ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

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第27話 有マ記念(前編)

『午後3時現在、11万8千人を超えるファンが詰めかけております中山レース場、いよいよ枠入りが始まろうとしています』

 

実況のアナウンスが、大気を震わす歓声が、ターフの上の私たちまで伝わってくる。

12人のウマ娘が、緊張感に心と身体を震わせていた。

私はその最たると言っても過言ではない。

きっと、一番緊張しているのは私だろう。

私が憧れるウマ娘と──『英雄』と仰いだウマ娘と、有マ記念で戦うのだから。

 

『シンボリクリスエス』さん──私が彼女に見せられたのは、昨年の有マ記念だった。

他の強豪を薙ぎ払ってゴール板を駆け抜けた瞬間は、今でも鮮明に思い出すことができる。

先を駆けるウマ娘たちを、脅威の末脚で一気に捲り切った。

残り100メートルというギリギリのタイミングで、悉くを貫いた『漆黒の狙撃手』。

 

他にも強敵たちが出走する。

ジャパンカップにて9バ身の逃げ切り勝ちを演出した『タップダンスシチー』さん。

菊花賞にてユニヴァースさんの3冠を阻んだ『ロットオブチャンプ』さん

芝とダートの両G1で勝利を重ねてきた勇者『アグネスデジタル』さん。

勝てないかもしれない、掲示板にすら載れないかもしれない。

それでも──。

 

「クリスエスさん!」

「……ロブロイ」

 

それでも、私は──。

 

「YO-HO! 元気だったかい、リトルガール?」

「ヒャアッ!! たっ、タップダンスシチーさん?!」

 

急に背中を叩かれて、思わず声が裏返ってしまう。

いつのまにか長身のウマ娘が、私の背後に屹立していた。

タップダンスシチーさんは愉快そうに笑うと、私の頬を軽く突っついてきた。

 

「聞いたよ? クリスエスに勝つために有マ記念に出走したんだって? その心意気、サイコーに"Cool"だね、気に入った!」

「あ、ありがとうございます!」

「けど、アンタの相手はクリスだけじゃない。アイツばっかり見てると、死角から喰われちまうかもしれないよ?」

 

笑顔で語るが、まるで獲物を狙う猛獣のような瞳だった。

無論、承知している。

私は、クリスエスさんに勝ちに来たんじゃない。

有マ記念に出走する、全てのウマ娘に勝ちに来たんだ。

 

「タップダンスシチー──そろそろ、ゲートに向かえ」

「つれないなぁ、クリスエス。アタシはアンタと、もっと踊りたかったんだ! このターフの上で!」

「安心、しろ──私の走りを、永遠に、"Memory"に、刻みつけてやろう」

「ジャパンカップの"Revenge"かい? ソイツは、楽しみだ」

 

タップダンスシチーさんはゲートに向かう。

残された私たちは、改めて互いに向き合った。

歓声でうるさいハズなのに、心音が聞こえるほど静かに感じた。

きっと、私自身が落ち着けている証拠なのだろう。

小さく、一呼吸を入れる。

そして、眼前のライバルへ、思いの丈をぶつけた。

 

「……今の私が持つ、全ての力をぶつけます。あなたに勝って、私自身が、『英雄』になります、『シンボリクリスエス』!」

「All right ──全力で、迎えうとう。敬意を込めて──『ゼンノロブロイ』」

 

身震いがする。

初めてクリスエスさんから向けられた、敵対者への鋭い眼差し。

普段とは比べ物にならない威圧感に、萎縮してしまいそうになる。

けれど、すぐに自身を奮い立たせる。

宣言したばかりだ、私が『英雄』になると。

今、この瞬間だけは恐れていい。

ゲートが開いた直後からは、自分の勝利だけをイメージするんだ。

 

『今、ゼンノロブロイが2番ゲートに入りました。さぁ、これが最後のレース。大外12番のシンボリクリスエス、グランプリの連覇なるか?シンボリクリスエス、ゆっくりとゲートに入って体制完了!』

 

一呼吸の静寂、直後に始まる。

クリスエスさんとの、最初で最後のレースが。

成長した私の全力をぶつけられる、最初で最後のレースが──。

 

『ゲート開いた! スタートを切った! 綺麗なスタート、12人!!』

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