ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

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第24話 宣戦布告

ガチャン……ガチャン……

 

規則的に、重厚な機械音が響く。

トレセン学園のトレーニングジムは、いつも筋トレに勤しむウマ娘たちで溢れかえっている。

その中で、私は探していたウマ娘の元へ近寄る。

レッグプレスにより下半身を鍛えていた彼女は、予定のセットが終了したのか、はたまた私の存在に気付いたからか、トレーニングを中断した。

 

「……ロブロイか?」

「すみません、クリスエスさん。トレーニングを邪魔してしまって……」

「No problem. ちょうど──ひと段落、ついたところだ」

 

クリスエスさんシートに腰をかけたまま、手元のタオルで汗を拭う。

彼女の引き締まった両脚を見ると、普段の洗練された走りが脳裏によぎるようだ。

それだけに、先日のジャパンカップの結果が残念でならない。

 

「ロブロイ……私に、用事が、あるんじゃないのか?」

「えっと……はい……」

 

クリスエスさんに促されるも、すぐに口籠ってしまう。

必要以上にクリスエスさんの時間を奪うわけにはいかない。

そう、頭では分かっていても、とても勇気のいることだった。

クリスエスさんに、こんなことを質問するのは……。

だけど、私にとっては、私の『未来』を左右する、とても大切な問いだった。

 

「……クリスエスさんは、どうして……どうして、次の有マ記念で、引退するんですか……」

「…………」

 

とても不躾な質問であることは理解している。

それでも、納得が欲しかった。

クリスエスさんの走りに魅了された1人として、未練たらしいだろうが、どうしても理由を知りたかった。

クリスエスさんは少し考える素振りを見せると、やがて静かに口を開いた。

 

「訂正、させてくれ──引退、するつもりはない」

「……へ? で、でも、次の有マが最後ってトレーナーさんも……」

「正しくは──『トゥインクル・シリーズ』から、『ドリームトロフィーリーグ』へ、移籍する、だ」

「…………移籍?」

 

クリスエスさんは首を縦に振る。

ドリームトロフィーリーグ──トゥインクル・シリーズで活躍したウマ娘が走る、レベルが更に高いリーグだ。

誰しも名を聞いたことのあるようなウマ娘がひしめき合う、まさに夢のようなレースだ。

 

「ルドルフから……誘われたんだ──ドリームトロフィーリーグで、走らないかと。私の"Mission"は、日本のレースシーンを盛り上げることだ。そのために、私は日本へ来た」

 

クリスエスさんは真っ直ぐな瞳を私に向ける。

嗚呼、いつ見ても、深い海のような藍色の瞳は、私を引き込もうとする。

本当に、狡い人だ──。

 

「レース界の、更なる"Evolution"のために、次のステージへ進む。ロブロイが、次のステージへと進むように……」

 

クリスエスさんは、いつも私の前を歩いている。

1年前、初めてレースを観た日から、私の前にはクリスエスさんがいた。

けれど、クリスエスさんは、ずっとずっと未来を見ている。

日本のレース界の先を見据えている。

彼女の目には、きっと今の私は映っていない。

狡い、悔しい、だから──。

 

「──私も走ることにしました。次の有マ記念に、クリスエスさんと一緒に」

「…………それは、本当か?」

「走ります。最初で最後の勝負ですが、必ずあなたに勝って、『英雄』を超えてみせます」

 

──ずっと憧れてきた背中に、理想の『英雄』に、私は宣戦布告をした。

クリスエスさんに──狡い人に、もっと私を、『ゼンノロブロイ』を見て欲しいって、思ってしまったから。

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