特別依頼:軍需工場廃墟防衛依頼受領
二章でのレイヴン単独戦闘パートです
ところで、原作の特別依頼の報酬、特にレポート、もっと多くなっても良いと思いません…?
スイーパーを相手にした四種の武器の試運転の成果は上々だった。
キヴォトスでの生身での戦闘でも、まるで体に染みついているかのような馴染んだ感覚で、武器の切り替えができる。
弾数の把握さえしっかりしていれば、然程問題はない。
そして、エンジニア部の改良型試作銃だが、これは何の変哲もない、神秘という変わった特性を持っているだけの狙撃銃から、着弾と同時にプラズマを発生させる、一種のプラズマライフルへと変貌を遂げていた。
相変わらず狙撃銃故に一回の装填数は少ないが、射程も長く、電撃を生じさせるエネルギーの効果は素晴らしい出来だと言えるだろう。
ただし、特性も変わらず神秘なので、重装甲のスイーパーにはダメージが抑えられてしまうのは難点だが。
それでも、着実に個性を得て、改良されて来ている。
抑えられているとは言え、ダメージそのものも悪くはない。
牽制や追い討ちには十分過ぎる。
十全に発揮されれば、恐ろしいダメージを叩き出してくれることだろう。
変態技術者と言えど、やはり腐っても職人。
きっちり仕事は熟してくれていた。
そして、それはレンカも同様であり、レンカお手製の大口径ハンドガンは、牽制用としては十二分に仕事を熟してくれる仕上がりになっている。
エンジニア部の銃と同じく、神秘の特性を持ちながら、ハンドガンにしては大きな手応えがある。
牽制のつもりの一発は思ったよりも衝撃が強く、向かって来るスイーパーの動きを一瞬、止める事ができる。
弾数が少ないことが唯一の欠点だが、これで弾数も多ければとんでもない代物になっていただろう。
同じ神秘の銃でありながら、ハンドガンとスナイパーライフルとは言え、差が気になるが、そこはやはり、完成品と試作品の差があるのだろう。
エンジニア部製のスナイパーライフルも悪くはないが、まだ可能性を秘めている未完成品だ。
今でも十分、活躍しているが、まだまだ伸び代があるのはこちらだろう。
対して、レンカ製のハンドガンは、伸び代という意味では行き詰まっている。
ショットガンもまたそうだが、後はせいぜい、部品を取り替えるか、改造を施すしか可能性は残されていない。
どちらも、残るは使い手である私の運用次第だ。
そこで私は考える。
今の現状、最高品質とも言える、ハンドガンとショットガンの、より効率的で効果的な運用方法。
一つは、“カウンター”。
先も言った通り、この大口径ハンドガンは、一発当たりの衝撃が強く、一瞬だけだが動きを止めることができる。
そこで思い付いたものが、相手の攻撃に合わせてハンドガンの銃撃を差し込み、動きを止めるといったもの。
行動の最中にいきなり動きを止められた時、その対象は果たしてどうなるのか。
スイーパーではただ吹っ飛ぶだけだが、これが例えば中型サイズの人型だった場合。
かなり効果的なのではないだろうか。
そして、動きが止まったところに、ショットガンを近距離で浴びせる。
このショットガンの全弾命中は、かなりの火力を叩き出すだろう。
とは言え、ハンドガンが有効なのは恐らく、中型以下のサイズの敵に対してだけだろう。
大型の敵──これまで戦った中で言えば、人型であってもパワーローダーには効果が薄いだろうし、そもそも戦車型の敵やその大型機であるクルセイダー型戦車には意味を成さないだろう。
ならばそういった相手にはどう運用するのか。
やはり、そういった相手に有効なのは、他に比べて脆い部位を破壊することだろう。
その部位破壊には、ハンドガンやショットガンといった制約は無い。
最悪、手榴弾でも手脚の格闘でも良い。
大型の敵に対しては、真正面から殴り合う必要はない。
相手の弱い部分や脆い部分を突き、難攻不落の牙城を崩して行く。
どんな相手にも、そうした弱点は存在する。
そこを突くことこそが、“狩り”であり、“狩人”なのだ。
そう言えば、私は以前、“猟犬”と呼ばれていた。
