Sword Art Online 赤い炎の妖精と水色の猫妖精 作:マグナス
「いやー悪いね、クライン。あんなに人を集めて貰ったのに飯まで奢ってもらって」
まあこの世界ではいくら食べても現実世界で腹は膨れないし、栄養も取れないんだけどな。
形が問題って事で、俺はクラインのユルドを削り取るべく色々と注文をして、皮肉を込めた言葉を満面の笑みで言った。
俺の右横にはユージーンさん、左にはクライン。前には黒ずくめのスプリガンさんと、そのスプリガンさんを挟むように女の人が座ってる。
「そう思ってんなら奢らせんじゃねェよ! 何で俺が全員分出さなきゃならねェんだ!」
あー五月蠅い、隣でぎゃーぎゃー喚かないでくれよ。
周りのプレイヤー達だってこっちを凝視してるぞ、主にユージーンさんがいるからだろうけど。
「人の事を呼び出した上に、貴方の知り合いの決闘(デュエル)だったんだから、軽い祝勝会も兼ねてると思えばいいでしょ」
む、良い事言うなケットシーの女の子。
俺の左斜め前の水色のショートヘアから、同色の猫耳を生やした女の子がお冷をちびちび飲みながら落ち着いた表情でそう言った。
その言葉を聞きクラインは一瞬反論しようとしたが、スプリガンさんとウンディーネさんが頷いたので渋々といった感じで黙った。
でも……これだけでクラインが引き下がるって事は、スプリガンさんとウンディーネさんはクラインと付き合いが長いみたいだな。
「それで、クライン。この人たちはお前の知り合い?」
名前ぐらい教えろと遠回しに言うと、クラインは頷いてスプリガンの少年を指差した。
「キリト、スプリガンだ。クライン(こいつ)とは腐れ縁」
キリトと名乗ったスプリガンの少年が面倒くさそうにしながら片手を挙げて、俺の横のクラインを指差しながら言った。
なるほど、やっぱり付き合いは長いわけか。
まあお互いに軽い罵声を浴びせながら苦笑をしているから、そうだとは思ってたけど。
何処で知り合って発展した関係かは知らないけど、やっぱりそういった仲が良い奴と一緒にVRMMOって何か憧れる。
「初めまして。キリトくんの恋人で、ウンディーネのアスナです」
と、次はキリトさんの左側に座っている長髪の女の人がキリトさんの左手に自分の腕を軽く絡ませながら笑顔でそう自己紹介してくれた。
……この二人、リアルでも知り合いでそっちでも付き合ってるんだろうか。
凄い幸せそうな顔で腕を組みながら視線をキリトさんにやってるよ、でもキリトさんも少し恥ずかしいのかやんわりとそれを解いた。
聞きたい衝動に駆られたが抑える、VRMMOでリアルの事を聞くのはタブーだからな。
それで、最後のケットシーさんはっと……。
「ケットシーのシノンよ」
やっぱり無愛想だな、第一印象からそうだろうとは思ってたけど。
ていうか、このクールっていうか人を寄せ付けない感じが誰かに似てる気がするが……気のせいだろ、うん。
とかそんな事をしてるうちに適当に注文した料理が俺達の前に並べられる。
時間は今は……
「19時かよ……」
飯、もう炊けてんだろうな……。
などと思いながら呟かれた俺の小さな声にユージーンさんが反応したので“何でもないっす”とだけ返しておいた。
「それで、結局どうやったんだよ。<<魔剣グラム>>破り」
隣に座って自棄になりながら酒を飲みながらクラインが逃げられないようにか知らないが、腕を首に絡めながらそう耳元でデカい声を出す。
あー鬱陶しいなコイツ。
俺は表情に苛立ちを少しだけ出し、クラインの腕を払って。
「知ったら拍子抜けする、そんぐらい簡単な発想だったんだよ」
短くそう言って口の中を潤す為に水を口に含んだ。
キリトさんもアスナさんも、ユージーンさんも興味深々といった様子だが、相変わらずシノンさんだけは何処となく冷めてるような、興味が無さそうな感じが否めない。
「<<エセリアルシフト>>は武器に当たっている間の透過だろ? 俺の武器は決闘(デュエル)を見てれば分かると思うけど、馬鹿でかい大剣」
ここまで言えば大体分かるだろ、キリトさんは顎に手を当てて必死に答えを探して、少しして何か閃いたと言わんばかりに俺に軽く指を向けた。
