ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

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第4話 二人の強者

『最終直線に入ってきた! 中山の直前は短いぞ! 後ろの娘たちは間に合うのか?!』

 

迫る日本ダービーの対策として、柏トレーナーから皐月賞の映像を頂いた。

私も走りたかったレースだけど、残念ながら出走条件が満たせなかったため、悔しくも見送ったレースだ。

中山レース場、芝2400メートル、右回りのレースは、一生に一度しか参加できないクラシック三冠レースの初戦だ。

若き精鋭が集まるこのレースは、『最も速いウマ娘が勝つ』と言われている。

 

『先頭は横一線! 外からチェリーマイスターが抜けてきている! 内から一気にネオユニヴァースが上がってきた!!』

 

図書室の受付席に座り、スマホで皐月賞の映像を、繰り返し確認する。

スマホには、二人のウマ娘の姿が映し出されていた。

 

『内からネオユニヴァース! 外からはチェリーマイスター! ネオユニヴァースか?! チェリーマイスターか?! この2人の一騎打ち!!』

 

ゴールの直前、猛烈なデッドヒートが繰り広げられていた。

片や天の川のような金髪と、宇宙服のようなジャケットが特徴的な少女、『ネオユニヴァース』さんだ。

ゴール目前にも関わらず、無表情というか、ボンヤリとした掴みどころのない表情だった。

しかし、静かにゴールだけを見据えた相貌は、形容し難い不思議な雰囲気を醸し出していた。

 

もう1人の勝気な様子の少女が『チェリーマイスター』さんだ。

パールホワイトのタキシードを模した勝負服が、泥で塗れるほど必死だった。

ネオユニヴァースさんと競っているにも関わらず、満面の笑みを浮かべていたのは、きっと強い自信の表れだろう。

ただ、セミロングのピンクヘアが、強気そうな印象とはミスマッチに感じた。

どちらも先頭を譲らず、一番でゴール板を通過しようと足を動かす。

1センチでも先へ、1ミリでも先へと──。

 

結果、僅かアタマ差でネオユニヴァースさんが勝利した。

けれど両者共に、洗練された素晴らしい走りであることは明白だった。

 

「……凄く……強かった……」

 

そんなありふれた感想しか出てこなかった。

ネオユニヴァースさんの流れ星のような華麗な走りも、チェリーマイスターさんの堂々とした力強い走りも、どちらも見惚れてしまった。

今回は僅差でネオユニヴァースさんが勝利したが、もう一度走れば結果が変わるかもしれないと感じるほどだ。

それほどまでに洗練されていて、逆にそれが恐ろしく感じた。

日本ダービーでこの2人と戦う──そう考えると、手に嫌な汗が滲んでしまう。

果たして私が、この2人に勝てるのだろうか、と……。

そんな不安を払拭するように映像を見返すと、不安が余計に積み重なる悪循環に陥った。

 

「ダメだなぁ……。勝つために、研究するために見てるのに、悪いイメージばかりが浮かんできちゃう」

 

思い込みが激しいのが私の悪癖だ。

一度ネガティヴに考えると、思考が固定されてしまうのだ。

少しでも気持ちを切り替えられるように、全く別の視点から映像を見れたらいいのに……。

そんなことを考えていると、ふと、ゴール後の2人の様子が目に映った。

 

「アレ……? 見間違いかな? いま、ネオユニヴァースさんが……」

 

確認のために映像を巻き戻す。

2人がゴール板を並んで駆け抜けた直後だ。

なんと、勝利したネオユニヴァースさんが、惜敗したチェリーマイスターさんの頭を叩いていたのだ。

 

「見間違いじゃなかった……。ネオユニヴァースさんがダボダボな袖で、チェリーマイスターさんの後頭部を、パシーンって……」

 

衝撃の映像に、積み上がっていた不安は吹き飛んでしまった。

思いもよらぬ不可解な映像に、逆に頭を捻ってしまった。

 

「勝ったネオユニヴァースさんが、どうしてそんなことを? コレもパフォーマンスの一環なのかなぁ? それとも、見た目に反してバイオレンスな方なのかなぁ?」

「……すみません……本の、『返却』を、したいよ」

「ヒャイッ?! す、すすすみません! 少々お待ちください!!」

 

思わず声が裏返ってしまった。

映像に夢中になるあまり、目の前に他の人がいることに気づいていなかった。

すぐさま本を受け取ると、眼前の生徒の顔を見上げる。

ウェーブがかった透き通る金髪のウマ娘だ。

とても穏やかそうな表情……というか、どこかぼぅーーっとしているような、気の抜けた表情だった。

何処となく、誰かに似ているような気がした。

誰だっただろうか、クラスメイトかチームメイトか……つい最近見たような……。

そう、例えば、さっきまで観ていた皐月賞の優勝者のような……!!

 

「ねっ……ネッ……! ネオユニヴァースさんっ?!」

「…………ん?」

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