猟犬は、
だが、主を失った猟犬はどうなるのだろう。
私は今、どちらに向かっているのだろう。
「……どうだっていい」
区間内のスイーパーを全て倒し、その残骸の中心に佇む中、私は独り言ち、歩き出す。
それを判断するのは他人だ。
野良犬や駄犬と罵られようと関係ない。
私はただ、為すべき事を為す。
エアとコーラルをこのキヴォトスから滅ぼし尽くす。
ただ、それだけだ。
それを邪魔する者も、誰だろうと関係なく、容赦なく、殺す。
最近、すっかり穏やかな日常の中に浸り切って忘れていた気がする。
私の役目と誓いを。
これでは私の内の“歯車”どころか私自身が錆び付いてしまう。
──もし。
もし仮に。
先生が私に敵対したら──。
いや、そんなことがあるはずがない。
先生には、コーラルの危険性を共有している。
先生が、このキヴォトスがコーラルに汚染されることを容認するとは思えない。
それこそ──
いや、それこそあり得ない話だ。
段々としょうもない妄想になって来ている。
濁って澱んだ思考を振り払うように頭を振る。
昨日は十分に睡眠を取った筈だが、疲れて来ているのだろうか。
思った以上に、四種の武器の運用は脳を酷使するのかもしれない。
今後は、私もレンカに習って甘いもので気分転換する必要が出てくるかもしれない。
その時はオススメの店でも教えてもらおう。
とは言え、戦闘に支障は無い。
スイーパーのパターンは大方把握できた。
今では銃を使わずとも、素手や足を使った近接格闘で処理出来ている。
所詮は数だけの雑兵だ。
いくら数を揃えたところでまとめて蹴散らせば良い。
しかし、今では私はJ区画まで進行しているが、それなりに敵も硬くなって来ている。
次のK区画は少し本格的に武器を使っていかないとジリ貧になるかもしれない。
J区画最後のスイーパーを蹴り飛ばして壁に叩き付け、私は一息吐く。
『順調〜順調〜。でもレイヴンはちょっと疲れて来てるかな?ずっと動きっぱなしだし、ちょっと休んだら?(パリッパリッ)』
一瞬だけ迷うが、今、休憩を挟んだらせっかく振り払った先程の雑念が再来してしまいそうだ。
「…いや、問題ない。このまま流れで行こう」
『まあレイヴンなら大丈夫だろうけど…あんまり無茶しちゃダメだよ?私の仕事が増えたら嫌だし(パリパリ)』
そんなモモカの言葉を聞き流しながら、私は次の区画へ向かう。
外周部分に戻り、階段を降って行く。
その最中。
『ん?あれ…?』
「どうした?」
『いや、なんか画面が──くて──っと待っ──ノイズ────』
途中から何やらノイズが挟まり、上手くモモカの声が聞き取れない。
「モモカ、すまない。ノイズが酷くて聞き取れない。もう一度言ってくれるか?」
『なん──て?──く聞き──ない────っと──てる────』
通話のノイズは次第に大きくなり、最早何を言っているのかも分からないほど、掻き消されてしまっている。
最初は電波が悪いのかと思ったが、それは甘い考えだったと気付かされた。
何かがおかしい。
異常、いや、異変が起こっている。
向こうの様子は機材の不調以外は何とも無さそうだ。
それならば、異変はこちらで起こっている。
そして、それは恐らく、私への攻撃に他ならないだろう。
通信のジャミング──エアならば朝飯前だろう。
私を孤立させる為に妨害したか。
最近はずっと息を潜めていたが、ここに来て漸く、動き出したらしい。
寧ろ好都合だ。
一人の時ほど、気楽なことはない。
階段を降り切り、K区画に足を踏み入れる。
そこには──何も居なかった。
だが、やはり、その周囲にはコーラルの粒子が漂っていた。
頭の横の人の耳に取り付けたインカムのスイッチを押し、音声を有効化する。
相変わらず、インカムからは不愉快なノイズしか届かない。
しかし、復活した時の為に念の為、取り付けておく。
コーラルが舞う橋梁を進んでいく。
やはり、スイーパーの一体も現れない。
念の為、共鳴の幻視による強化を両手の銃に施しておく。
周囲は不気味なほどに静まり返っている。
剥がれかけた電光掲示板が明滅を繰り返す。
