ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
ネオユニヴァースさんが勝利した日本ダービーから、2ヶ月が経過した。
穏やかな春は早々に過ぎ去り、今は陽炎揺らめく夏だ。
毎年、春のG1シーズンを終えたこの時期なると、海辺にあるトレセン学園の合宿所で、強化合宿が行われる。
砂浜でのランニングは、不安定であるが体幹が鍛えられ、脚部への負担も小さくケガのリスクが低い。
海での遠泳では、スタミナと根性が鍛えられるので、心身共に成長することができる。
また、自然豊かな合宿所はレジャーにも富んでおり、山や海で遊んだり、地元で開催される夏祭りに出向いたりと、気分転換にも最適だ。
身も心もリフレッシュし、秋のG1シーズンへ向けて今までよりも強くなる。
それが、この合宿の大きな意味だ。
多くのウマ娘が夏の一大イベントに向けて、気持ちを昂らせているのがよく分かった。
だけど私は──ゼンノロブロイは真逆だった。
私の心は、日本ダービーの日から、ずっと深みに沈み込んだままだった。
「ロブロイさん、合宿所に着いたよ?」
「ライスさん……ありがとうございます。早速、荷物を置きに行きましょう」
興奮が隠しきれない声に、物思いから引き戻された。
バスに揺られていたのだけど、いつの間にか木造建築の合宿所へ到着していた。
ライスさんや、他の友人ら、同じチームの仲間たちの前では、出来るだけ普段通りに振る舞おうとしている。
けれど、私の心は、まるで鉛でコーティングされたように重かった。
日々のトレーニングの中でも、ズッシリとした感覚が、私の脚を鈍らせているようだった。
柏トレーナーからは、日本ダービー2着は誇るべき結果だったと言ってもらえた。
その通りなのだろうけど、それでも悔しさは拭えなかった。
私はこの合宿でも、重苦しい結果に直面しながら、1人喘ぎ悶えるのだろう……。
「はぁ……」
「ロブロイ──」
「……クリスエスさん?」
荷物を持って、割り当てられた部屋へ向かう途中、クリスエスさんに呼び止められた。
いつもと変わらぬ凛々しい顔立ちに、つい見惚れてしまいそうになる。
けれど裏を返せば、何を考えているのか汲み取り辛いと言うことで……。
なぜ呼び止められたのか、理由に心当たりがなかった。
「えっと……どうかしたんですか?」
「──何か、"trouble"は……ないだろうか?」
「トラブル……ですか?」
思わず聞き返してしまう。
もしかして、合宿に初参加の私を気遣ってくれたのかな?
「い、いえ、特にこれといった問題は何も……」
「……そう、か……それなら、いい」
「それじゃあ、私は荷物を置いてきますね」
そそくさとその場を後にする。
今日は合宿の初日だから、練習の予定は組まれていない。
けど、私には立ち止まっている暇なんてない。
1日でも多く、1秒でも長く、走って、走って、レースに勝てるようにならなくちゃ。
もう、あんな悔しい思いは、したくないから。
今の私の姿は、『英雄』から、遠くかけ離れているんだから。