一糸纏わぬ、素肌を曝け出した姿だったが、今はカラスを彷彿とさせる濡羽色の羽が幾重にも重なった装束を身に纏っている。
鴉羽の装束を纏う“私”は続ける。
「この“夢”は、お前の深層心理、それを具象化した世界だ。だからこそ、深い眠りでなければ、辿り着くことは出来ない。その他には──私が引き込んだり、な」
「今回はどっちかな?」
「私が引き摺り込んだ」
わざわざ引き摺り込んだと言うのであれば、何かしら思惑があるのだろう。
「そう。それで“レイヴン”は私に何の用?まさか、新しいファッションのお披露目って訳じゃないんでしょ?」
わざわざ自分と世間話をする必要はない。
単刀直入に切り込む。
「その通りだが、“レイヴン”はお前もだろう」
「良い加減、黒い私って呼び方は面倒くさいんだよ。紛らわしいし。だからレイヴンと呼ばせてもらう。私のことは“621”とでも呼べばいい」
正直、自分とは言え、ウォルター以外にこの名前を呼ばれるのは少しだけ不満があるが。
それを見抜いて──というより、心を読んで、レイヴンは低く笑う。
「ククッ…お前にはそれよりも打って付けの“イヴ”という名前があるじゃないか」
普段はイヴ呼びでも問題ない。
キヴォトスの住民であるリーダーに名付けて貰ったキヴォトスでの私の名前。
だが、この場所ではどうしても意識がルビコンに引っ張られ、私は自身が“621”であると言うことを思い出させられる。
621こそが、私の原点。
そう考えると、レイヴンという呼び名もイヴと言う名前も、どれもが私の根幹には繋がらない。
私は、“レイヴン”や“イヴ”というキャラクターを演じているに過ぎないのかもしれない。
口調が変わりやすいのも、そういった要因から来ているのかもしれない。
「…それは“レイヴン”から取ったものだし…。まあアンタが良いならそれで良いけど。それでいい加減、本題に入ってくれる?」
まるで私が私でないような嫌な気分になる。
私は早々にレイヴンに夢の中に引き摺り込んだ理由を求める。
「それもそうだな──お前は、“歯車”と“残り火”、そのどちらの力をも使っていく選択をした。それはつまり、二つの力の代償に苛まれることを意味する」
“歯車”では私の肉体機能が、“残り火”では記憶が、それぞれ失われることが判明している。
「…承知の上だ。そうしなければ私は私の誓約を全うできない」
だが、
“彼ら”が肩代わりをしてくれているお蔭で。
──そして恐らく、それは目の前の私…レイヴンも把握している事だろう。
何故、“彼ら”が力の代償を肩代わりしてくれるのか。
依然にして不明だが、だからと言って私は、力を使うことを躊躇いはしない。
例え、結果的に“彼ら”を失い、代償の災いがこの身に降りかかることになろうとも。
「それは分かっているとも。
代償以外にも、何か制約があるのだろうか。
「お前の力の内、“歯車”はかつてのお前自身の技を呼び起こす。これは問題ない」
「もう一つの“残り火”…これは、言わばこの地で新たに獲得したと言って良い力──能力だ」
“火”による攻撃性能の向上、“火”を使った“再現”の力、そして、その奥義たる追憶を具現化する異能。
いずれも、かつての世界ではあり得ない、キヴォトスという神秘の世界だからこそ実現した力と言えるのかもしれない。
「これは、お前自身の本質──本能に近いものだ。使い方次第では、尋常ならざる強敵をも打ち倒すことが出来る。だからこそ、この力は
レイヴンが言わんとしていることが読み取れた。
私のこの、“残り火”という力は、可能性と潜在能力の塊だ。
だからこそ、それは求める者を深みへと誘う深淵なのだ。
可能性を模索し、潜在能力を深く掘り進める程、それは深く暗い誘惑となる。
「これは警告だ、イヴ。“力”に呑まれるな。目的を見失い、戦いに酔えば、お前の力は、お前自身だけでなく、この世に破滅を齎す。そうなれば、この世界は火の海だ」
今はその力がコーラルに向いているから良いだろう。
だが、もし私がコーラル、ひいてはエアとの戦いの中で、過程と目的が逆転しまえば、私は正しく、キヴォトスを滅びへと導く災禍になるだろう。
「あぁ、分かってるよ」
ルビコンでの、ラスティの言葉が脳裏を過ぎる。
『理由無き強さほど、危ういものはないぞ…!』
戦う理由。
そして、それを心の裡に、強く繋ぎ止める意志。
自分が、何の為に戦っているのか。
それは戦いの中で、いつでも失われる危険性を孕んでいる。
「…くれぐれも忘れるな。そして、注意しろ。お前を“死”に
“黒い鳥”──か。
“死”とは恐らく、私自身のことではなく、私の周囲の人々、という意味を含んでいるのかもしれない。
言わばそれは、“死を告げる鳥”。
そして、それはさぞかし、黒いのだろう。
周りのあらゆる全てを真っ黒に焼き尽くすほどに。
そこで、私の視界が白み始める。
目覚めが近いらしい。
「…最後に一つ良い?」
夢から醒める前に、私はレイヴンに声を掛けた。
「なんだ?」
それは、先程から抱いていた疑問。
「“猟犬”はどこ?」
機械仕掛けの猟犬の姿が見当たらなかった。
いつも通りであれば、レイヴンと一緒に現れるはずなのだが。
「……さぁな。あの人らも、気まぐれなもんでね」
だが、レイヴンはあからさまにはぐらかした。
いよいよ、夢の中の意識も朦朧とし始める。
「──強いて言うなら、あの人らにも、見せたくない姿があるんだよ」
レイヴンの声が響く中、私の意識は完全にホワイトアウトした。
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ドゴォンッ!!!
