ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
『ゼンノロブロイ、ホワイトハウス、ようやく追い込んでくるが、先頭はタップダンスシチー! タップダンスシチー、先頭ゴールイン!! ジャパンカップに続いて、2つ目のG1勝ち!!!』
「はっはぁーーっ! コレが、アタシの大逃げだ! ジャパンカップと宝塚記念! 憧れの、あの人と同じ頂まで登り詰めたんだぁ!!」
ファン投票で選ばれたウマ娘だけが出走できる、上半期の総決算となるグランプリレース、それが宝塚記念だ。
私は実力が敵わず、4着という残念な結果になってしまった。
勝利したタップダンスシチーさんは、恍惚の表情を浮かべながら天を仰いでいた。
その笑顔は、いつも浮かべているハツラツとしたものとは、何処か異なっているような気がした。
まるで、小さな子供が、大きな達成感を得て浮かれているかのような、純朴な笑顔だった。
**********
「──ということがあったんですけど、私の気のせいですよね?」
「いいや、あながち……そうでも、ない。タップダンスシチーから、聞いたことがある」
「聞いたって、何をですか?」
「"Reason"──彼女が、Japanに来た理由。あるウマ娘の走りに、感動したらしい」
「そ、それって、もしかして……」
ジリジリと照りつける太陽の下、私とクリスエスさんは並んで歩いていた。
互いに同じ『目的地』へ向かう途中だったのだけど、学園の校門で偶然お会いしたので、2人で一緒に向かうことにした。
私はフルーツが入ったバスケットを、クリスエスさんはカードが添えられた花束を持っていた。
世間は夏真っ只中、汗を流しながら奔走するサラリーマンや、涼しげな格好の女性とすれ違うと、嫌でも夏の訪れを実感してしまう。
身体が火照り、頭の回転も遅くなると、次第に呂律も回らなくなっていく。
久しぶりだからとクリスエスさんと歩かず、バスを使えばよかったと後悔し始めていた。
「そういえば、来週から夏合宿ですねぇ〜。クリスエスさんは参加されるんですか?」
「その、つもりだ……ドリームトロフィーリーグは──強敵も多い」
「じゃあ、一緒に練習が出来そうですねぇ〜。楽しみですぅ〜」
「楽しみ……といえば、トレーナーが、何かを企んでいるようだ」
「トレーナーさんの企み?」
「何か……"Event"を、考えている──チームの皆には、"Seacret"だ、そうだ」
「それって、私にも秘密だったんじゃぁ?」
「……………………」
「……私も、黙ってますね」
「…………Thanks」
互いに朧げな思考の中で、そんな何気ない会話を繰り返していた。
そんな折、ようやく目的地に到着する。
受付で部屋番号を確認すると、私はクリスエスさんと別れて、目的の人物の元へと向かう。
扉を軽くノックし、個室の中へと入った。
「ネオユニヴァースさん。ゼンノロブロイです。お見舞いに来ました」
「ロブロイ──きっと来る、そんな予感がしていたよ」
真っ白な部屋の窓際のベッドに横になったネオユニヴァースが、微笑を浮かべて歓迎してくれた。
右足はギプスで固定され、痛々しい様相だった。
そう、私とクリスエスさんは、友人の見舞いのため、病院を訪れていたのだ。
「お変わりはないですか? 足の様子は……?」
「アファーマティブ。痛みは、少しずつひいているよ」
ユニヴァースさんはピースサインを見せてくれた。
先の天皇賞の後、私もユニヴァースさんも、宝塚記念に向けて調整をしていた。
けれどユニヴァースさんの右脚に、浅屈腱炎と球節亀裂骨折が発見された。
曰く、天皇賞の直後に発症したのではないかと──。
「……すごく、いい天気ですね。外にいるだけで、干物になってしまいそうで…………」
ユニヴァースさんの姿を見ていると、適切な言葉が浮かんでこなかった。
こういうときは、なんて声をかければいいのだろう。
必ず治ると励ませばいいのか、また一緒に走ろうと発破をかければいいのか。
「……ありがとう。ネオユニヴァースは、とても、"嬉しい"だよ」
「ユニヴァースさん?」
「ロブロイやチェリー、他にも色んなウマ娘と走れた……私は、"満足する"だよ」
急にユニヴァースさんがそんなことを口にした。
あまりにも唐突な感謝の言葉は、とても嫌な予感を抱かせる。
ジワジワと心に広がる黒い感覚が、とても気持ち悪かった。
ユニヴァースさんは少し天井を見上げると、ため息と一緒に溢した。
「……"AGET"……ロブロイを、1人にしてしまうね」
「ユニヴァースさん……」
「私は……レースを、『無期限休止』するよ」