ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ

G.Bible入手成功!
モモイのセーブデータは犠牲になった


EP-10 真実と隠者

《廃墟》からどうにか脱出し、私はモモイたちと合流することが出来た。

 

無事にミレニアム前に到着し、私はその場でゲーム開発部と別れる。

 

「これで、今度こそ目的達成だな、モモイ、ミドリ」

 

一回目の《廃墟》潜入の時には、アリスという新しい仲間が出来たが、本命であるG.Bibleを手にすることは出来なかった。

だが、今回の潜入で、モモイとミドリ、そして、ユズとアリスを加えたゲーム開発部は、その悲願を達成することが出来たのだ。

 

「ありがとう、イヴさん。前回も今回も、イヴさんがいなかったらここまでこれなかった」

 

「本当にありがとうございます。イヴさんのお蔭です」

 

「そんなことはないよ。全てはモモイとミドリが自分で考え、選び、そして引き寄せた結果だ」

 

一回目は、二人は先生を頼った。

その選択が、先生を経由し、私を引き寄せた。

二回目は直接、私に声をかけた。

それもまた、選び、選択した結果であり、それが今に繋がっている。

 

「イヴさん、その…わたし…」

 

ユズがおずおずと私に声をかける。

 

「イヴさんに出会えて…良かったです。イヴさんと冒険できて、楽しかったです…!」

 

私は思わず面食らってしまった。

まさか、出会えて良かったなんてことを言われる時が来るとは思わなかった。

 

「…私も、ユズと…ゲーム開発部と出会えて良かったって思ってる。私もなんというか、柄にもなく高揚したよ」

 

ゲーム開発部との《廃墟》探索は、正しく“冒険”と呼ぶべきものだった。

そこには、私がこれまでの戦いの中で感じて来たものとは異なる、新しいものが含まれていたように感じる。

それはきっと、モモイ、ミドリ、ユズ、アリスが共に居てくれたからこそ、感じられたもののように思える。

 

「…はい!」

 

ユズは今までにない、弾けるような笑顔と共に、頷いた。

それを見て私は、胸に秘めていた思いをユズに打ち明けることにする。

 

「ユズ、私は…ゲーム開発部は良い部活だと思うよ。そうじゃなきゃ、モモイもミドリも、新しいメンバーのアリスだって、ここまで必死に守ろうとはしなかったと思う」

 

ユズは思わぬ衝撃を受けたように目を見開き、そして、堰が切れたように瞳を潤ませる。

 

「そう…でしょうか…?わたし…いい部長で、いられてるんでしょうか…?」

 

きっと、ユズにはこれまで、様々な困難があったのだろう。

私にはきっと理解し切れない、ユズなりの苦しみがあったのだろう。

それが今、ユズが堪えている感情の根源となっているのかもしれない。

 

「うん、ユズはいい部長だよ。だから胸を張って。自分を誇って良いんだ」

 

湧き上がり、溢れるものを堪え切れなくなったのだろう。

ユズはその場にしゃがみ込んでしまう。

 

「そーだよーユズ!ユズがいなかったら私たちもここに居ないんだから!…あ、部活にいないって意味ね!」

 

モモイがしゃがみ込むユズの背中を軽く叩く。

 

「ユズちゃんは私たちにとって、最高の部長だよ。だから、これからもよろしくね」

 

その反対側からはミドリが優しく背中を摩ってあげている。

ユズはただただ、顔を隠して頷く。

その小さな手の隙間からは、無数の涙が滴り落ちていた。

 

「はい!アリスもこの三人がいるゲーム開発部が大好きです!」

 

すると、アリスは私にバッと振り返る。

 

「イヴとの冒険、楽しかったです!また何かのクエストで一緒に冒険に行きましょう!イヴ!」

 

「──ああ、もちろん。その時は、よろしく頼む」

 

私とアリスは、互いに拳を打ち付けあった。

 

私はあとを先生に任せ、ゲーム開発部に別れを告げる。

 

振り返り、手を振る。

その先で、ゲーム開発部もまた、手を振っていた。

 

ユズも目元が真っ赤に腫れ、涙が伝っているが、それでも立ち上がり、私に手を振ってくれている。

 

「イヴさーん!《テイルズ・サガ・クロニクル2》が完成したら真っ先に伝えるからねー!絶対に遊んでねー!」

 

モモイが私に向かって大声で叫ぶ。

 

念願のG.Bibleを手に入れたゲーム開発部がどんなものを生み出すのか。

それを楽しみに期待しながら、私は帰路に着くのだった。

 

*****************************

 

