ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

21 / 61
第21話 引退

「YO-HO! 見てたぜクリスエス! それでこそ、我が宿命のrivalだ!!」

「Long time. タップダンスシチーか」

「タップダンスシチーさんって、あの……?」

「おっと、リトルウマ娘ちゃん! アタシのことを知ってるのかい?」

 

長身でボブカットのウマ娘は、嬉しそうに破顔して、私の頭を荒々しく撫でた。

タップダンスシチーさん──クリスエスさんと同じく、アメリカから留学してきたウマ娘だ。

竹を割ったように快活な性格で、彼女の周りには自然と人が集まる。

曰く、夢は城を建てること。

そこで仲間たちと、一生遊んで暮らすこと、だとか。

壮大な夢を掲げる、海賊のような面白いウマ娘だと、クリスエスさんから聞かされていたのだ。

 

「タップダンスシチーさん。春の金鯱賞に、この前の京都大賞典を勝利された方ですよね?」

「That's right! もしかして、私のファンなのか? 見る目があるな〜! どうだ、私の仲間にならないか?」

 

両肩をガッチリと掴まれ、顔を間近にグイグイと話を進めてくる。

こちらが言葉を発する暇もなく、狼狽えていると、クリスエスさんに引き寄せられた。

クリスエスさんは、静かにタップダンスシチーさんを見据えて言った。

 

「Sorry. ロブロイは──私の、チームメイトだ」

「おや、もしかして嫉妬させちゃったかな? そんなつもりじゃあなかったんだ。許してくれよ、クリスエスゥ〜」

「今日は、何をしに来た?」

 

タップダンスシチーさんが大袈裟に謝罪する。

しかし、クリスエスさんの素朴な疑問に耳をピクリと反応させ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「そりゃあ、宣戦布告にきたのさ。何やら、Badな噂を耳にしたからねぇ……」

 

タップダンスシチーさんは、右手の指を2本立てる。

それが何を意味するのか分からなかったが、すぐに答えは明かされた。

 

「2着だった。昨年の有マ記念、ゴール前に躱されて、アタシはG1の栄光を掴み損ねた。今日は、そのリベンジマッチの約束をしにきたんだ」

 

クリスエスさんを覗き込むようにして言う。

そのバチバチと火花が散りそうな雰囲気は、2人が真にライバルと認め合っている証明のように思えた。

けれど、私の胸の奥では、言い知れない不安感が湧き上がっていた。

 

「まだ秋の王道G1は2レースある。ジャパンカップと有マ記念だ。そこで私は、クリスエス、アンタを倒す! アタシの強さを証明するためには、『クリスエスに勝利した』という称号が必要なんだ!」

 

タップダンスシチーのセリフが重なるにつれて、私の抱える不安感も膨れ上がっていく。

それはきっと、 彼女のセリフの端々に、焦燥感を覚えるからだろう。

クリスエスさんに対する『悔い』のような、心残りのような、

その気持ち悪い不安感の正体は、呆気なく判明した。

 

「ジャパンカップと有マ記念、アンタの『引退レース』で、アタシが引導を渡してやる。覚悟してなよ」

「引退レース……引退レースぅ?!」

 

タップダンスシチーさんの一言に、頭を強く殴られたような強い衝撃を受けた。

私は思わず、クリスエスさんの顔を二度見してしまう。

その視線に気付いたのか、クリスエスさんは首を縦に振った。

それは、認めたくない現実を突きつけるには、十分すぎる所作だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。