ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
『──さぁ、スターターが今、ゆっくりと歩を進めまして、10万人近い観衆から拍手が起こっています。天皇賞・春、G1のファンファーレが鳴り渡ります』
京都レース場は、生憎の曇り空だった。
けれど、集まった観客からは、雲を吹き飛ばすくらいの大絶叫が上がっていた。
ラッパ隊によるファンファーレが、5月の薫風に流れ込んでいく。
ケルト装束の勝負服に袖を通し、自身があてがわれたゲートに向かう。
「やぁ、ロブロイ……」
背後から柔らかな声をかけられる。
振り向くと、純白の勝負服を纏ったネオユニヴァースさんがいた。
「ユニヴァースさん、いい勝負をしましょうね」
「シニア級、最初の勝負だね。ネオユニヴァースは、"楽しむ"をするよ。その上で、"勝つ"よ」
宣戦布告、互いに頷いて、それぞれのゲートに向かった。
今回のレースは、昨年のクラシックで鎬を削った同期のウマ娘が上位人気を独占した。
前哨戦となった阪神大賞典を勝利した『ホワイトハウス』さんが一番人気。
次いで、二冠ウマ娘の『ネオユニヴァース』さんが二番人気、菊花賞ウマ娘の『ロットオブチャンプ』さんが三番人気だ。
そして私、『ゼンノロブロイ』は四番人気に連なっている。
私たちの世代が、世間から大きく注目されているのだ。
喜ばしいことだが、同時に大きなプレッシャーでもある。
ゲートに入りながら、イメージを固める。
普段通りの、練習通りの走りをできるように。
自身が勝利する姿を、鮮明に描き出す──。
『世界最大の長距離レース天皇賞・春。さぁ、18人のゲートインが終わりました。いざ、スタート!!』
ゲートが開き、一斉に飛び出す。
バラツキの少ない綺麗なスタートになった。
徐々に隊列が縦長に伸びる中、1人のウマ娘が集団から逃げるように飛び出して行った。
ホワイトハウスさんとロットオブチャンプさんが集団を引っ張る格好になる。
私は2人の同期を追い抜きながら、集団の動向と、他のウマ娘たちの様子を窺っていた。
そして、ネオユニヴァースさんは集団の後方、後ろから5番手くらいに悠然と構えていた。
『坂を下って1周目の第4コーナーです。スタートして間も無く、半マイルを通過いたします。50秒です。先頭は『ヴァルティーチェ』が引っ張っている』
正面スタンド前を、大歓声を浴びながら通過していく。
全体的にペースはゆったり目だ。
天皇賞・春は3200メートルの長距離レースだ。
故に、中距離レースと同じペースで走っていては、スタミナが底を尽きて直線勝負で戦えなくなってしまうのだ。
「大丈夫、トレーナーさんとスタミナをつけるトレーニングを積んできた。今の私なら、3200メートルを、問題なく走破できる」
ゴール板前を通過した段階で、私の足はまだまだ軽かった。
少しだけ息が上がっているが、まだ苦しくない。
無自覚だった成長を、本番の真っ只中で実感することができた。
『さぁ、1コーナーから2コーナーに向かいます。スタートして1600メートルを、1分39秒で通過』
遠ざかっていく実況を聞きながら、先頭のウマ娘に目を向ける。
先頭を走るウマ娘は、すでに第2コーナーを抜けて向こう正面の直線へと入っていた。
少し距離は空いてしまったが、ハイペースで逃げているので、最終直線でスタミナが切れるだろうと予想する。
すると外から、黄色い勝負服が私を追い抜こうと動き出した。
菊花賞ウマ娘のロットオブチャンプさんだ。
「先頭を捕まえるためには、このポジションが必須なの。譲ってもらえるかしら?」
「申し訳ありませんが、譲るつもりはありません。私も先頭を狙っているので」
少しだけペースを上げる。
私だけじゃない、集団全体のペースが上がり始めていた。
集団は第3コーナーに差し掛かる、レースも終盤が近づいていた。