ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
『先頭はチェリーマイスター! チェリーマイスター先頭だ! 外を突いたゼンノロブロイ2番手! 後は外を突いてネオユニヴァース3〜4番手! あと100メートル!!』
「栄光を掴むのは私だ! この一勝を秋シーズンのファンファーレにしてやる!!」
パールホワイトの燕尾服が先頭を走る。
チェリーさんのパワフルな走りは、他のウマ娘を寄せ付けない。
ユニヴァースさんは大外へと追いやられた影響か、少し表情が歪んで見える。
正直、私も息苦しさに喘いでいる。
四肢がもげそうな程、足の先の感覚が薄れる程、必死に走っている。
けど、それでも足は止めない。
「だって、勝ちたいから……憧れの『英雄』に、少しでも近づきたいから!!」
強い信念を言葉にすると、不思議と足が軽くなった気がした。
限界かと思ったけれど、また力が湧き上がってきた。
私を先頭へと導いてくれるほどの力が。
『ゼンノロブロイが先頭に並びかける! チェリーマイスターも譲らない!!』
「私だ! 私が勝つんだ! ココは、私の場所だ!!」
「まだ! まだ、私も、諦めません!!」
チェリーさんとの競り合い、互いの身体がぶつかりそうな程のデッドヒートだ。
まるで重戦車のように何者をも寄せ付けない走りは、驚嘆以外の言葉が浮かばなくなる。
でも、私だって準備をしてきた。
トレーニングを重ねてきた。
その成果を発揮するのは、絶対にこの瞬間だ。
『残り100メートル! 今度はゼンノロブロイが先頭だ! ゼンノロブロイ先頭! 2番手はチェリーマイスターだ!』
僅かに私の方が先に出る。
チェリーさんの姿が、視界の端へと消えていく。
眼前にあるのは、青々とした芝のターフと、一本のゴール板のみ。
駆け抜けるんだ、あのラインの先に。
一歩でも、ハナ差でも、1ミリでも先に。
「私が……勝つんだああああああっ!!!」
『チェリーマイスター並びかけてきたか?! しかし、今はゼンノロブロイ、ゴールイン!!』
ゴール板の前を駆け抜ける。
ただひたすら、無我夢中で通過する。
実況の声も耳に届かないくらい、そのことだけに集中して。
だけど、その瞬間だけは、ハッキリと自信を持てた。
私がレースに勝った瞬間だけは。
「……勝った……勝った! やりました、私、勝ちました!!」
やや遅れて、実感が沸々と内から湧き上がる。
思わず衝動に任せて、飛んで跳ねるように喜びを露わにしてしまう。
だけど、それ程までに嬉しかった。
重賞の勝利がではない、これ程までの強者たちを相手に勝てたことがだ。
「……あと、少しだったのに……見事に躱された、完敗だ」
「うん……ネオユニヴァースは、"悔しい"を、感知しているよ」
「チェリーさん、ユニヴァースさん」
掲示板には2着にチェリーさん、ユニヴァースさんは3着と表示されていた。
予想していた、そんな結果だった。
勝利の喜びを一旦飲み込み、私は2人に頭を垂れた。
「お二人とも、ありがとうございました! お二人という目標であり、ライバルがいたから、私は勝つことが出来ました!」
「ロブロイが勝ったのは、"努力する"を、した結果だよ」
「今日の勝利は譲るけど、本番は勝たせてもらうから──クラシック最後の一冠、『菊花賞』は、ね?」
「ネガティヴ──私は"星間宙域"に至る……『三冠ウマ娘』に、なるよ」
そう、まだスタートラインに過ぎない。
本当の勝負は、ここからなのだから。
「次も負けません。菊花賞も、その先も、私が勝ちます」