ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

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第39話 天皇賞・秋(後編)

「これ以上は離させません! チェリーさんを抜いて、全員抜いて、私が勝ちます!!」

「抜かせない! 誰も抜かせない、G1の栄光、栄誉は私が──!!」

 

ガクッ……っと、外目を走っていたチェリーさんのスピードが落ちた。

刹那の間だが、苦悶の表情を浮かべているような気がした。

歯を食い縛り、脂汗を滲ませ、それでもゴールを目指そうとしていた。

 

「クソッ……目の前、なのに……」

 

そんな、呟きが聞こえた……。

私は、チェリーさんを、追い抜いた……。

 

『直線コースに向かって参りました! さぁ、レッドローウェンが以前として先頭ですが、内からはレイオブライト、外からは3番のアクアプレイヤー!』

 

坂に差し掛かった、息が苦しい、足も悲鳴を上げている。

だけど、私の脳裏に、一瞬だけ見せたチェリーさんの顔が張り付いて離れない。

ゴールを真っ直ぐに見据え、手が届きかけた栄光に向かって奔走する、その姿が私を駆り立てる。

『英雄になれ』と、私の頭の中で騒ぎ立てる。

 

『あぁっと、外からゼンノロブロイが上がってきている! ゼンノロブロイも上がってきている! 最後の坂を引っ張っている!』

 

1人、また1人と、先行するウマ娘たちを追い抜いていく。

残り200メートルの標識を過ぎて、前方には3人のウマ娘。

ハイペースを維持し続けていた3人との距離は、まだ少し詰まらない。

けれど、それは諦める理由にはならない!!

 

「クリスエスさんに、期待してるって言われました! この偉大な舞台で、勝利への渇望を見せつけられました!!」

 

坂の頂上に至る。

1人、2人、ウマ娘の背を越える。

眼前には、先頭を逃げ続けたウマ娘が1人。

そして、数十メートル先にはゴール板が──。

 

「私が……英雄に、なるんだああああああああああっ!!!」

 

『レイオブライトが先頭だ! だが外でようやく、ゼンノロブロイが内を抜く! ゼンノロブロイ抜け出した! ゼンノロブロイ遂にやったG1! ガッツポーズと共に、ゼンノロブロイィィッ!!!』

 

──ゴール板を通り過ぎた瞬間、私は無意識のうちに右手を振り上げていた。

誰も遮らない、誰もいない景色が広がった瞬間、私の周囲を静寂が包んだ。

だから、現実を直視するのに、少しだけ時間がかかった。

足を止めたのはゴール板を遥か遠くに置き去ってからだった。

レースの終了を実感したのは、疲労感が一気に押し寄せてからだった。

そして、勝利を実感したのは、遠目にチームメイトとトレーナーさんの抱き合う姿を見かけた瞬間だった。

 

『勝ったのはゼンノロブロイ! 6回目のG1挑戦にして、初めてのタイトル! 秋の盾を手にしました!!』

 

偉大なる先輩を志し、背を追い続けた末に、同じG1タイトルで、私は『英雄』への一歩を踏み出したのだった。

未だ、冷水を浴びせかけられたような、まるで他人事のような些細な実感を感じながら。

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