Sword Art Online 赤い炎の妖精と水色の猫妖精 作:マグナス
「なあシノンさん」
「何よ」
うわぁ……冷たい、冷たいよその眼。何で若干睨むんだよ、もしかして俺が言いたい事がもう分かっちゃったりしてるわけ?
そうだとしても言うけどな。俺は凄い目力で睨んできているシノンさんの横に並びながらスゥッと息を吸って。
「尻尾触らせ「火矢」……御免なさい、火矢は止めてくれ。サラマンダーだけど効かないってわけじゃないから。本当に」
二文字で黙らさせられるとは思わなかった……。あとクライン、同情するような顔をしながら肩を叩くな、お前よりはまだマシだから。
警戒してるのか、シノンさんは俺の背中を押してキリト、ユージーンさん、クラインと一緒に前を歩かせている。
いやぁ……ここまで警戒されると最早清々しい、でも触りたい。
そういえばキリトが一回触ったとか何だとか……よし。
「そういやさ、キリトってケットシー族の尻尾触った事あんだろ?」
俺が横に並びながら歩いている、黒色の髪が軽く目にかかっているキリトに目を向けながら尋ねると、キリトは一瞬だけ詰まったが“ん、一応な”と返してきた。
成る程……ほんの一瞬だけど後ろを見た、そして言葉に詰まった。
結論だけ言うと、キリトはシノンさんの尻尾を触ったって事か。羨ましい。
あ、それよりも……。
「金は払うからさ、その鍛冶師紹介してくれよ。プレイヤーメイドじゃないとちょっとキツイんだけど、鍛冶師の知り合いなんていないから」
手を合わせて頼み込むように言う俺を見て、キリトは「んー」と声を鳴らし始めた。
まぁ、そりゃ難しいだろうな。
「分かった。その代わり、今度は俺ともデュエルするのが条件。単純にアンタに興味が湧いた」
はいはい、無理ですよね……って、え?
マジで言ってんの? そりゃ俺にとっては嬉しいけど、何か申し訳ない気もするんだよな……。
そんな事考えるなら言い出すなって話なんだろうけど、でも“良い”って言われるかもって考えたし……。
「デュエルするだけで、紹介してくれんの?」
ユージーンさんに勝ったキリトみたいな強プレイヤーとデュエル出来て、その上に鍛冶師も紹介して貰える。
正直、俺にとって得すぎるんだけど。
「ああ、興味が出たって言っただろ? でも、鍛冶師にボッたくられても俺は知らないぞ」
ちょ、サラッと前半カッコいい事言ったぞこの人。後半は何か嫌な感じしかしないけど。
飄々とした態度と台詞がマッチしてて、なんかこの世界の重要NPCみたいな、要するにゲーム世界のキャラクターだったり、主人公だったりって感じの雰囲気が漂ってる。
「それで、結局何処に行くの?」
俺達の後ろから走って来たアスナさんがキリトの横に並びながら、そう尋ねる。
それを見てちょっと距離を取りながら、俺はキリトの言葉を待った。
「んー……ヨツンヘイムで邪神狩りでいいんじゃないか?」
結局邪神狩りになるんだ……ていうか俺、さっさと武器のタイプ戻したいんだけどな……。
まぁ、もう少しこの重さになれてからにするかな。
*****
さて、そんなわけでやって来たヨツンヘイム。
正直言って寒くてしょうがない、何でキリトが寒くないのかが不思議なくらいだ。
そんな事を考えながら、地下に続く階段をゆっくりと降りていく俺達。
キリト、アスナさん、クライン、ユージーンさん、俺、シノンさんの順番だ。
順番的に言えば、これが妥当な気がする。
キリトが突っ込んで受けたダメージを、アスナさんがフォロー。
クラインと俺の間にユージーンさんがいるのは、ただの緩衝剤的な感じ。
前後にいたら揉めてしょうがないだろうからって、ユージーンさんが自分から言い出した事。
ま、俺は別にどこでも良かったんだけど……シノンさんの視線が怖いのを除けばね。
「なあシノンさん、そんなに睨まないでくれよ」
「睨んでないわよ」
すぐに否定された、しかもあっさり一言で。
