ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
「ロブロイ! もっと他のウマ娘の動きを意識して走れ! 必ず最良のコースが空いているとは限らないんだ!」
「はいっ!!」
「クリスエス! お前さんはもっと余裕を持って走るんだ! 次走では確実に大勢からマークされる、リラックスして走る意識をするんだ!」
「……了解した」
手元のタイマーを確認しながら、コースを並んで走る大小の二つの影を見送る。
ゼンノロブロイとシンボリクリスエス、俺が指導する『チームアルネブ』のウマ娘たちだ。
互いに切磋琢磨しているが、今だけ二人の関係は、これまでと大きく異なっている。
偉大な先輩と憧れる後輩だった二人は、今や一つのタイトルを競い合う『ライバル』になっている。
来たる年末、1年を締めくくる大勝負、『有マ記念』だ。
昨年は数多のG1ウマ娘たちを蹴散らしてクリスエスが勝利した。
その一大レースに、今年はチームから二人が出走する。
トレーナーとしては、とても複雑な心境だ。
「どちらかに肩入れなんて、出来るハズもない。出来ることは、ただ、あの二人が悔いの残らない勝負をしてくれるように、背中を押すことだけだ」
最初はクリスエスからだった。
夏の合宿が終わりに差し掛かった頃、ドリームトロフィーリーグへの移籍を相談された。
個人的にはトゥインクルシリーズでのクリスの活躍をもっと見たかったが、彼女の使命に対する真摯な姿勢を尊重した。
それに伴い、秋のローテーションは秋古バ3冠制覇へと向いた。
天皇賞・秋、ジャパンカップ、有マ記念の同年制覇。
かつて、その偉大な称号を成し遂げられたウマ娘は、たった1人だけだ。
クリスエスの花道を飾るには、相応しい称号だと思っていた。
もっとも、ジャパンカップでタップダンスシチーに阻まれてしまったのだが。
その直後だったな、ロブロイから有マ記念でクリスエスと戦いたいと言われたのは。
きっと、ジャパンカップで同期たちがクリスエスと戦う姿を見て、影響を受けたんだろうな。
トレーナー視点、チームメンバー同士で戦うメリットは少ないと思ったが、ロブロイがクリスエスに向ける敬意の大きさと『英雄』を目指す志を尊重することにした。
『英雄』を目指すロブロイが、憧れの『英雄』と称するクリスエスを倒そうと奔走する。
きっとこの戦いは、ロブロイにとって、とても大きな転機になるだろう。
だが……いくら綺麗事を並べたところで、トレーナーである以前に、俺も1人の『人間』だ。
2人のかわいい教え子なのに、比較をしてしまうし、情を抱いてしまうこともある。
今だってそうだ。
俺は果たして、2人を対等に指導できているのだろうか。
無意識のうちに、どちらかに有利になるよう、差を生じていないだろうか。
そんな不安が産まれるも、しかし、それでも応援してしまう。
両者の勝利を願いつつも、それでも心の奥底では、『アイツ』の勝利を祈ってしまう。
「……俺は、トレーナー失格だな…………」
自嘲的な笑みが溢れる。
無意識のうちに、タイマーを握る手に力が入ってしまった。