Sword Art Online 赤い炎の妖精と水色の猫妖精   作:マグナス

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第三話 《魔剣グラム》破り……ッ!

 日が沈み始めた黄昏の街で、レインは相対するユージーンに向かって突撃を仕掛けながら、背中に斜めにかけられた鞘から愛刀を抜き出した。

 

 その剣は全長がレインの身長に迫る程、目分量で170cmは裕にある物で、刀身の長さも然る事ながら、横幅も途轍もなかった。

 

 レインは痩せ形で長身のどちらかと言えばややスピードタイプよりの体系なので、横幅も当然小さい。

 

 そうなれば当然刀身が長くとも、横幅は小さく筋力パラメーターを重視しない武器を持つのが定石(セオリー)のはずなのだが……。

 

「おらっ!」

 

 

 横幅も彼自身の横幅より多少小さいか全く同じなのだ。

 

 その明らかに見た目に不釣り合いな大剣を物ともせずにレインは勢いよくユージンに向かって己の得物を振り下ろした。

 

「甘いっ!」

 

 

 が、黒の剣士キリトに負けるまで、そして絶剣が現れるまで最強プレイヤーと謳われていたユージーン相手にそんな直線的な戦法が通じるはずも無かった。

 

 眉間に皺を寄せ、声を荒げながら振り下ろされた大剣を躱しユージーンは彼自身を最強と謳わせた愛刀、<<魔剣グラム>>をレインの腹部に向かって思い切り突き出した。

 

 

「――――ッ!」

 

 

 声にならない声を挙げ、険しい表情をしながらレインは振り下ろした大剣の勢いでバランスを崩しながらも身体を横向きにし、紙一重の所でその突きを回避した。

 

 一瞬安堵の表情を浮かべたが、その安心感をすぐに打ち消して大剣を地面に擦らせながらバックステップで距離を取ろうと試みた。

 

「――――むんっ!」

 

 

 気合の籠った声と共に、ユージーンが<<魔剣グラム>>をバックステップ中のレインの腹部目掛けて横薙ぎに振るった。

 

 ――ヤバい。レインはそう直感し、身体を“くの字”に曲げ、限界まで腹部を後ろにやった。

 

 その場にいたギャラリーが躱せないだろうと言いたげに溜め息を吐いたが、ユージーンの振るった<<魔剣グラム>>は綺麗に“くの字”に曲げられ、前に出された腕と脚の間をすり抜けたのだ。

 

 腹部にだけ集中し、ピンポイントで狙ったのが仇になったのだろう。

 レインは口笛を軽く吹き、自身を心の中で小さく賞賛しながら、愛刀を構えた。

 

ユージーンは眉を顰めながら力強く地を蹴り抜き、レインに向かって<<魔剣グラム>>を斜めに振り下ろした。

 

 それを見てレインは本能的に愛刀で受ける動作を取ってしまい、舌打ちをしながら僅かながらに身を反らした。

 

 ぶん、と<<魔剣グラム>>の赤黒い刀身が震動した。

 <<エセリアルシフト>>によって透過された刃が、レインが防御しようと上げた横幅のある大剣の刀身をすり抜けながらレインの胸元を深く斬り込――

 

 ――めなかった。

 

 白色の動きやすそうな上着の布に小さく斬り込みが入り、レインの肌が露出されたが傷はよく見なければ確認出来ないほど薄く、浅い物だった。

 

 レインが咄嗟に身を反らしており、彼が構えていた大剣の影に隠れていたので、ユージーンはレインが防御体勢に入る前に確認した位置に狙いを定めていたので、浅く傷をつけた程度だったのだ。

 

「やっぱり、狡くないですかねッ!」

 

 

 涼しい顔を浮かべてるユージーンに向かってお返しと言わんばかりに、下段に構えていた愛刀を両手で思い切り振り上げた。

 

 剣先が石作りの床を削りながら、牙を剥きユージーンの頑丈そうな赤い鎧に包まれた胸元を切り裂こうとした。

 

「そう思うのなら、<<聖剣エクスキャリバー>>でも取って来るのだな!」

 

 

 しかし、ユージーンは先ほどレインがやってのけたように身を横にして大剣を避け、大きく振りあがった大剣の根元に<<魔剣グラム>>を振り上げた。

 

 振り上げた為、左手を外した状態なので大剣を支えているのは右手一本。

 

 危険だと判断しながらも、圧倒的な大きさ故に重量も凄まじいその大剣を右手一つで動かすのは殆ど無理だと思い、なるようになれと心の中で叫んだ。

 

 赤黒い刀身が、レインの使う灰色の刀身を持つ大剣の根元に力強く当たり、レインの右手に衝撃が伝わる。

 

 小さな呻き声を挙げ、力を緩めたレインの右手から灰色の刀身をした愛刀が離れ、高々と宙に舞い上がった。

 

 ――決着だ、その場にいた誰もがそう思っただろう。

 

 しかしレインは諦めずに、剣を振り上げて隙が生じているユージーンの腹部に鎧の上から右足で蹴りを入れたのだ。

 