強い衝撃と揺れを感じ、私は反射的に飛び起きた。
枕元に置いてある銃を手に、周囲を警戒する。
だが、すぐに敵の襲撃のようなものではないと気付き、安堵しつつ銃を戻す。
再びベッドに身を投げるが、衝撃と揺れの“理由”を察し、沸々とした怒りが湧いてくる。
文句の一つでも言わねば気が済まないという意気の元、私は
それは、
自室がある二階から一階へと降り、その階段の裏にある厳重な程に分厚い扉を開く。
その先には、地下へ続く階段になっている。
灰色のコンクリートで一面を覆う、寒々しい空間は、一定間隔で配置された白色の蛍光灯で照らし出されている。
出てすぐの右側に置かれたラックからスリッパを取り、内履きから履き替える。
私は今一度、溜め息を吐き、その先へと進む。
勢いよく階段を降った先には、横に逸れたところに小さな休憩スペースと、正面には先程の入り口よりも更に厳重な鋼鉄製の二枚扉。
いよいよ格納庫然とした、普通の住宅には不釣り合いな様相を呈して来たが、無理もない。
この地下室の主こそが、あまりに普通の住宅では釣り合わない人物だからだ。
私は二枚扉から──ではなく、その横の勝手口からその先の空間に踏み入る。
その先は、地下室の住人の意向により、大きく変貌を遂げている。
元々は複数の車両格納用のガレージであっただろう空間は、ものの見事に
勝手口の先に研究室、二枚扉の先が実験場になっている左右に分断された構造だ。
分断された空間の間には、生半可な爆発をものともしない強化ガラスと物理耐久性に優れる強化アクリルガラスの多重構造の壁が設置されている。
ミレニアム製のものらしい、そのガラスの向こうに目を向ければ、そこに件の地下の主がいた。
住居を提供する代わりに、私の専属技師となった
因みに、私はあくまでこの地下室とそれに付随する住宅を購入しただけであって、目の前の諸々の設備はレンカ自身が持ち込んで配備したものだ。
ガラスの向こうのレンカは、何やら作業をしていた様子だったが、私に気付くと能天気に手を振って来る。
手に持っていた何かを床に置き、レンカが実験場から研究室に戻って来る。
相変わらず、レンカは以前、出会った時と同じような作業着姿だ。
「イヴさん、お、おはようございます…へへへへ…こ、こんな朝早くからどうしたんですか?」
相変わらずの徹夜作業による目の下のクマが凄いが、何やら機嫌が良いようで口元が緩み切っている。
「おはようレンカ。どうしたも何も、さっきの爆発で叩き起こされたんだよ。一体、何してたんだ?」
ほんの少しの皮肉を込めて言ったつもりだったのだが、レンカは意にも介さず、それどころか目の色を変える。
「えっ!?」
嫌な予感を察知したが、それよりも早く、レンカはゴキブリじみた動きで私に擦り寄って来た。
「聞きたい!?聞きたいですか!?イヴさんも興味がお有りで!?ウヘヘヘヘへ…仕方ないですね、も〜」
徹夜からか興奮からか、充血して血走った両眼を見開いたレンカが顔を限界まで近寄せて来る。
かと思ったら顔を離して頬を赤させ、体をクネクネと
「やっぱりいい」
早くも此処に来た事を後悔しながら断り、レンカに背を向けるが、片腕にレンカが絡み付いて来た。
「そんな遠慮しなくても良いですよ!んも〜、イヴさんったら素直じゃないんだからぁ〜♪」
タチの悪いことに、腕を引き抜こうにも地味に力が強く、抜け出せない。
全力を出せば出来ないことも無いだろうが、レンカを投げ飛ばしてしまう。
「遠慮じゃなくて拒絶だコレは!クソッ、酔っ払いかこいつ…!」
アルコールの匂いは感じない為、酩酊している訳ではなさそうだ。
それが尚、悪趣味なのだが。
「酔っ払いですか!当たらずとも遠からずですね!私は酔ってます!自分の才能にね!!」
投げ飛ばしても良いかもしれない。
「ああ、もう本当に鬱陶しい!!」
このままでは平行線で時間の無駄でしかない。
誠に不本意ではあるが、私の方が折れることにした。
どの道、彼女に用がない訳でもない。
「ところで、頼んでおいた武器はどうなった?」
「ああ、それでしたら出来上がってますよ。少々お待ちを〜」
レンカはすんなりと腕から離れ、研究室の奥の倉庫と思しき部屋に向かう。