その後のゲーム開発部の顛末は、先生から聞くことになった。

 

手に入れたG.Bibleをミレニアムのハッカー集団、ヴェリタスの元に持っていったゲーム開発部だったが、結果的に、パスワードを解除することは出来なかった。

 

パスワードの解除には、《鏡》と呼ばれるハッキングツールが必要であり、元はヴェリタスが所有していたのだが、生徒会──つまりはセミナーによって取り上げられていた。

 

それを手に入れるべく、ゲーム開発部はヴェリタスと《鏡》の奪還に臨むが、その前に立ちはだかるのはミレニアム最強と謳われるエージェント集団、《C&C》。

《C&C》対策をしなくては《鏡》の奪還は不可能。

そうしてゲーム開発部とヴェリタスは、エンジニア部に協力を要請する。

 

作戦を練り、ついに《鏡》奪還計画が幕を開ける。

予想通り、ゲーム開発部、ヴェリタス、エンジニア部、そして先生を加えた合同部隊の前に、C&Cの()()が立ちはだかる。

作戦を推し進め、C&Cを相手に奮闘するモモイたち。

彼女たちは、どんな逆境に陥ろうとも、決して諦める素振りすら見せなかったという。

 

『私たちは、イヴさんに認められたんだ!こんなことで諦めたら、私たちを認めてくれたイヴさんの気持ちを裏切ることになる!』

 

『ゲーム開発部が無くなったら、イヴさんに顔向けできないし、それに、テイルズ・サガ・クロニクル2を絶対に遊んでもらうって約束したんだ!』

 

『それに、もう一つ、約束しましたから!また一緒に、冒険に行くって!!』

 

かくして、モモイたちはC&Cの三人とユウカを含めたセミナーの面々による防衛線を打ち破り、《鏡》の元に到着する。

しかし、そこでモモイたちは想定外の事態、C&Cの最後の一人の来襲に出会(でくわ)す。

C&Cのミレニアム最強たる所以、《00(ダブルオー)》、美甘ネル。

モモイたちは身を隠し、ユズの機転によって、その場はどうにか凌ぐことが出来たのだそうだ。

 

先生曰く、その時のユズは、とても頼もしく、堂々としていたという。

 

『私は、皆さんのように強くはありません。でも!一緒に立ち向かうことは出来ます!私なりの方法で戦うことは出来ますから!!』

 

それは、美甘ネルをその場から引き離す為の芝居だったが、そのセリフだけは、経験から裏打ちされた芯が通ったものだったのだろう。

言い切ったユズに、美甘ネルも唖然としていたという。

そして、去り際に一言、ユズに言い残していったという。

 

『はっ、あんたもちゃんと持ってると思うぜ。“強さ”ってヤツをな』

 

こうして、モモイたちは《鏡》を手に入れ、G.Bibleの“真実”に(まみ)えた。

 

 

 

 

「…なるほど、それで今、ゲーム開発部は部室に缶詰め状態な訳か」

 

私は今、シャーレで先生と向き合っていた。

 

G.Bibleに記されていたものは、モモイたちが望むようなものではなかった。

 

[“そう。G.Bibleが当てにならないってことで一瞬は絶望したんだけど、みんな『それがなんぼのもんじゃー』って奮い立ってね。協力し合って新しいゲーム製作に取り掛かっているんだ”]

 

それを聞いて、私は安心した。

 

いや、特に心配するようなこともなかったのだが。

 

[“これもイヴのお蔭かな”]

 

「…私は別に何も。全部、あの子達自身の力だよ」

 

どれだけ影響を与えたとしても、最終的に選び、選択するのは自分自身だ。

自身が動かなければ、何も始まらない。

 

[“…まぁ、イヴがそれで良いなら良いけどね”]

 

先生は呆れたように溜め息を吐きつつも、その顔には微笑みが浮かんでいた。

 

[“そう言えば、イヴ、今日は何か予定ある?”]

 

相変わらず、シャーレへの依頼は少ないままだ。

大抵は先生が対応するような事務関係のものばかりで、荒事関連の仕事はすっかり鳴りを潜めている。

仕事が無いのは厳しいが、平和なのはいいことだ。

例え、それが一時的なものだとしても。

 

「いや、特には。久し振りに便利屋にでも──」

 

私の携帯端末が震えた。

取り出し、画面を見てみれば、音声メッセージが一件、届いていた。

差出人は、《ミレニアム/ヴェリタス》とだけ添えられている。

 

[“イヴ宛の仕事?”]