手厳しいなぁ……。
あまり気にしててもしょうがないし、久しぶりに大剣でモンスター相手に緊張感を楽しむ事にしようかな。
そんな事を考えながら、少し間が空いたクライン達との距離を詰める為、俺は少しばかり速足になった。
「人型タイプか……。まあ、デカいけどどうにかなるか」
何でそんなに落ち着いてんだよ、キリト。邪神だぞ邪神、しかも超巨大な奴。
階段を下りて暫く歩いていた俺達の視界に飛び込んで来たのは、天井より数mだけ低い大型の牛人型の邪神だった。
実際邪神と戦闘するのは初めてな俺だからか、ちょっと足が竦む。だって凄いデカいんだぜ? 俺の身長の十倍近くあるんじゃないかってくらい。
アスナさんもシノンさんも全然動じてないし、驚いてばっかだな。
「何だレイン、実際に邪神見たらビビッてんのかよ?」
うわ、こいつも何だかんだで余裕な感じの表情でこっちを見てくるからムカつく。
俺のすぐ横に並んでいたクラインが、無精髭が生えた野武士みたいな面をした顔を俺の顔に近づけて挑発するかの様にそう言った。
「ほら、お前と俺がまずは突っ込むんだろうが。アスナさんがヒールかけて、シノンさんが援護。一回ヒール受けて、HPがイエロー切ったらスイッチ。無駄口叩いてる暇があったら行くぞ」
あまりにも顔が近くに来たので、鬱陶しくなって右手でクラインの頬を力を込めて押し返しながら、俺は左手でウインドウを出し、一応装備を確認。……大丈夫、少し不安な点が残ってるけど多分まだ耐えきれる。
そのままウインドウを消して深呼吸、3……2、1……!
「GO!」
キリトがそう合図したのと同時に、俺は大剣の柄を両手で握って左側に構えて走り出した。勿論クラインも同じく武器――カタナに分類されてる片刃タイプのそれ――を構えて俺の数m左横を走ってる。
もうそろそろ邪神が気づく頃だろう、俺は少しだけ感じた怖さを堪えながら会議した通りの援護を信じて速度を上げる。
そして邪神が強面の牛顔をこっちに向けた瞬間、俺とクラインの間を何かが駆け抜けた。
風を切る轟音を挙げながら、一直線に力強く進むもの、それは――――
「やっぱり、もう少し射程が欲しい所ね。その方が安定するし」
――――シノンさんが放った火矢だ。暗い洞窟の中だからか、ハッキリと見える火を纏って飛んで行く矢は、邪神の額に力強く刺さった。
「あの距離で当てるのか……よ!」
邪神が巨大な斧を握っている右手を乱雑に振り回しながら、空いている左手の指で器用に矢を抜き去り、適当に放ったかと思うと。
そのまま視界に入ったであろう俺に向かって、大斧を勢い良く振り下ろして来た。
走り切れそうな距離だが、今は安全マージンを取るのが重要、俺は少しだけ左に身体を寄せてながら大剣の刀身を立てながら、頭上に掲げたまま少しだけ速度を落として走り続ける。
さっきの火矢よりも大きな、洞窟内に響く程の風切り音を挙げながら巨大な斧が向かってくる。まだ、もう少し……もう少しだけ、引き付ける!
「ぐっ……らぁっ!」
ガキィン! と鈍い金属音が耳に、邪神の体重が全て乗っているかの様な重さが手に届くと同時に、俺は小さく気合を込めた声を発して、大斧が当たっている大剣を少しずつ下げていき、地面すれすれの所で引き抜く。こうでもしないと、避けられる気がしない、いや……これもかなりの懸けだったんだけど、上手くいったし結果オーライ。
地面に大きな凹みを作りながら、僅かに減り込んでいるのか浮かばない大斧を邪神は必至に持ち上げようとしている。
まあ、この間だけ好き放題やらせてもらうとしますか!
「クライン! お前も気ぃ付けろよ? この大斧……結構重いからよ!」
数m先を走ってるクラインに届くように、そう声を挙げると速度を落とさないまま左手を横に突き出して、サムズアップを返して来た。
ていうか、攻撃されてないんだからさっさと足元に着けよ。遅いんだよお前!