出て来たレンカは、長方形の箱を持って来る。
「こちらになります」
レンカが箱を開けると、その中に納められていたのは一丁の拳銃だった。
「ご希望通り、弾数を少なくし、威力を高める設計にしてあります。特性に関しては特に条件がありませんでしたので、最近、注目されている“神秘”の特性にしてあります」
いわゆる、大口径に分類される拳銃であり、銃そのものも大振り故に重い。
“神秘”の特性と言えば、エンジニア部から借りている狙撃銃も同じような性質を持っていた筈だ。
“爆発”や“貫通”とは違って、イマイチどういった作用を持っているのかイメージがつかないが、どうやら“特殊装甲”と呼ばれるものに対して、非常に有効なのだとか。
「折角ですから、私の試作品の実験も兼ねて、試し撃ちをするのは如何でしょう?」
ワーカッキテキーなどと嘯くレンカは、両手を合わせて頬に添え、上機嫌な笑みを浮かべている。
私を実験台にしたいだけにしか思えないが、どうせこういった機会は今後も訪れるだろう。
どうせなら、早めに慣れておいた方が良いという結論に至り、彼女の提案を呑む。
「フッフッフ…そう来なくては…!それでは付き合って頂きますよ!」
私は彼女の指示に従い、実験場に踏み入る。
今日初めて体を動かすということで、軽く柔軟をして肢体をほぐしながら、目の前に転がる謎の
そのように形容したのは、中には球体ではないものもあったからだ。
それはまるで、球体を内側から開いたような──。
“ソレ”が突如として動き出す。
球体のものも、そうでないものも、一様に内側から開き、無数の脚で床を捉える。
それは紛れもなく──。
『自律型追尾輪転自爆機!
嬉々としたレンカの一声と共に、半径一メートル近くある鋼鉄のダンゴムシの群れが、私に殺到した。
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「いやぁ〜素晴らしかったですよ!イヴさん!流石はブラックマーケットを震撼させたレイヴンですね!」
肩で息をする私の前で、レンカは上機嫌で満足げな様子で、顔を綻ばせている。
私の周囲には、既に動かなくなった鋼鉄ダンゴムシの残骸が転がっている。
どれもこれも原型を留めていない程度には鉄屑と化している。
「まさか、拳銃一つで自爆を一切許さず全撃破とは!私、興奮しました!」
鋼鉄ダンゴムシは正しく、転がる地雷とでも言うべき兵器だった。
寸分の狂いなく、常時追尾しながら標的に迫り、自爆を狙う。
厄介なのは、標的である私が回避等で離れた場合、自爆しないことだ。
鋼鉄ダンゴムシの自爆には、見たところ段階的にフェーズが以降して行くようで、標的との距離が十メートルを切ると赤熱し、そこから更に距離を縮めると青白くなる。
おそらく、そこから更に肉薄すると爆発する機構だろうが、私は爆発を許さなかった。
恐るべきは自爆制御機構とでも言うべきシステム。
先にも言った通り、自爆寸前であっても、標的が離れれば瞬く間に自爆フェーズを戻して行く。
標的を確実に爆発に巻き込むまで、絶対にして追尾し続ける自爆兵器。
こんなものを作って喜ぶなんて、この変態が。
お蔭で私は死に物狂いで鋼鉄ダンゴムシ共を処理することとなった。
幸いだったのは、赤熱すると装甲が軟化し、ダメージが通りやすくなることだ。
鋼鉄ダンゴムシは重装甲に分類されると思うが、相性が悪い神秘特性の武器でも処理が出来たのは、そのお蔭とも言える。
私は心底から辟易した視線をレンカに向ける。
だが、この変態がそんなものを意に介す筈もなく。
「うーん…やはり、装甲軟化が課題ですねぇ〜。断熱性の装甲を挟むべきでしょうか?更に外殻を分厚く…うーむ、しかしそれでは機動性が落ちてしまいますし、むむむ…」
何やら改善案を模索している様子だが、それを許す訳にはいかない。
「レンカ、このダンゴムシはこれで全部?」
私は努めて柔らかくレンカに微笑む。
「え?あ、はい、そうですが…」
「設計書はある?」
「あ、はい、ここに…」
運良く持っていた設計図を取り出したレンカの手からそれを奪い取り、破り捨てる。
「あ゙ぁ゙〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?な、なななな何してるんですかァ!?」