「――――な…ッ!」

 

 

 驚愕を顔に張り付け、声を挙げながらユージーンは後ろに軽く吹っ飛び、靴底を地面に擦らせながら火花を散らせた。

 

 ギャラリーからもレインの今の攻撃を称えるかのような口笛が出たりもしたが、まともにヒットはしたが鎧の上からなので殆どダメージは通っておらず、クリティカルとは認められなかった。

 

 ――――しかし、時間は稼げた。

 

 大きな音を立てながらレインの大剣が落下し、金属音を挙げながらその剣先を地面にめり込ませる。

 

 レインは急いでそれを抜き、両手で握りユージーンに向かって構えた。

 

「打撃が来るとは思ってもなかったが……いやはや、大した奴だ」

 

 

 <<魔剣グラム>>を構え直しながら、ユージーンは剛毅な口元に僅かながら笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「へぇ……案外やるじゃん、あのサラマンダー。ちょっと押されてるけど、殆ど互角にユージーンと戦ってる」

 

 

 素直に思った事を述べながら、俺は隣にいるクラインにチラリと視線をやる。

 

 まあ確かに、呼び出されても見る価値はあるかもしれないな。この試合なら。

 

「そうだろキリの字、ログインしてンの中々見ねェし、あんま種族に貢献してねェ感じだから名が売れてないだけだ。腕だけだったら……多分俺と同等か、それ以上だぜ」

 

 ……それは結構意外だな、クラインだって俺と一緒にSAOをクリアしたんだ。

 なのにそのクラインがそれ程までに言うとは思わなかった。

 

「キリト、ちゃんと見てないと。いつ終わるか分からないわよ、これ」

 

 

 シノンが視線をユージーン達に向けたまま、冷静にそう言う。

 相変わらず冷たい感じがするけど、まあシノンらしいと言えばシノンらしい。

 

 俺はレインの実力を測るべく、先ほどよりも真剣に試合を見ることにした。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「しかしレインよ、お前は勝算も無しに俺に挑んだのか? <<魔剣グラム>>を一度も破れていないぞ」

 

 

 少し呆れが混ざった声色で、ユージーンがそう尋ねるとレインは少し癪に障ったのか眉を顰めて目を細めながら。

 

「そんなわけないでしょ。破れるかもしれない方法を見つけたから、お願いしたんです」

 

 

 あからさまに不機嫌になりながら、そう返した。

 

 当然だろう。ユージーンの口ぶりは“まるで相手にならない”そう言ってる様な物なのだから。

 

 その返答に、ユージーンは再度口元に笑みを浮かべながらその強面な顔に僅かながら期待を現した。

 

「そこまで言うのならば、どの様に破るかを期待しておこう!」

 

 

 大気を揺らすほどの大声を挙げながら、ユージーンは一瞬で距離を詰め、赤黒い刀身をレインの肩に噛み付かせようと振り下ろした。

 

(本気で斬りかかって来てるよ、嬉しいと言えば嬉しいけど……えげつねぇよな)

 

 

 心の中でそう悪態を吐き、身体全体の力を抜きながら肩に赤黒い刀身が喰らい付く寸前でレインは身体を先ほどと同様に横向きにし、やり過ごす。

 

「それじゃあ……まずはお返しからしますかねッ!」

 

 

 <<魔剣グラム>>を振り下ろし、僅かながら右の脇腹の防御が留守になっているユージーンに向かってレインは愛刀を振るった。

 

 だが、先ほどよりも速度が速い。そして剣が辿った軌跡からはオレンジ色のライトエフェクトが残光として残っている。

 

「いっ……けぇぇぇぇぇええええ!」

 

 

 そう、OSS(オリジナルソードスキル)が発動されたのだ。

 

叫び声を挙げながら、レインはライトエフェクトを引かせている愛刀をシステムの動きに任せ、眼の前に立つユージーンがどう動くかに集中する。

 

頬と瞳に僅かながらの驚愕を浮かべ、一瞬だけ硬直したユージーンだが、脇腹から胸を辿るように迫り来る灰色の刀身を見て即座に身体の右半身を引いた。

 

 ライトエフェクトがユージーンの脇腹があった空間を通過し、残っていた右の胸部に僅かながらに掠った。

 

 ――しかし、これで終わりではない。

 

 ユージーンの胸部を通過した大剣は再度オレンジ色のライトエフェクトを引きながら、横薙ぎに振るわれたのだ。

 

「――――――ぬっ!」

 

 

 小さく声を挙げながら、ユージーンが今度はバックステップをし、鎧に剣先を擦らせながらも難を逃れる。

 

「ま……だ、もういっ…ぱつ!」

 

 

 そう声を漏らしながら、レインは愛刀を横に振り抜いた勢いで半回転すると同時に地面を蹴り、ユージーンとの距離を回転しながら詰め。

 

「らあぁぁぁぁあああ!」

 

 

 身体が前を向くと同時に愛刀を振り下ろした。

 

 勿論オレンジ色のライトエフェクトは引かれており、ここまでがOSSなのだとユージーンに認識させる。

 