 

「…うん、ミレニアムのヴェリタスから」

 

何とも形容し難い、違和感のようなものを感じる。

 

[“ヴェリタスから?…うーん…”]

 

先生も何か思うところがあるのか、首を傾げ、唸る。

 

「どうかしたか?」

 

[“いや…うーん…何というか、彼女たちっぽくないなって思って…私の気のせいかもしれないけど…”]

 

先生はモモイ達の《鏡》奪還作戦時に、ヴェリタスの面々と関わっている。

 

「…そうか。とりあえず、行ってみるよ。案外、先生の言う通り、気のせいかもしれないし」

 

[“そっか。分かった。心配はいらないと思うけど、気をつけてね”]

 

私はシャーレの事務室を出て、ヴェリタスからのメッセージを聴いてみる。

 

『や、やぁ、レイヴン。はじめまして。私はミレニアムのヴェリタスの部員、《小鈎(おまがり)ハレ》。あなたに是非とも、受けて欲しい依頼があるんだ。場所はミレニアムの旧校舎。そこで保管、整備していた警備ロボットが暴走してしまって──』

 

明らかに様子がおかしい。

声が震えて上擦っている。

何なら少しだけ涙ぐんでいるようにさえ思える。

 

ひと通り内容を聴き終え、私は端末をしまいつつ、少し考える。

少々、悩んだ末に、私はシャーレの事務所の扉を開いた。

 

****************************

 

先生に頼み事をすると、私は速攻でシャーレを飛び出し、ミレニアムへと向かった。

 

私が先生に頼んだのは、ヴェリタスへの連絡だ。

ただし、あくまでも自然に、何ともない様子で、だ。

詳しい説明は出来なかったが、それでも先生は了承してくれた。

 

街中を駆け抜け、ビルからビルへと飛び移り、私は一時間程度でミレニアムに辿り着く。

 

端末を取り出すと、先生からの連絡が届いていた。

私はそれを確認し、目的の場所──ヴェリタスの部室へと向かう。

その直前。

 

「──あの、少しよろしいでしょうか?」

 

横から声をかけられ、反射的に振り向く。

聞き覚えの無い声だった。

私が振り向いた先には、車椅子のようなものに腰掛けた、白を基調とした服装に身を包んだ白髪の少女が穏やかに微笑みを浮かべていた。

 

「はい、構いませんが…何でしょう?」

 

ミレニアムの生徒だろうか?

それにしては服装がそれっぽくない。

だが、その少女はミレニアムの雰囲気に馴染んでいる。

 

「何処かに向かいたいのではありませんか?私が案内しましょうか?」

 

・・・ほんの少し、警戒心が生まれるが、それをそっと仕舞う。

私が外部の人間であることは誰から見ても一目瞭然だ。

少しばかり、タイミングがいいとは言っても、この程度であれば偶然に収まる範疇だろう。

私が外部の人間だと察して、親切に声を掛けてくれる生徒も一人二人は十分にあり得る。

この人はその親切な一人二人に当て嵌まる人物なのだと納得する。

 

「ありがとうございます。実は、ヴェリタスの部室に行きたいんですが、案内をお願いできますか?」

 

「それはそれは…ふふ…あなたは運が良いですね。ヴェリタスはミレニアムの中でも非公認の部活。その居場所を知っている者は限られています。声を掛けたのが私で良かったです」

 

その割には先生の話では普通にゲーム開発部は招かれたようだが…。

そして、彼女の言葉を信用するなら、その場所を知っている彼女もまた、只者ではないのだろう。

 

「それでは、着いてきてください」

 

白髪の少女が車椅子で先行する。

車椅子とは言っても、手押しする必要はなく、近未来的な雰囲気のミレニアムらしい、全自動のようだ。

私は大人しく、その後ろに着いていく。

 

「──不思議に思っているのではありませんか?」

 

唐突に、先を行く車椅子の少女は、そんな問いを投げかけて来た。

 

「何故、限られた者しか知らない非公認の部活動の部室を知っているのか…気にはなりませんか?或いは──」

「何故、タイミングよく、あなたの行き先について知っている者が現れたのか──」

 

それは言ってしまえば自供。

自ら、自分は怪しい者だと言っているようなものだ。

それと同時に。

 

「…私のことをどこまで知っているのでしょうか?」

 

あくまでも態度はそのままに、車椅子の少女に問う。

この少女の様子は、私がミレニアムに何をしに来た、何処の人間であるのか、ということまで筒抜けになっているように思えた。

 

「ふふふ…シャーレ直属特務戦闘員、レイヴン。改め、渡鳥イヴさん。私は“全て”を知っています。あなたがユウカちゃんと親しいこと、エンジニア部の元に通っていること、ゲーム開発部と《廃墟》を探索したこと、そして──」