そして、何かの合図かのように、明滅が途絶え、光が消えた。
それは周囲にも伝わり、施設内の電飾の光が消えていく。
日の落ちかけた夕暮れ時。
逢魔ヶ刻とも呼ばれる時間帯。
妖しい西陽が差し込むが、日の当たらない場所は闇に沈んでいる。
橋梁の先、施設の基礎となる柱とも塔とも呼べる場所は、これまではスイーパーが出てくる場所だったが、今では静寂に包まれ、暗闇に鎖されている。
ふと、その暗闇の中に深紅の光が浮かび上がる。
それは次第に明瞭になって行き、西陽が照らし出す橋梁に姿を現した。
それは、スイーパーの集合体。
変異コーラルに侵食されたスイーパーが無数に寄り集まり、形を成した異形だった。
それは辛うじて、人の上半身を形作り、両手で這うようにして近付いて来る。
その惨さ、禍々しさはこれまでで一番だった。
こんな悍ましいものを生み出して、エアは一体、何を作り出そうとしているのか。
何はともあれ、先ずは目の前の怪物を始末することが先決だ。
私は懐から手榴弾を取り出し、集合体の胴体目掛けて投擲した。
間も無く爆発し、爆炎がコーラルとスイーパーを焼く。
衝撃もそれなりに与えているだろうが、集合体は歩みを止めない。
この程度で動じないのは想定内だ。
見たところ、変異コーラルの侵食段階は三段階目──《侵蝕体》にまで進行している。
濃く深い赤に染まり、もはや黒に近い。
表面には血管のような模様が浮かび上がり、脈動していると錯覚する程に強く明滅している。
以前はパワーローダーの《侵蝕体》であり、辛酸を舐めさせられた。
如何にスイーパーの集合体とは言え、決して油断は出来ない。
手榴弾の爆発をものともせず、スイーパー《侵蝕体》は、まるで水泳のクロールのように両手で這いながら迫って来る。
“手”、とは言っても、実態はスイーパーが手の形状を取っているに過ぎないのだが、それでも無数の鉄塊の固まりであり、下敷きになればただでは済まない。
更には、スイーパーの主な攻撃手段である電撃を常時発しており、叩き付けた周辺に電撃を走らせる。
かなりの余裕を持って回避しなければ、電撃で動きが止められてしまう。
幸い、橋梁の上は範囲が限られるとは言え、スイーパー《侵蝕体》の横を通り抜ける程度の余裕は十分にある。
後は、何処を狙うべきか、といったところか。
コーラルスイーパーが目と鼻の先にまで迫る。
その巨体故に、たったの一歩で大きく前進し、距離を詰めてくる。
コーラルスイーパーの腕が頭上から降って来る。
私はそれに対し、横でも後ろでもなく、前へと飛び込む。
コーラルスイーパーが形作る人型の上半身の腋の下を潜り抜ける。
電撃を発しているのは手の平から指先にかけてのみ。
手首から肩にかけては気にせずに回避出来る。
その巨体故に鈍重なコーラルスイーパーは、すぐには振り向かない。
背中を見せている今の内に試させてもらう。
ショットガンの連射を浴びせる。
共鳴の幻視によって、コーラル特効を付与された散弾は、変異コーラルを纏うスイーパーに着弾すると同時に小爆発を起こす。
続けて、アサルトライフルを一点に集中して叩き込む。
そろそろ振り向きそうな気配を感じ、ARを小回りの利くハンドガンに持ち替えつつ、コーラル特効を付与し、一発、発射する。
それは振り向こうとしていたコーラルスイーパーに着弾し、直後、全体で無数の爆発を起こす。
ダメージの蓄積によるコーラルの自爆現象だ。
かなりのダメージを負った為か、コーラルスイーパーの動きが止まる。
更に畳み掛けるべく、私は背中のスナイパーライフルに切り替える。
コーラル特効を付与し、一発、二発、三発、と発射する。
着弾と同時に爆発し、それが三度重なり、爆炎がコーラルを灼いていく。
SRを撃ち尽くせば、次はHGの残弾を全て叩き込む。
着弾する度にコーラルが爆ぜ、焼滅して行く。
──妙だ。
やけに火力が高い気がする。
SGとARは体感的に特に変化はない。
だが、HGとSRの時の攻撃だけ、威力が僅かに高い気がする。
神秘がコーラルに対して有効なのか?
