ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
『私を、このチームに入れてください!!』
あのウマ娘は──『ゼンノロブロイ』は、そう言って、チーム『アルネブ』の門戸を叩いてきた。
初対面の印象は、お世辞にも良いものではなかった。
内気そうな少女、小柄なことも拍車をかけていた。
まるで野ウサギのような、か弱いウマ娘だと感じた。
まぁ、この時期は同じようなウマ娘が何人も来ていたので、あまり驚きはしなかったのだが──。
俺は──『柏 雷平』はトレセン学園のトレーナーを務めている。
ワインとカレーうどんが好きな、どこにでもいるアラフォーだ。
他のトレーナーからは『枯れ木のよう』と揶揄われる程度には痩せているので、一見すると頼りないかもしれない。
だが、トレーナーとしての腕には自信があった。
若い頃は海外でウマ娘の育成に力を入れていた。
かつてはL'Arcの栄光を、3人のウマ娘に獲らせたこともあった程だ。
運も絡んだとはいえ、間違いなく当時が最高潮だっただろう。
トレセン学園から、トレーナーとしての招待を受けたのも、この頃だった。
だが、ここ数年、ウチのチームはお世辞にも、強豪と言えるような成績は残せていなかった。
G1ウマ娘を輩出したこともあったが、それは彼女らの才があったからこそだ。
腕が落ちただとか、勝負の勘が失われただとか、マスコミには散々な書かれようだった。
怒りよりも自分自身への情けなさが勝ってしまったよ。
転機が訪れたのは、1年前の冬に『シンボリクリスエス』をスカウトした日だ。
彼女はアメリカからの留学生だ。
生徒会長の『シンボリルドルフ』に招待され、日本のトレセン学園へと編入してきたという。
境遇としては、俺とよく似ていた。
とは言え異国、当然ながらクラスメイトもチームメイトも日本のウマ娘だ。
クリスエス自身、お世辞にもコミュニケーションが上手ではない。
また、彼女が纏う近寄りがたい雰囲気も相まって、他人からは勝負にストイックなウマ娘と評価されていた。
本当は口下手なだけなのだが……。
しかし、この評価は、あながち間違いではない。
こと勝負において、クリスエス飢えた獣のように貪欲だった。
生まれ持ったフィジカルと、トレーニングに打ち込むパッション、勝利へのストイックさ、全てが一級品だった。
その実力をもって、彼女は『天皇賞・秋』と『有マ記念』の2冠を制覇した。
この喜ばしいニュースは、世間は勿論、学園中にも疾く知れ渡った。
その噂を聞きつけてか、ウチのチームへの入部希望者が殺到する事態に陥った程だ。
『ゼンノロブロイ』も、そんなウマ娘たちと同じだと思っていた。
「有マ記念を見て思いました!」
クリスエスとお近づきになりたい、というファン意識が強いウマ娘の1人だと……。
けど、それは誤りだった。
「私は、彼女のような……ううん、クリスエスさんを超える、『英雄』になりたいんです!」
驚いたことにロブロイは、クリスエスの姿に、『英雄となった自分自身』の姿を見ていた。
しかも、あの有マ記念を──9人のG1ウマ娘を薙ぎ払ったクリスエスを見た上で、こんなセリフが飛び出したのだ。
見た目で騙されていた、彼女は野ウサギなどではなく、飢えた獣だった。
クリスエスのような……否、それ以上のポテンシャルを秘めているような──。
「──そうだ、ロブロイや。お前さんの内に燃ゆる炎は、まだ残っているんだろう。だから苦しんでいるんだろう」
合宿所の窓から見える景色、冷たそうな海が夕日で茜に染まっている。
その砂浜を、紅白のトレセンジャージを着たロブロイが走っている。
初日のトレーニングは無しと言ったのに、彼女は自主練していた。
それも、何かに取り憑かれたような疲れ切った表情で……。
「俺は、彼女に何をしてやれるだろうか……」