そう悪態を心の中で吐きながら、俺は10m前後まで近づいた邪神の右足に向かって全力で走る。肉を切り裂く音と邪神の悲鳴が耳に届く。確認するまでも無い、クラインがカタナで邪神の左足を攻撃したんだろう。
俺も残り3mまで近づいて、右脇に構え直していた大剣を左上に全力で斬り上げる!
丸太並みに太い、しかし筋肉が薄い部分を狙ったお陰かそれほど固くはなく、寧ろ斬るには丁度良い、そう言うべきかもしれない部分を一閃した。
赤色のライトオブジェクト、血を模してあるそれを浴びながらも振り抜いた大剣を切り返しの要領で右横に抜く。
再び赤色のライトオブジェクト、そして邪神の悲鳴。その二つを受けながら、俺は邪神の右足に浮かぶ痕、重なった二つの傷を確認しながら横に勢い良く飛んだ。
大斧が漸く地面から抜けたんだろう、右足をノーモーションで突き出して来た。
もうワンテンポ回避が遅れてたら直撃、下手をすればHPバー全部が削られてたかもしれない。
結果的に右足の外側に回り込む形になった俺は、上から落ちてくる邪神の拳をギリギリで躱しているクラインを視界の隅にやりながら、俺は足首に当たる部分を右から左に向かって横薙ぎに大剣を振る。
目に入るのはライトオブジェクト、それを確認しながら幾度と無く大剣を振るう。何を考えるわけでも無く、ただ只管振るう。時折援護の矢が飛んでるのを確認する以外、視界には邪神の足しか入らなかった。
それが不幸に繋がったんだろう、剣を振ってたせいで防御が間に合わずに振り抜かれた足を腹部に受けながら俺は一気に吹っ飛び、キリトとユージーンさんが待機している位置まで到達した。HPはギリギリレッドに留まってくれた。
ユージーンさんが“スイッチだ”と言って走って行ってくれたのを確認し、俺は詠唱を始めてくれてるアスナさんの近くまでいって回復をして貰う事にした。
ユージーンさんは相変わらず、重そうな鎧を着ているのにも関わらず軽快な動きで邪神の足元まで飛び込み、赤色の刀身をした、火の様なグラムを振るっている。確実に、正確に、そして安全に。その三拍子を重視している様に見える動きで、ゆっくりと邪神に攻撃を加える姿を見ていると、仲間にいる事が凄く心強く思えてくる。
「キリトォ! 俺もそろそろヤバいかもしれねぇ……スイッチ頼む!」
声を挙げたのはクライン、額に汗の代わりとして浮かぶオブジェクトを浮かべながら必死に攻撃を避け続けている。
キリトは黒色のコートを揺らしながら、こっちに向かって来るクラインとすれ違い様にタッチをし、今まで俺が見て来たプレイヤーの中で一番の速度であっという間に邪神の足元に潜り込んで、右手に握った片手用直剣を振るっている。
丁度俺の回復が終わったので、入れ替わるようにクラインの横を通りながら、シノンさんの横に並んで詠唱を始める。
一瞬だけシノンさんがこっちを見たが、気にも留めずに集中するかの様に握っている弓に視線を戻した。
前衛は取り敢えず、あの二人に任せておけば数十分は持つだろう。
だから俺は出来る事をやる、取り敢えず思いついたのが援護として魔法を使う事だった。
一先ずシノンさんの矢の性能を上げる為に攻撃力を上げる魔法を掛ける、赤色の光がシノンさんを包んだかと思うと収縮、そして四散。これで暫くは攻撃力が上がるはず。
あとは邪神に少しずつ攻撃を加えてく、俺はMPを気にしなくて済む。回復魔法は一応使える事には使えるけど、この戦闘じゃ役に立たない。剣で攻撃するならMPはいらない。だから邪神への攻撃に使えるだけ使う事にした。
中くらいの威力の魔法ならそれなりに威力も射程もある、充分届くしそれなりに数は撃てるだろう。心の中でそう呟きながら必死に覚えた詠唱の言葉を口にし続けながら、刀を左手に握って地面に突き立て、右手を邪神に向かって上げる。
「い……けぇっ!」
右手から頭部サイズの火球を一発振りあがってる大斧を握っている右手の手首に、もう一発を顔面目掛けて撃ち出す。
発射された火球は勢い良く、火の粉を散らしながら飛んで行く。
それを視界の隅に入れながら、俺は左足の所で戦闘しているキリトに視線を向ける。
洗練された、無駄な部分が見当たらない滑らかな動きだけれど何処か本気じゃない、そんな雰囲気を出している動きは目を惹きつけて離さない。
俺は目を離さずにキリトの動きに見入っていたが、邪神が悲鳴を挙げながら大斧をこちらに投げて来た事でそっちに視線を向ける事が出来た。
ん……? 大斧を投げた(・・・)?
