ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
地下バス道を通り、地上のターフへと出る。
太陽が照り、眩しさで思わず目元を隠す。
今日はG2レース、それでも観客席は満員だった。
多くの歓声が聞こえる。
これから走る13人のウマ娘を応援するこえが、阪神レース場を大いに沸かせていた。
気持ちの高揚を感じるが、秋風がそれを冷ましてくれる。
コンディションは申し分ない。
十全の力を発揮して、勝負に挑める。
「GENY──とても『高揚する』を、しているよ」
「また会えて嬉しいです。ネオユニヴァースさん」
「やぁ、ゼンノロブロイ」
ゲートの前に、よく見知ったウマ娘の姿があった。
尾花栗毛のウェーブヘアに、澄んだ夜空のような青い瞳。
皐月賞、日本ダービーの覇者にして、世代の最強と謳われる存在、ネオユニヴァースさん。
今日はダボっとした勝負服ではなく、私と同じ、ゼッケンが付けられたシンプルな競争服だ。
だけど、彼女のセリフに見合うように、無表情ながらもユニヴァースさんは、この状況を楽しんでいるように見えた。
レース直前に訪れる、独特な緊張感に支配される、この瞬間を。
「私も楽しみにしてました。ユニヴァースさんと一緒に走れる日を」
「揃ってる、揃ってるなぁ。役者は全員揃ってる」
声のする方へ向くと、桜色のショートボブを揺らしたチェリーマイスターさんがいる。
その雰囲気は、よく知ったハツラツとしたものではなかった。
気持ちを落ち着かせているのだろうか、安定したペースの呼吸音が聞こえる。
「ダービーは慢心が過ぎた。世代のツートップと囃し立てられて、気分が上がり過ぎたんだ……」
穏やかな、しかし芯の通った声で、チェリーさんは語る。
先の日本ダービー、チェリーさんは7着だった。
パワフルな走りを得意とする彼女だが、最後の直線で伸び切らなかった結果だった。
「最も有利な枠順で、あの有様だ。不甲斐なさくて何日も寝れなかった。だけど……」
チェリーさんが顔を上げると、鋭い眼差しで射抜かれる。
メラメラと闘志を燃やした、戦士の眼差しだ。
私は思わず身震いしてしまったが、ユニヴァースさんは動じていない様子だった。
「驕りは捨てた。身体も仕上げた。お前たちを倒して、今日の勝利の勢いのまま、菊花賞まで駆け上がる」
「ネガティヴ──勝つのは……三冠ウマ娘になるのは、私だよ」
バチバチと、両者に火花が散る。
以前までの私だったら、萎縮してしまっただろう。
けれど、今の私は違う。
私も、2人と肩を並べる存在だと、胸を張って宣言する。
「私も負けません。春の悔しさは、秋のレースで覆します。今日のレースは、その第一歩です」
各々がゲートに向かい、体制が整う。
『G2レース、神戸新聞杯。いま、スタートです!!』