「これが正解だとしたら、本当に簡単な発想だな……。その大剣の横幅を活かして影に隠れて、<<エセリアルシフト>>が持続するようにした?」
お、当たり。俺は笑みを浮かべながらキリトさんに向かって
「正解ですよ、それで。最初に言ったでしょう? 簡単な発想だって」
キリトさんの言葉で、アスナさんやユージーンさん達4人は納得したみたいだけど、俺の横で「分からねえ……」と必死に唸ってる男が一人……。
「仕方ない、馬鹿なお前の為にゆっくりと話してやるよ」
俺が半ば呆れ気味に溜め息を吐きながらそう言うと、クラインが何かを言いそうだったので言われる前に話を続ける事にする。
「<<エセリアルシフト>>は武器に当たると透過するエクストラ効果、つまり武器に当たってる間は透過するだろうって考えたんだよ。俺の得物は大剣で横幅も俺自身と同じくらいあるから丁度いい、そう思って試してみた。そしたら俺の身体に当たっても透過してたから成功したってだけ」
そう、たったこれだけの事。少し考えればすぐに思いつきそうな程簡単で、それなりに能力値があれば実践出来そうなくらいの。
実際透過した状態から戻った時に、武器の中心とかで止まってたらどうなるのかが知りたい、大方両方とも折れそうだし、現実だと絶対に有り得ないからここでも無いんだろうけど。
でもこの方法で勝とうとしたけど、簡単に言っちゃえばあの場面で縦振りが来たら俺は負けてた。あの勢いじゃ流石に方向転換も出来ないし、弾き防御(パリィ)も出来ないしな。
だから冷静に考えると、全然合理的な破り方じゃないし、もう通用しない。
今だから言えるけど、クリティカル制にしておいて本当に良かった。
OSSも掠っただけだったし、そう考えるとよく勝てたと本気で思う。
やっぱ凄い人だよ、ユージーンさんは。
「<<魔剣グラム>>にもそんな穴があったとはな……。しかし冷静に考えれば、<<聖剣エクスキャリバー>>だけでしか勝てない剣とあらば運営にも苦情が来るだろうしな」
隣でユージーンさんが少し残念そうな、だけど当たり前だと自分自身を納得させてるような表情で適当に料理を摘まみながら水を飲んでる。
前に視線をやるとキリトさんも、アスナさんも遠慮せずにゆっくりと会話しながら食べてる。
だけど一人だけ……
「シノンさん、だっけ? 君は食べないの? どうせクラインの奢りなんだから、遠慮しないで平気だと思うけど」
少し身を乗り出してそう言うと、隣で酒を呑んでいるクラインが肘を脇腹に捻じ込んできた。
地味に痛いから止めろ、本当に地味に……
「痛ェんだよこの野郎ッ!」
「ぐはっ!?」
俺は声を出しながら、肘で脇腹を攻撃する為に僅かながらにこっちに寄っているクラインの頬に裏拳を入れた。
情けない声を挙げながらクラインが軽く仰け反り、グラスをテーブルに置きながら胸倉を掴んできた。
「何しやがんだ手前ェ!」
「さっきにやったのはお前だろうがッ!」
半ばキレ気味になっているクラインの胸倉を掴み返してそう言い返す。
するとクラインは言葉に詰まり、少し言葉を探した後に……
「“どうせ”ってなんだ、どうせって!」
「あーもう一々五月蠅いな、言葉のアヤだろうが!」
顔を合わせて食事に行くと、大体いつもこんな感じなのでもう慣れた。
キリトさん達もクラインの人柄が分かっているからなのか、止める気配はない。
暫くそのまま睨み合っていたが、俺から手を離すとクラインも適当に手を離し、お互いに服を整えながら食事にありつく事にした。
ちなみにシノンさんも遠慮しながら少しだけ食べていたので、ただ奢ってもらうのに気が引けていただけの、凄いいい子なんだと思ったりもした。
そしてこの後に各自家で晩飯を食べてから再度集まり適当にクエストをやるかフィールドをやる事になったわけで……。
なので俺は久しぶりにパーソナルカードを交換し、いつでも連絡が取れる状態の友人を作った。
とりあえず店を出て宿屋に向かいながら他の人たちと別れ、決めた集合時間に遅れないようにログアウトをした。