「あ、これは拙いかもしれないわね」
いや、随分冷静だなシノンさん。俺内心凄い焦ってるんですけど、どんどん近づいて来て怖いんですけど。
でも、ここで援護を切らすのもHPがゼロになるのも拙いし……一か八かって事で、やってみようか。
「失敗しても、怒んないでくれよ!」
ああ、失敗しそうだなぁ……だって武器が危ないんだよ、数値的に。
ていうかクライン、お前はもう回復終わってるはずなのにつっ立ってんじゃねえよ。
あれだ、ここで俺だけHPが0になったら軽い復讐してやる。
クソッ……。なるように、なれッ!
心の中でそう叫びながら、轟音を上げながら回転して接近してくる大斧が当たらない程度横に離れた位置を、全力で走りながら、右脇に構えた大剣を力強く握り直して、速度を緩めないで確実に大斧との距離を詰めながら、ジャンプ――!
「お……らぁっ!」
そのまま大斧より僅かながらに高い位置に到達すると同時に落下運動が始まる。
その勢いを利用しながら、俺は右上に大剣を構えて回転してる大斧に向かって全体重を掛けて振り下ろす!
最初と同じく、金属同士がぶつかる甲高い音を洞窟内に響かせると同時に大斧がシノンさんの数m手前で地面に落ちるのと、俺の大剣が丁度中ほどから真っ二つに折れた(・・・・・・・)のを確認する。
あぁ……さよなら、俺が気に入ってたモンスタードロップ産の武器。
心の中で合掌と共にそう呟きながら着地、それと同時に右手と右足の攻撃をいなしてるユージーンさんに向かって勢い良く進む。
そのままウインドウを操作して、攻撃力は低いけどピンポイントで攻撃出来れば即殺性能がある短剣(ダガー)、針を巨大にした様な形をしている〝キラーエストック〟。そのまんまの名前が付けられたそれを左手に握り。
「ユージーンさん、ちょっと肩借りますよ!」
背中を向けているユージーンさんの肩目掛けて、速度を落とさずにジャンプ。少しだけ戸惑うユージーンさんを気にせずにそのまま邪神の右腕に着地。
バランスを崩しながらも必死に走り、肩に到達すると同時に再度ジャンプ。
顔面に向かって正確に飛ぶ俺を、邪神はその厳つい目で捉えると攻撃しているキリトとユージーンさんを気にも留めずに左手を俺に向かって突き出して来た。
やっぱり無謀すぎたかなぁ……。そう後悔しながら、半ば諦めていた俺の眼に飛び込んで来たのは。
シノンさんが放ったであろう、糸状の矢、《リトリーブ・アロー》だった。200m近い距離を物ともせずに動いている左手にそれを着弾させたシノンさんは、そのまま糸を力一杯引っ張り、俺に当たるギリギリの所で左手の軌道をずらしたのだ。
シノンさん、まじかっけぇ――――!
心の中でそう感激しながら、俺は左手に握った〝キラーエストック〟を邪神の頭頂部に思いっきり突き刺した。
ポリゴンを四散させながら暴れる邪神を見て、俺は言葉に出来ないような感動を覚えた。
そして、自分が今凄い高さにいる事に気付き、飛べない状態にある洞窟内ではどうしようも無いという事も思い出した。