ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
「YO-HO! 見てたぜクリスエス! それでこそ、我が宿命のrivalだ!!」
「Long time. タップダンスシチーか」
「タップダンスシチーさんって、あの……?」
「おっと、リトルウマ娘ちゃん! アタシのことを知ってるのかい?」
長身でボブカットのウマ娘は、嬉しそうに破顔して、私の頭を荒々しく撫でた。
タップダンスシチーさん──クリスエスさんと同じく、アメリカから留学してきたウマ娘だ。
竹を割ったように快活な性格で、彼女の周りには自然と人が集まる。
曰く、夢は城を建てること。
そこで仲間たちと、一生遊んで暮らすこと、だとか。
壮大な夢を掲げる、海賊のような面白いウマ娘だと、クリスエスさんから聞かされていたのだ。
「タップダンスシチーさん。春の金鯱賞に、この前の京都大賞典を勝利された方ですよね?」
「That's right! もしかして、私のファンなのか? 見る目があるな〜! どうだ、私の仲間にならないか?」
両肩をガッチリと掴まれ、顔を間近にグイグイと話を進めてくる。
こちらが言葉を発する暇もなく、狼狽えていると、クリスエスさんに引き寄せられた。
クリスエスさんは、静かにタップダンスシチーさんを見据えて言った。
「Sorry. ロブロイは──私の、チームメイトだ」
「おや、もしかして嫉妬させちゃったかな? そんなつもりじゃあなかったんだ。許してくれよ、クリスエスゥ〜」
「今日は、何をしに来た?」
タップダンスシチーさんが大袈裟に謝罪する。
しかし、クリスエスさんの素朴な疑問に耳をピクリと反応させ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「そりゃあ、宣戦布告にきたのさ。何やら、Badな噂を耳にしたからねぇ……」
タップダンスシチーさんは、右手の指を2本立てる。
それが何を意味するのか分からなかったが、すぐに答えは明かされた。
「2着だった。昨年の有マ記念、ゴール前に躱されて、アタシはG1の栄光を掴み損ねた。今日は、そのリベンジマッチの約束をしにきたんだ」
クリスエスさんを覗き込むようにして言う。
そのバチバチと火花が散りそうな雰囲気は、2人が真にライバルと認め合っている証明のように思えた。
けれど、私の胸の奥では、言い知れない不安感が湧き上がっていた。
「まだ秋の王道G1は2レースある。ジャパンカップと有マ記念だ。そこで私は、クリスエス、アンタを倒す! アタシの強さを証明するためには、『クリスエスに勝利した』という称号が必要なんだ!」
タップダンスシチーのセリフが重なるにつれて、私の抱える不安感も膨れ上がっていく。
それはきっと、 彼女のセリフの端々に、焦燥感を覚えるからだろう。
クリスエスさんに対する『悔い』のような、心残りのような、
その気持ち悪い不安感の正体は、呆気なく判明した。
「ジャパンカップと有マ記念、アンタの『引退レース』で、アタシが引導を渡してやる。覚悟してなよ」
「引退レース……引退レースぅ?!」
タップダンスシチーさんの一言に、頭を強く殴られたような強い衝撃を受けた。
私は思わず、クリスエスさんの顔を二度見してしまう。
その視線に気付いたのか、クリスエスさんは首を縦に振った。
それは、認めたくない現実を突きつけるには、十分すぎる所作だった。