ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』、通称『トレセン学園』。
全国から選りすぐりのウマ娘が集う、日本最高峰レベルの学び舎だ。
ここに通うウマ娘は、国民的スポーツ・エンターテイメントである『トゥインクル・シリーズ』というレースへの出場と勝利を目指し、日々、勉学と練習に励んでいる。
最高峰を謳うだけあり、設備の充実度はかなり高い。
実物大のコースを数種類備えたトレーニング用のトラック、スポーツジムに巨大な室内プール、レッスン用スタジオ、練習用の屋外ステージ、購買部やビュッフェ形式のカフェテリア等、挙げればキリがない。
中でも私のお気に入りは、充実した蔵書が自慢の図書館だ。
スポーツ科学や栄養学等、アスリートには欠かせない学問の書籍は勿論、娯楽として楽しむための小説や伝記もたくさん揃っている。
私は、本を読むのが好きだ。
本は、私を無限の世界に連れ出してくれる。
どこにいても、ページを捲れば、文字の標によって、別世界へと冒険することができる。
新たな人物との出会いや、みたことのない風景をリアルに感じることができる。
そんな不思議な魅力が、本には詰まっている。
だから私は本を読む。
暇な時間を見つけては、ついつい本を開いてしまう。
数多のジャンルがあれど、特に『英雄譚』が好きだ。
強くて、カッコよくて、時には泥臭くて、それでも弱者に寄り添う姿に惹かれてしまう。
そんな英雄譚が私は好きだ。
そんな英雄たちに、羨望を抱いてしまう。
偉大なる英傑たちの活躍を目の当たりにする内に、私の胸中にも小さな憧れが燻っていた。
私もいつか、彼らのような──
「……さん。……ロブロイさん! 『ゼンノロブロイ』さん!」
「は、はぃぃぃ!!!」
急に大きな声で名前を呼ばれて、思わず声が裏返ってしまう。
身体が弾んだせいでズレてしまった黒縁メガネの位置を直し、声の主を一瞥する。
私を呼んだのは、学生寮でのルームメイトである『ライスシャワー』さんだった。
漆のように艶やかで、片目が隠れるほど長い黒髪が特徴的な人だ。
普段は大人しい彼女が大声を出したので、私も驚きを隠せなかった。
そんな大袈裟なリアクションにビックリしたのか、ライスさんも丸い目を大きく見開き、少しオドオドとした様子で言ってきた。
「き、急に大声を出して、ごめんなさい。ロブロイさんを、驚かせるつもりはなかったの」
「い、いえ、私の方こそ、呼んでくださってたのに全然気づかなくって……」
互いに遠慮がちな様子で頭を下げる。
ライスさんが私を何度も呼んでくれていたのに、ずっと気づけなかったのが申し訳なくて。
「それで、御用件は……?」
「えっと、ロブロイさん、そろそろ練習の時間って言ってたから……」
「練習の、時間……?」
ライスさんの言葉を反芻しながら、壁掛けの時計を見やる。
時刻は13時半を指している。
本日の練習は13時からだったハズなのに……。
「ひゃっ!! も、もも、もう、こんな時間……!?!?」
大慌てで本を閉じて図書館を飛び出す。
制服から運動着に着替えてから練習場に行くまで、10分はかかる。
大遅刻で心臓がバクバク鳴ってしまう。
私は、ライスさんへの御礼も忘れて、一心不乱に図書室を飛び出した。