 しかし、ユージーンも最強プレイヤーと謳われた男。

 凄まじい反応を見せ、更にバックステップをし大きく距離を取った。

 

 鎧があった空間をオレンジ色のライトエフェクトを散らしながら大剣が通過し、地面に当たり大きく音を立てた。

 

 顔には出さないが、ユージーンは全てを躱せた事に心では大きく安堵しており、多少息が乱れている。

 

 それとは対照的に、3連撃が全て外れたレインだが涼しそうな顔を浮かべて挑発的な笑みを浮かべ、大剣を構え直しながら。

 

「今のが攻撃の分の仕返し。それじゃあ本命……<<魔剣グラム>>破り、やるとしますか!」

 

 

 と嘯きながら、大剣を構えて地面を踏み抜き、走りながらユージーンとの距離を詰めていく。

 

 そんなレインに対し、ユージーンは“間合いに飛び込んで来たと同時に横薙ぎに斬る”と考えている。

 

 胸部を狙えば先ほどのように身体を曲げて避けるのも不可能、そう踏んだユージーンは何故かどんな方法で破ろうと考えているのかも僅かながら楽しみであり、少しばかりの期待を感じている自分を心の中で笑っていた。

 

「――――――むんッ!」

 

 

 間合いにレインが飛び込んだ。それを合図にユージーンがレインに向けて赤黒い刀身でこの試合を終わらせようと横薙ぎに<<魔剣グラム>>を振るった。

 

(さあ、どうでる! 破れるのなら……破ってみせろ!)

 

 

 心の中でそう叫んだユージーンの気持ちが通じたかのように、レインが一度だけ口元に笑みを浮かべると、誰もが予想もしなかった行動に出た。

 

 勢いよく腕を伸ばし、大剣を地面に突き刺しながら、止まろうとせずに大剣との距離を徐々に詰めていく。

 

 横幅がある大剣の刀身にグラムが食い込もうとした瞬間に<<エセリアルシフト>>が発動し、刀身が透過される。

 

 その後ろにいるレインには確実に赤黒い刀身が喰い込むとギャラリー、キリト達。そして振るったユージーンでさえも思っただろうが――

 

 ――刀身は大剣の中心まで到達しても現れなかった。

 

「<<魔剣グラム>>破り……成功ッ!」

 

 

 そう歓喜の声を挙げ、表情に笑みを浮かべたレインが未だに止めていなかった足で勢いよく地面を蹴り。

 

「そ……らぁぁぁあああ!」

 

 

 剣を支柱にし、一回転しながら剣を抜いた。

 

 小さく浮かび、自身の背中の下を<<魔剣グラム>>が通過するのを感じながら、レインは回転の勢いを利用して腕を振り、風切り音を盛大に辺りに散らしながら、大剣を上段から振り下ろしてユージーンの胸部の鎧を切り裂いた。

 

 ユージーンの鎧から赤色の破片がまるで血のように飛び散り、HPゲージにダメージが見て取れるほど現れ、彼の顔が苦い物を浮かべると同時に――

 

 ――ウインドウが現れ、決着を告げた。

 

「……っし!」

 

 

 それを見たレインは小さくガッツポーズをし、辺りを見回した。

 

 予想外の結果に口を開けて呆然としていたギャラリー達も……。

 

「おおおおぉぉぉおお!!」

 

 

 と驚きの声を挙げながら各々が拍手、指笛などとレインを賞賛した。

 

 

 レインは満面の笑みを浮かべながら手を振り、周りに適当に返事をしている。

 周りもそれに連れてテンションが上がっており、どんどん声が大きくなっていく。

 

「あーもう……五月蠅い」

 

 

 最前列にいるシノンが、周りの声でかき消される程度の大きさの声量でそう言いながら猫耳を抑えていると、ユージーンがレインに歩み寄り声を掛けた。

 

「まさか本当に破るとはな……どういった方法か、教えてもらおう」

 

 

 などと凄まれ、レインは一瞬冷や汗を浮かべたがすぐに打開策を思いつき、意地の悪い笑みを顔に張り付けながらギャラリーの中で最前列にいたサラマンダーの男性に視線を向けて手招きをし……。

 

「どっかの店でゆっくりと説明しますよ、勿論こんだけギャラリーを集めたクラインの奢りで」

 

 

 走って逃げようとするクラインの首根っこを掴み、腕でホールドを決めながら笑みを浮かべてそう言ったのだった。

 

「ふざけんな! 俺ァ奢らねェぞ、絶対に!」

 

 

 頑なに抵抗するクラインを見て、レインは腕の力を強くしたがクラインも引き剥がそうとレインの腕を掴み、思い切り力を込めた。

 

「そうだなクライン。俺達も呼び出されたんだから飯の一つでも食わせてもらおうか」

 

 

 が、目の前に笑顔で現れたキリトとアスナ、そして傍らにポツンと立つシノンにも迫られて逃げ場を無くしてしまい……。

 

「嫌だぁぁぁぁぁあああああ!!」

 

 

 軽く涙を流しながら絶叫し、その声が辺り一帯に響いた。

 

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