ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
『最終直線に入ってきた! 中山の直前は短いぞ! 後ろの娘たちは間に合うのか?!』
迫る日本ダービーの対策として、柏トレーナーから皐月賞の映像を頂いた。
私も走りたかったレースだけど、残念ながら出走条件が満たせなかったため、悔しくも見送ったレースだ。
中山レース場、芝2400メートル、右回りのレースは、一生に一度しか参加できないクラシック三冠レースの初戦だ。
若き精鋭が集まるこのレースは、『最も速いウマ娘が勝つ』と言われている。
『先頭は横一線! 外からチェリーマイスターが抜けてきている! 内から一気にネオユニヴァースが上がってきた!!』
図書室の受付席に座り、スマホで皐月賞の映像を、繰り返し確認する。
スマホには、二人のウマ娘の姿が映し出されていた。
『内からネオユニヴァース! 外からはチェリーマイスター! ネオユニヴァースか?! チェリーマイスターか?! この2人の一騎打ち!!』
ゴールの直前、猛烈なデッドヒートが繰り広げられていた。
片や天の川のような金髪と、宇宙服のようなジャケットが特徴的な少女、『ネオユニヴァース』さんだ。
ゴール目前にも関わらず、無表情というか、ボンヤリとした掴みどころのない表情だった。
しかし、静かにゴールだけを見据えた相貌は、形容し難い不思議な雰囲気を醸し出していた。
もう1人の勝気な様子の少女が『チェリーマイスター』さんだ。
パールホワイトのタキシードを模した勝負服が、泥で塗れるほど必死だった。
ネオユニヴァースさんと競っているにも関わらず、満面の笑みを浮かべていたのは、きっと強い自信の表れだろう。
ただ、セミロングのピンクヘアが、強気そうな印象とはミスマッチに感じた。
どちらも先頭を譲らず、一番でゴール板を通過しようと足を動かす。
1センチでも先へ、1ミリでも先へと──。
結果、僅かアタマ差でネオユニヴァースさんが勝利した。
けれど両者共に、洗練された素晴らしい走りであることは明白だった。
「……凄く……強かった……」
そんなありふれた感想しか出てこなかった。
ネオユニヴァースさんの流れ星のような華麗な走りも、チェリーマイスターさんの堂々とした力強い走りも、どちらも見惚れてしまった。
今回は僅差でネオユニヴァースさんが勝利したが、もう一度走れば結果が変わるかもしれないと感じるほどだ。
それほどまでに洗練されていて、逆にそれが恐ろしく感じた。
日本ダービーでこの2人と戦う──そう考えると、手に嫌な汗が滲んでしまう。
果たして私が、この2人に勝てるのだろうか、と……。
そんな不安を払拭するように映像を見返すと、不安が余計に積み重なる悪循環に陥った。
「ダメだなぁ……。勝つために、研究するために見てるのに、悪いイメージばかりが浮かんできちゃう」
思い込みが激しいのが私の悪癖だ。
一度ネガティヴに考えると、思考が固定されてしまうのだ。
少しでも気持ちを切り替えられるように、全く別の視点から映像を見れたらいいのに……。
そんなことを考えていると、ふと、ゴール後の2人の様子が目に映った。
「アレ……? 見間違いかな? いま、ネオユニヴァースさんが……」
確認のために映像を巻き戻す。
2人がゴール板を並んで駆け抜けた直後だ。
なんと、勝利したネオユニヴァースさんが、惜敗したチェリーマイスターさんの頭を叩いていたのだ。
「見間違いじゃなかった……。ネオユニヴァースさんがダボダボな袖で、チェリーマイスターさんの後頭部を、パシーンって……」
衝撃の映像に、積み上がっていた不安は吹き飛んでしまった。
思いもよらぬ不可解な映像に、逆に頭を捻ってしまった。
「勝ったネオユニヴァースさんが、どうしてそんなことを? コレもパフォーマンスの一環なのかなぁ? それとも、見た目に反してバイオレンスな方なのかなぁ?」
「……すみません……本の、『返却』を、したいよ」
「ヒャイッ?! す、すすすみません! 少々お待ちください!!」
思わず声が裏返ってしまった。
映像に夢中になるあまり、目の前に他の人がいることに気づいていなかった。
すぐさま本を受け取ると、眼前の生徒の顔を見上げる。
ウェーブがかった透き通る金髪のウマ娘だ。
とても穏やかそうな表情……というか、どこかぼぅーーっとしているような、気の抜けた表情だった。
何処となく、誰かに似ているような気がした。
誰だっただろうか、クラスメイトかチームメイトか……つい最近見たような……。
そう、例えば、さっきまで観ていた皐月賞の優勝者のような……!!
「ねっ……ネッ……! ネオユニヴァースさんっ?!」
「…………ん?」