レンカは顔を青ざめさせ、絶叫を上げる。
それでも私は容赦なく、設計書を細切れにしていく。
「これは存在してはいけないものだ。データも消去してもらう」
おそらく、設計書は出力したものだ。
原本がデータとしてまだ残っているはずだ。
「こ、こんな横暴が許されて良い訳がありません…!抗議!断固抗議します!」
涙ぐんだレンカが、上目遣いに私を睨み付ける。
「なら私はこれで応えよう」
そこに私は笑顔で拳銃の銃口を向ける。
「ひぃん…こんな非人道的な相手だったなんて…鬼!悪魔!レイヴン!」
「黙れ変態。良いから早く消せ」
案の定、レンカは端末にバックアップと原本を残しており、私は拳銃を突き付けて脅しつつ、それらを全て消去させた。
「うぅ…私の計画が…私のロマンがぁ…う、うぅっ…」
レンカはその場に崩れ落ち、床に這いつくばる。
「それじゃあ、私は出かけるから。また余計なことするなよ」
釘を刺しつつ、私は出口へと向かう。
「お仕事ですかぁ?お帰りは何時頃で…?」
涙と鼻水で顔面をぐちゃぐちゃにしながらレンカが顔を上げる。
「ミレニアムのエンジニア部に武器を取りに行くだけだ。最近は、依頼が少なくてな。夕方くらいには帰れると思う」
最近では、ゲヘナとトリニティが以前にも増して殺気立っている。
少し前までは頻繁に来ていた私個人宛の風紀委員会からの依頼もピタリと止み、シャーレに届く依頼もゲヘナやトリニティのものが減少傾向にあった。
その原因は恐らく、ゲヘナとトリニティの間に交わされると言う《エデン条約》が現実味を帯びて来ているからだろう。
思うに、今のこの状況は嵐の前の静けさ。
腹の探り合いをしている状況に思える。
更に“条約”が差し迫れば、何かしらの動きを見せると思われる。
ゲヘナか、トリニティか、はたまた両方か。
そして、恐らく、“条約”をよく思わない連中もいるはず。
そういった連中からの悪意ある工作の依頼か、そういった工作を止める為の依頼か。
何にせよ、私は常に意識し続ける必要がある。
どの選択を選ぶべきか、はたまた、別の選択肢の可能性。
ルビコンのような悲惨をキヴォトスに齎さない選択。
私が選ぶべき、“答え”を。
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イヴが立ち去った後、一人残されたレンカは、顔を拭い、立ち上がった。
「はぁ〜…全く、イヴさんも酷いです。折角の面白い試作品の設計図だったのに…」
端末を操作し、ダンゴムシの設計図があった箇所を名残惜しそうに眺める。
「まあ良いです。
厳重に、ファイルの奥深くに隠されたとあるファイルを開く。
その中には、端末の画面内に収まり切らない程の膨大な情報が封じられていた。
「ふふふ…計画は順調に進んでいます。設計図は消去してしまいましたが、必要なデータは回収済みです。これで滞りなく、次の段階に進めますね」
レンカの顔に浮かび上がるのは、紛れも無い、恍惚とした表情。
頬を赤らめ、愛おしそうに、端末の画面を撫でる。
「ですが、イヴさんに見せるのは最低限に留めておいた方が良さそうですかね…本当なら、彼女を実験台にデータを収集出来れば、一気に開発が進みそうですが…彼女がこれを知ったら間違いなく許さないでしょうし、根本から消されては元も子もありませんから、致し方ありませんね」
一つ息を吐き、表情を戻したレンカは、開いていたファイルを閉じ、そこに至るまでの痕跡を抹消する。
「とは言え、やはり、イヴさん。あなたは私の計画に不可欠な存在です。あなたから得られる戦闘データは、唯一無二のものですから。今後も、私の計画の為に、利用させて頂きますよ」
端末を作業台に置き、椅子に腰掛けたレンカは、背もたれに体を預け、虚空を見詰める。
その視線の先には、コンクリートの天井しかないが、彼女は脳裏で未来を見据えていた。
「そして、計画が成就し、完成した暁には、真っ先に見せてあげますよ。私の
未だ頭に残る熱を冷ますように、レンカは瞼を閉ざすのだった。
技術者は狂人か変態になりがち
そんでロクでもないものを作りがち
過去から未来まで、変わらない事実ですね