ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

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第22話 前進と停滞

タップダンスシチーからクリスエスさんへの宣戦布告がなされた翌日、私は図書室で呆然としていた。

無論、何もしていないワケではない。

図書委員としての仕事をしてるし、前から気になっていた本を読んでもいる。

だけど、いずれも集中することができないのだ。

生徒が本を借りに来ても気づくことができなかったり、同じページを何度も眺める時間が続いたり……。

原因を問われれば、心当たりなど一つしかなかった。

 

『ジャパンカップと有マ記念、アンタの『引退レース』で、アタシが引導を渡してやる。覚悟してなよ!』

 

タップダンスシチーさんの言葉が脳内で反芻される。

昨日は現実を受け止めるので精一杯だったせいか、今になって実感が心にのしかかってきた。

柏トレーナーは知っていたようで、以前から予定を調整していたという。

天皇賞の走りを見る限り、まだ引退するような衰えは感じられなかった。

ならば、何故?

 

「……わからない……わからないぃ〜〜」

「何が、"わからない"なの?」

「……この声は……ユニヴァースさん?」

「アファーマティブ、ネオユニヴァースだよ。悩んでいるなら、聞かせて欲しいな」

 

優しい声色に顔を上げると、よく見知った同期のウマ娘の姿が映った。

ユニヴァースさんは口元に手を当て、小首を傾げている。

私は、クリスエスさんが引退する旨を伝えた。

また、それに納得がいかずに、悶々とした胸に内を明かした。

 

「……そっか。とても強いウマ娘なのにね」

「そうなんです。理由も分からないから、モヤモヤばかりが頭で渦巻いてしまって……」

 

申し訳ないと思いつつ、自己中心的な悩みを打ち明ける。

すると、ユニヴァースさんは口元を小さく緩めた。

 

「それは、とてもいいことを聞いたよ」

「え? 何でですか?」

「だって、私も走るから……次の『ジャパンカップ』に」

「ええっ?! ユニヴァースさんが?!」

 

図書室にも関わらず、思わず大声を上げてしまった。

ジャパンカップは日本国内のみならず、海外からも強豪のウマ娘を招待して開催されるレースだ。

シニア級の強者たちを相手に、クラシック級のユニヴァースさんが挑む。

それが、決して優しい道でないことは明白だ。

 

「私だけじゃないよ。『チェリーマイスター』や、菊花賞ウマ娘の『ロットオブチャンプ』も走るよ。"ANOI"だね」

「……他の皆さんも……」

 

急激に焦燥感が湧き上がった。

まだクラシックシーズンが終わったばかりだと、少し暢気に考えていた。

その考えは甘かった、私はスタートラインに立ったばかりだったのだ。

 

「『シンボリクリスエス』とは、一度、走ってみたかったんだ。とても、"ラッキー"だね」

 

ユニヴァースさんは、とても嬉しそうに微笑んでいた。

シニア級の諸先輩方と戦うことに対して、恐ろしさよりも楽しみが優っているようだった。

皆さん、もう次のステージに向かって、進み始めているんだ。

立ち止まっていたのは、私だけだったんだ……。

 

「ところで、ロブロイは、次のレース、どうするの?」

「…………私は…………」

 

軽蔑されるだろう。

けれど、仕方がない。

臆病な私は、これ以上、返答することが出来なかった。

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