ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

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第26話 クラシックVSシニア

『今年も色んなことがありました。強いウマ娘が強い勝ち方をしたレース、ここ一番で意地を見してくれたレース、そして久しぶりにトリプルティアラも誕生しました』

 

テレビではアナウンサーが、今年一年のレースを振り返っている特番が組まれていた。

けれど、私の耳にはぼんやりとしか届いていない。

これから走る、今年最後のレースに向けて、静かに集中力を高めていた。

1年間の集大成となるレース、憧れの人と走る最初で最後の舞台。

冬のグランプリレース、有マ記念の発送時刻が迫っていた。

 

『まだ、僕が一番好きなG1が残っています。さぁ、いよいよです!』

 

アナウンサーの掛け声と共に、有マ記念の特番が開始する。

これから、出走する12人のウマ娘の紹介や、レースの展開予想がなされるのだろう。

きっとそこでは、私も紹介される。

そして、シンボリクリスエスさんも──。

 

「……大丈夫……きっと大丈夫……」

 

椅子に座って深呼吸、キルトスカートをギュッと握りしめる。

控室には私だけ、クリスエスさんとは別の部屋だ。

柏トレーナーは今、クリスエスさんと最後のミーティングをしている頃だ。

それが終わったら、今度は私の番。

それまでは、自分自身と向き合う時間だ。

 

「……大丈夫……でも、少し怖い……」

 

弱音が溢れる、いつものことだ。

相手は憧れの先輩、私がチームアルネブを選んだキッカケの人。

昨年は何度ウマ娘に選出されるほどの成績を残した、その強さは誰しもが認めるものだ。 

対する私は、クラシックでの戦いを終えたばかりの若輩者。

重賞勝利こそしているけど、G1レースでの勝利は未経験。

負けるかもしれない、追いつけないかもしれない……怖い……。

 

「……怖い…………」

 

身体を抱き抱えるように蹲り、弱音を小さく溢す。

直後、ノックの音が飛び込んできた。

思わず飛び上がってしまい、扉の方を見る。

トレーナーさんかと思いきや、入ってきたのは──。

 

「やぁ、ロブロイ。『JYVE』かな?」

「悪いね、集中力を削いじゃったみたいで」

「ユニヴァースさん。チェリーさん」

 

そこにいたのは、クラシックで戦った同期の2人だった。

曰く、レース前の私を励ましにきてくれたとのこと。

 

「す、すみません、まともなおもてなしもできなくて……」

「いやいやいや、コッチが勝手に来たんだから、気を遣わなくていいって」

「ネオユニヴァースは、『応援』をしに来たんだよ」

「あ、ありがとうございます。嬉しいです……」

 

素直に感謝の言葉を口にした。

心の内側に、少しの温かさが広がった。

それでも、不安感は拭えなかった。

 

「……お二人は、ジャパンカップのとき……怖くなかったんですか? 私は、怖いです。今までよりも、強い人たちと走るのが」

 

つい、弱音を吐き出してしまう。

せっかく応援しに来てくれたのに、弱い姿を曝け出してしまう。

自分と向き合って、必死に押し込めようとしていたのに……。

嗚呼……やってしまった……。

 

「……そりゃあ、メチャクチャ『怖かった』よ」

「……チェリーさん?」

 

耳を疑ってしまった。

あの、普段は強気な態度のチェリーマイスターさんが、『怖かった』と言った。

チェリーさんは髪をガシガシと掻きながら、ソッポを向いた。

 

「3冠レースで自信が打ち砕かれてたから、やっぱシニア級ウマ娘たちとの戦いにビビってたんだ……お陰で、練習の調子が出し切れなかった。けど、負けたお陰で吹っ切れた。自分よりも強い連中との戦い方が分かったんだ」

 

恥ずかしそうに、しかし、晴れやかな笑顔で語る。

負けることは怖いけれど、チェリーさんは負けたことで克服したのだ。

肉体の強さだけでなく、心の強さを得たのだろう。

それが、彼女の笑顔に表れている気がした。

 

「全てのレースは、"LYBL"──何が起こるか、わからない。だからこそ、戦うことに、意味があるんだよ。"MOLT"、だよ」

「相手はシンボリクリスエスさんに、タップダンスシチーさんもいる。『ロブロイなら勝てる』なんて、無責任なことは言わない」

「だけど、これだけは言える」

 

「「ロブロイは、強いよ」」

 

ガチャッとドアが開き、少し息を切らした柏トレーナーが飛び込んできた。

トレーナーさんは2人の来訪者に驚きつつ、呼吸を整えて謝罪を口にした。

 

「スマンな、ロブロイ。少し、クリスとのミーティングが長引いた。あまり時間は取れないが、最後の確認をしよう」

「それじゃあ、私たちはスタンドで応援してるから。全力でぶつかって来いよ」

「"GENY"──楽しみに、してるね」

 

2人の後ろ姿を見送る。

正面に座ったトレーナーさんが、私の顔をマジマジと見てくる。

少し考える素振りをすると、口の端を上擦らせた。

 

「……何か、いいことでもあったのか? それとも、あの2人から、最高のエールでも貰えたか?」

「き、急にどうしたんですか? 私の顔に、何かついてますか?」

「そうさなぁ……目と鼻と口と、あとメガネも付いてるなぁ〜」

「も、もぉっ! 冗談はやめてください!」

 

ハッハッと愉快そうに笑うトレーナーさん。

そして今度は、穏やかな笑顔で、私の頭を優しく撫でてくれた。

 

「……自然な笑顔が浮かんでる。最高の表情だな」

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