それとも、何か神秘が私の共鳴の幻視に影響を及ぼしているのか。
何はともあれ、今後、神秘の特性について要検証の必要があるな。
全身、というより、全体を構成するスイーパーを焼かれつつも、流石は《侵蝕体》というだけあってタフだ。
かなりのダメージを負っている筈だが、再び動き出す。
その様子を見ながら、私はHGをリロードする。
通常スイーパーにはあまり有効では無かった為、HGの使用頻度はそれほど高くなく、HG用の残弾にはまだまだ余裕がある。
それはSRも同様だ。
SGとARはそれなりに消費しているが、それでも残弾50%と言ったところだ。
近接格闘で処理していたのがここに来て功を奏した。
強いて言えば、手榴弾が少し心許ないか。
携帯可能個数は十個だが、六つ消費して残るは四つ。
だが、この様子なら問題なく処理し切れるだろう。
そう思いつつも、油断なく相手を見据えていると、コーラルスイーパーは突如、両手を交互に地面に打ち付け、上体を反らした。
その直後、コーラルスイーパーから音波のようなものが放たれる。
それには思わず、防ぐように空いた腕を顔の前に翳してしまう。
放たれた音波は甲高い、金属を擦ったような不快な音。
──それが徐々に、変化して行く。
ノイズが混ざったような、不協和音。
様々な音が、雑多に重ねられたような音が鳴り響く。
それと同時に、コーラルスイーパー自身にもまた、変化を来たす。
まるで内側から溢れるように、コーラルの粒子が噴き出す。
それは、不協和音の中、半身のみのコーラルスイーパーを更に侵し、蝕んでいく。
やがて、その体表からは、無数の黒い結晶が生え始める。
黒い結晶は無規則に、至る所から伸び、その内部では血管のような深紅に明滅する網目模様が張り巡らされ、心臓のように脈動していた。
「これは…まさか…!?」
その言葉は思わず口から飛び出していた。
間違いない。
これは、変異コーラル侵食体の更なるフェーズ。
黒い結晶がまるで爪のように並んだ両腕を突き、スイーパーの集合体──いや、集合体
“ソレ”には、下半身が生じていた。
相変わらずスイーパーが基礎にはなっているが、コーラルが侵食し、根を張り巡らせ、黒い結晶が滑り止めの爪の役割を果たしていた。
やや不恰好ながらも四肢を得た“ソレ”は、相変わらずノイズ混じりの不協和音の声を響かせ、私に飛びかかって来た。
私は反射的に飛び退いた。
異形の怪物の腕が橋梁を打ち、揺らし、震わせる。
私は相手が体勢を戻している間に、素早く全ての銃をリロードする。
今はもう、相手が何なのか、とか、何故こうなったのか、はどうでも良い。
兎に角こいつを…目の前の怪物を討伐しなくてはならない。
だが、その為には、今のままでは火力不足だ。
こいつが本当に侵食体第四段階なのだとしたら、以前のパワーローダーや先程までのスイーパー集合体とは比べ物にならない耐久力を誇っているハズだ。
特に、全身の至る所から生えている結晶。
あれはかなり硬そうだ。
あれを打ち破る為には、やはり“残り火”を使うしか──。
その瞬間、脳裏を過ぎるのは機械仕掛けの猟犬のこと。
夢の世界で何故か姿を現さなかった
気がかりではある。
だが、それでも。
「私は、狩り続ける。主を失おうと、首輪が千切れようと。私の狩りはまだ、続いているから」
どれだけの犠牲を払おうと、その意志を継いで行く。
狩りを全うする、その時まで。
“歯車”を回し、“残り火”を燃やす。
身体能力の出力が上昇し、全身を真紅の火が包み込む。
その瞬間、私はもう一人の自分、黒い姿の“レイヴン”を思い出す。
『…くれぐれも忘れるな。そして、注意しろ。お前を“死”に
大丈夫、忘れない。
忘れていない。
今はまだ、見えている。
私が戦う《理由》。
私が、何の為に戦っているのか。
忘れない。
絶対に。
私は、“黒い鳥”にはならない。
変異コーラル侵食体、再来
しかも第四段階搭載という特別仕様です
最初からクライマックス