ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

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第33話 休止

『ゼンノロブロイ、ホワイトハウス、ようやく追い込んでくるが、先頭はタップダンスシチー! タップダンスシチー、先頭ゴールイン!! ジャパンカップに続いて、2つ目のG1勝ち!!!』

 

「はっはぁーーっ! コレが、アタシの大逃げだ! ジャパンカップと宝塚記念! 憧れの、あの人と同じ頂まで登り詰めたんだぁ!!」

 

ファン投票で選ばれたウマ娘だけが出走できる、上半期の総決算となるグランプリレース、それが宝塚記念だ。

私は実力が敵わず、4着という残念な結果になってしまった。

勝利したタップダンスシチーさんは、恍惚の表情を浮かべながら天を仰いでいた。

その笑顔は、いつも浮かべているハツラツとしたものとは、何処か異なっているような気がした。

まるで、小さな子供が、大きな達成感を得て浮かれているかのような、純朴な笑顔だった。

 

 

 

**********

 

 

 

「──ということがあったんですけど、私の気のせいですよね?」

「いいや、あながち……そうでも、ない。タップダンスシチーから、聞いたことがある」

「聞いたって、何をですか?」

「"Reason"──彼女が、Japanに来た理由。あるウマ娘の走りに、感動したらしい」

「そ、それって、もしかして……」

 

ジリジリと照りつける太陽の下、私とクリスエスさんは並んで歩いていた。

互いに同じ『目的地』へ向かう途中だったのだけど、学園の校門で偶然お会いしたので、2人で一緒に向かうことにした。

私はフルーツが入ったバスケットを、クリスエスさんはカードが添えられた花束を持っていた。

世間は夏真っ只中、汗を流しながら奔走するサラリーマンや、涼しげな格好の女性とすれ違うと、嫌でも夏の訪れを実感してしまう。

身体が火照り、頭の回転も遅くなると、次第に呂律も回らなくなっていく。

久しぶりだからとクリスエスさんと歩かず、バスを使えばよかったと後悔し始めていた。

 

「そういえば、来週から夏合宿ですねぇ〜。クリスエスさんは参加されるんですか?」

「その、つもりだ……ドリームトロフィーリーグは──強敵も多い」

「じゃあ、一緒に練習が出来そうですねぇ〜。楽しみですぅ〜」

「楽しみ……といえば、トレーナーが、何かを企んでいるようだ」

「トレーナーさんの企み?」

「何か……"Event"を、考えている──チームの皆には、"Seacret"だ、そうだ」

「それって、私にも秘密だったんじゃぁ?」

「……………………」

「……私も、黙ってますね」

「…………Thanks」

 

互いに朧げな思考の中で、そんな何気ない会話を繰り返していた。

そんな折、ようやく目的地に到着する。

受付で部屋番号を確認すると、私はクリスエスさんと別れて、目的の人物の元へと向かう。

扉を軽くノックし、個室の中へと入った。

 

「ネオユニヴァースさん。ゼンノロブロイです。お見舞いに来ました」

「ロブロイ──きっと来る、そんな予感がしていたよ」

 

真っ白な部屋の窓際のベッドに横になったネオユニヴァースが、微笑を浮かべて歓迎してくれた。

右足はギプスで固定され、痛々しい様相だった。

そう、私とクリスエスさんは、友人の見舞いのため、病院を訪れていたのだ。

 

「お変わりはないですか? 足の様子は……?」

「アファーマティブ。痛みは、少しずつひいているよ」

 

ユニヴァースさんはピースサインを見せてくれた。

先の天皇賞の後、私もユニヴァースさんも、宝塚記念に向けて調整をしていた。

けれどユニヴァースさんの右脚に、浅屈腱炎と球節亀裂骨折が発見された。

曰く、天皇賞の直後に発症したのではないかと──。

 

「……すごく、いい天気ですね。外にいるだけで、干物になってしまいそうで…………」

 

ユニヴァースさんの姿を見ていると、適切な言葉が浮かんでこなかった。

こういうときは、なんて声をかければいいのだろう。

必ず治ると励ませばいいのか、また一緒に走ろうと発破をかければいいのか。

 

「……ありがとう。ネオユニヴァースは、とても、"嬉しい"だよ」

「ユニヴァースさん?」

「ロブロイやチェリー、他にも色んなウマ娘と走れた……私は、"満足する"だよ」

 

急にユニヴァースさんがそんなことを口にした。

あまりにも唐突な感謝の言葉は、とても嫌な予感を抱かせる。

ジワジワと心に広がる黒い感覚が、とても気持ち悪かった。

ユニヴァースさんは少し天井を見上げると、ため息と一緒に溢した。

 

「……"AGET"……ロブロイを、1人にしてしまうね」

「ユニヴァースさん……」

「私は……レースを、『無期限休止』するよ」

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