ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

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第1話 プロローグ

『ウマ娘』──。

 

彼女たちは、走るために生まれてきた。

ときに数奇で、ときに輝かしい歴史を持つ別世界の名前と共に生まれ、その魂を受け継いで走る。

それが、彼女たちの運命──。

 

この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果は、まだ誰にもわからない。

彼女たちは走り続ける。

瞳の先にあるゴールだけを目指して──。

 

 

 

**********

 

 

 

「第3コーナーのカーブ、『タップダンスシチー』が先頭だ! ペースアップでリードは6バ身から7バ身! 1番人気の『ファインモーション』は2番手! ここで『ナリタトップロード』が中団から早めに仕掛ける! その真後ろから『ノーリーズン』と『ジャングルポケット』とも上がっていった! 更に後方からは『エアシャカール』や『ヒシミラクル』が追い上げてくるぞ!」

 

暮れの中山レース場は、12月にも関わらず、凄まじい熱気に包まれていた。

陰鬱な曇天も、吐き出される白い息も、肌を刺す寒さでさえも、スタンドを埋め尽くす群雄割拠を前には意味をなさない。

なぜなら今日は、誰しもが心躍らせ、指折り待ち侘びた、一年を締めくくるグランプリレースの日。

暮れの大一番、『有マ記念』──その激闘が繰り広げられていた。

 

「残り400メートルの標識を通過した! 『タップダンスシチー』飛ばす! リードはまだ8バ身あるぞ! 直線に向いた! 2番手の『ファインモーション』は間に合うか?! 外からは『ナリタトップロード』、その間を突いて『シンボリクリスエス』が上がっていく!!」

 

最前列でレースを見守る私の耳に、実況の女性の高い声が聞こえてくる。

けれど、それを掻き消すほどの歓声が、中山レース場のスタンドに響き渡る。

誰しもが、最推しのウマ娘の名を叫び、最大限の応援を投げかけている。

超巨大なターフビジョンには、14人のウマ娘たちの激闘が映し出されている。

ただのウマ娘たちではない、今年を象徴するような実力者たちだ。

全員が誇るべき成績を有し、大勢のファンに支持されて、この戦地に赴いている。

特に今年は、G1レースを勝利したウマ娘が9名も参戦している。

所謂、本命不在のレース、全員が優勝の可能性を秘めていた。

 

「残り200メートル! 先頭は『タップダンスシチー』!  外を突いて『シンボリクリスエス』!!」

 

それだというのに、私の双眸は、『彼女』に釘付けになっていた。

敬愛するチームメンバーに、意識が集中していた。

漆黒の巨躯が、稍重のターフを疾走していく。

春の芝のような深緑の勝負服を纏った褐色の肌、漆のように艶やかな黒い長髪、そして、スナイパーのような鋭い眼差し。

その勇姿を目に焼き付けるように、私は必死に目で追った。

『シンボリクリスエス』──チームメンバーであり、尊敬する先輩でもある彼女の勝利を願う。

隣ではトレーナーも、両手を硬く握りしめて顛末を見守っていた。

 

「『シンボリクリスエス』追い込んだ! 残り100メートルで、『タップダンスシチー』を捉えた!!」

 

先頭を走るウェーブがかったボブカットのウマ娘にクリスエスさんが並ぶ。

否、並ばずに追い抜く。

まるで漆黒の弾丸のように、目にも止まらぬスピードで追い抜き去っていく。

直後、眼前にあったゴール板を先頭で駆け抜けて──

 

「『シンボリクリスエス』! 凄い足で差し切った!! 勝ったのは1番の『シンボリクリスエス』!!!」

 

実況の言葉と同時に、観声が一段階と大きくなる。

歓喜、賞賛、悲哀、それらが一緒くたになり、中山レース場を、空気を大きく揺るがした。

次々とゴールしたウマ娘たちが、肩を落とし、項垂れ、あるいは芝に倒れ込む中、クリスエスさんだけは、堂々と天を見上げていた。

蒸気する汗に紅潮する頬、寒気を以てしても熱気は冷めぬのだろう。

それほどの激戦を制した姿に、私は見惚れるばかりだった。

 

「クリスエスさん……私の、英雄……!」

 

私は……『ゼンノロブロイ』は、無意識のうちに、そんな言葉を溢していた。

心の奥底に秘めていた、大切な思いを……。

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