「あなた宛のヴェリタスの依頼を確認して、此処に来たことも」

 

車椅子の少女は肩越しに振り向き、妖しい笑みを浮かべる。

 

「…あなたは、何者ですか?」

 

私の問いに、車椅子の少女は進行を止め、振り向く。

 

「ふふふ…私は──」

「いえ、私こそが!ミレニアムに咲く無垢なる白百合!天才病弱美少女!!《明星(あけぼし)ヒマリ》です!!!」

 

両手を大きく広げ、空を仰ぐ車椅子の少女──改め、明星ヒマリ。

 

なるほど…変人枠だったか…。

ミレニアムの生徒という時点で疑ってかかるべきだった。

 

私に渾身の自己紹介を披露し、その余韻に浸っていた明星だったが、居た堪れなくなったのか、咳払いを挟み、元に戻った。

その顔は耳まで赤くなっていた。

そのまま明星は再び前を向いて案内を再開する。

 

「盛大な自己紹介、痛み入ります、明星ヒマリさん。それで、あなたの目的は何でしょう?」

 

明星が変人であることは理解したが、それとは別に、結局のところ、なぜ彼女が私について知っているのかについては不明なままだ。

 

「うぅ…ひどいです…せめて何かしらのツッコミをしてくれれば私も救われるというのに…そうやってアリスちゃんのこともキズモノにしたんですね…!」

「──まあ良いでしょう。ご安心ください。別に危害を加えるつもりも、企んでいる訳でもありません。ただ、あなたがどんな人なのか、話をしてみたかっただけです」

 

そう言って明星は、本心からであろう微笑みを浮かべる。

 

「ユウカちゃんが世話を焼き、ゲーム開発部のみんなが慕う、渡鳥イヴという人物がどんな人なのか、知りたかったのです」

 

「…満足されました?」

 

私は溜め息混じりに溢す。

つまりは、全ては茶番だったという訳だ。

バカバカしい。

 

「えぇ、ひとまずは。それから…はい、これ、私の連絡先です」

 

明星は正しく近未来的なホロウィンドウを操作すると、私の正面にQRコードを提示して来た。

 

「何かあったら、連絡いたしますので、その時はよろしくお願いしますね?」

 

仕方なく、私はそれを自身の端末で読み込む。

 

「私のことを知っていたことについては?」

 

端末を操作しながら、ぶっきら棒に訊ねる。

 

「それは私がミレニアムの中でも、《全知》の称号を持つが故です。病弱天才美少女ハッカー、明星ヒマリです♪覚えて帰ってくださいね?」

 

忘れたくても忘れられないだろう。

そんなことより──。

 

「ハッカーということは、あなたはもしかして、ヴェリタスの関係者ですか?」

 

「はい、その通りです。ヴェリタスの部長を務めています」

 

思いの外、あっさりと明星は認めた。

しかも、部長という名乗りまで加えて。

納得した。

つまりは、全ては明星が私に会う為の仕込みだった訳だ。

小鈎が怯えた様子だったのは多少、引っかかるが。

 

「それならあの依頼はあなたの──」

 

「いえ、それは私は一切、関与していません」

 

だが、全ては繋がっていないらしい。

明星は依頼についての関与を否定する。

 

「それなら一体、誰の──」

 

「さて──案外、あなたのファンの仕業かもしれませんよ」

 

「それは一体、どういう──」

 

「──はい、それでは、目的地に到着しました」

 

肝心なところで、明星は私の言葉を遮るように案内の終了を告げる。

奥まった通路の突き当たりの部屋。

その部屋が何であるのかを示すものは何も無いが、間違いなく、ここがヴェリタスの部室なのだろう。

 

「それでは、私はこれで。これからも、ユウカちゃんやゲーム開発部のみんな…ミレニアムの可愛い後輩たちと仲良くしてあげて下さいね?」

 

そう言い残し、明星は立ち去った。

正直、聞きたいことは色々とあるが、あとは自分の眼で観て確かめろ、という事なのかもしれない。

釈然としないが、仕方なく受け入れるしかないだろう。

ああいったタイプは問い詰めたところで煙に巻かれるだけだ。

 

私は意を決して、ヴェリタスの部室の扉を叩いた。




ミレニアムの天才病弱美少女ハッカー登場です
本格的に関わらせるのはまだまだ先ですが、取り敢えずは顔見せということで…

イヴの元に届いた依頼の主とは…?
ヴェリタスの真意とは…?

二章は早くももうすぐ終わりです
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