ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

10 / 61
第10話 夏合宿

ネオユニヴァースさんが勝利した日本ダービーから、2ヶ月が経過した。

穏やかな春は早々に過ぎ去り、今は陽炎揺らめく夏だ。

毎年、春のG1シーズンを終えたこの時期なると、海辺にあるトレセン学園の合宿所で、強化合宿が行われる。

砂浜でのランニングは、不安定であるが体幹が鍛えられ、脚部への負担も小さくケガのリスクが低い。

海での遠泳では、スタミナと根性が鍛えられるので、心身共に成長することができる。

また、自然豊かな合宿所はレジャーにも富んでおり、山や海で遊んだり、地元で開催される夏祭りに出向いたりと、気分転換にも最適だ。

身も心もリフレッシュし、秋のG1シーズンへ向けて今までよりも強くなる。

それが、この合宿の大きな意味だ。

多くのウマ娘が夏の一大イベントに向けて、気持ちを昂らせているのがよく分かった。

だけど私は──ゼンノロブロイは真逆だった。

私の心は、日本ダービーの日から、ずっと深みに沈み込んだままだった。

 

「ロブロイさん、合宿所に着いたよ?」

「ライスさん……ありがとうございます。早速、荷物を置きに行きましょう」

 

興奮が隠しきれない声に、物思いから引き戻された。

バスに揺られていたのだけど、いつの間にか木造建築の合宿所へ到着していた。

ライスさんや、他の友人ら、同じチームの仲間たちの前では、出来るだけ普段通りに振る舞おうとしている。

けれど、私の心は、まるで鉛でコーティングされたように重かった。

日々のトレーニングの中でも、ズッシリとした感覚が、私の脚を鈍らせているようだった。

柏トレーナーからは、日本ダービー2着は誇るべき結果だったと言ってもらえた。

その通りなのだろうけど、それでも悔しさは拭えなかった。

私はこの合宿でも、重苦しい結果に直面しながら、1人喘ぎ悶えるのだろう……。

 

「はぁ……」

「ロブロイ──」

「……クリスエスさん?」

 

荷物を持って、割り当てられた部屋へ向かう途中、クリスエスさんに呼び止められた。

いつもと変わらぬ凛々しい顔立ちに、つい見惚れてしまいそうになる。

けれど裏を返せば、何を考えているのか汲み取り辛いと言うことで……。

なぜ呼び止められたのか、理由に心当たりがなかった。

 

「えっと……どうかしたんですか?」

「──何か、"trouble"は……ないだろうか?」

「トラブル……ですか?」

 

思わず聞き返してしまう。

もしかして、合宿に初参加の私を気遣ってくれたのかな?

 

「い、いえ、特にこれといった問題は何も……」

「……そう、か……それなら、いい」

「それじゃあ、私は荷物を置いてきますね」

 

そそくさとその場を後にする。

今日は合宿の初日だから、練習の予定は組まれていない。

けど、私には立ち止まっている暇なんてない。

1日でも多く、1秒でも長く、走って、走って、レースに勝てるようにならなくちゃ。

もう、あんな悔しい思いは、したくないから。

今の私の姿は、『英雄』から、遠くかけ離れているんだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。