ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
ロブロイは──私と、よく似ている。
去年の私も──ロブロイと、同じローテーションを走った。
皐月賞は、出走条件を満たせなかった。
青葉賞で勝ち、日本ダービーに挑んだ。
そこで、2着に敗れた──。
ロブロイは、小さな身体で、4メートルはあろうかという大きなタイヤを引いていた。
砂浜には、延々とタイヤの跡が残っていた。
悔しさが、ロブロイを突き動かしている。
だけど、その衝動は、彼女の身体を壊しかねない。
その姿も、去年の私を、見ているようだった。
「悲嘆に暮れているな。我が運命の朋友(ディオスクロイ)の片割れよ」
「──タニノギムレット、か?」
振り返ると、1人のウマ娘が立っていた。
左目に眼帯を付けたウマ娘だ。
私の"friend"であり、"rival"でもある、ウマ娘だ。
「お前のチームの新入りか。冥府(タルタロス)へ疾走する様は、まるで死神(ハデス)の足跡を辿っているようだ」
「……何を、しにきたんだ?」
「お前の方こそ何をしている? 傍観者に徹するつもりか?」
ギムレットは私の後頭部を掴み、引き寄せ、私の顔を覗き込んできた。
赤みがかった鹿毛の奥、アンバーの瞳に、ついつい引き込まれそうになる。
だが、低く恫喝的な声色が、それを許さなかった。
「彼女は破滅への道を奔走している。それがどのような終幕(フィナーレ)を迎えるのか、分からないとは言わせない」
「……………………」
ギムレットは、本当に素晴らしいウマ娘だった。
暴君をも思わせる力強い走りと、全てを撫できる鬼のような末脚は見事としか言えない。
ターフの上の彼女は、誰よりも輝き、見る者すべてを酩酊させた。
彼女は、勝負に貪欲過ぎた──。
僅か4ヶ月で6レース、しかもG1を3回も走っている。
それほどの負荷を負ったまま、ギムレットは脚部不安により引退した。
「日本ダービーは最高の走りができた。お前との競り合いは心を熱くさせた。それだけに、もう競い合えないことが心苦しい」
そう言って私は解放される。
ギムレットは、トレーニングするロブロイを指差した。
「彼女にもその非業(カルマ)を背負わせるならば、ワタシはクリスエス、お前を"好敵手"とは呼べなくなる」
「……迷って、いるんだ──なんと、声を掛ければいいのか……」
「お前は何と伝えたい?」
「私は──」
私の思いを言葉にする。
不恰好で、言葉足らずな思いを、吐き出す。
静かに聞き届けたギムレットは、鼻を鳴らして笑った。
「その言葉を、そのまま伝えればいい」
「しかし……正しく、伝わるだろうか?」
「言葉足らずだろうが、伝わるハズだ。それがお前の、本心からの言葉だと、想いであると。ならば、これ以上に何を悩む必要がある?」
そう言い残し、ギムレットは合宿所へ戻って行く。
彼女は、私の背中を押してくれたのだろう。
きっと、コミュニケーションが苦手な私を、見かねたのだろう。
「──Thanks」