ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

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第41話 普通のウマ娘

「ハァ……ハァ……ハァーーっ!」

 

トレセン学園の坂路コースで、今日のメニューをこなしていく。

脚部のパワーと足の使い方を修得するために走る。

私にとっては、何の変哲もない、いつも通りの光景でしかない。

だけど、私の中では、少しずつ変化が生まれていた。

 

「ハァ……ハァ……」

「Good──良い、タイムだ。パワーも、スタミナも……着実に、身についている」

「ありがとう、ございます、クリスエスさん。それに……」

 

呼吸を整えつつ、一緒に走ってくれた方へ、感謝と共にボトルを手渡した。

 

「並走に付き合っていただき、ありがとうございます。『ヒシミラクル』さん」

「いやぁ〜、ロブロイちゃんは速いねぇ。私、途中からついていくので精一杯だったよ〜」

 

雪のように真っ白でフワフワな髪をかき上げながら、ヒシミラクルさんは笑顔を浮かべた。

柔和な雰囲気のウマ娘で、苛烈な競争社会であるトレセン学園では珍しいタイプの女性だ。

しかし、その穏やかな人当たりとは裏腹に、過去には3つのG1タイトルを獲得している強者だ。

菊花賞、天皇賞・春、宝塚記念──クラシックから春シニアシーズンにかけて、他者を圧倒する走りを見せつけた、生粋のステイヤーだ。

 

「もうロブロイちゃんには着いていけないよ〜。きっと次のジャパンカップも、ロブロイちゃんが勝っちゃうんじゃないかなぁ〜?」

「そ、そんな……私だって、まだまだ途上の身ですから……」

「ヒシミラクルは──強い、ウマ娘だ……。油断すると、Hant──狩られるぞ」

「買い被りすぎだよ、クリスエスちゃん〜。私は普通のウマ娘、幸運に恵まれただけのウマ娘なんだから」

 

ヒシミラクルさんはクリスエスさんを嗜めるように言うが、その表情はとても綻んでいた。

それに、彼女自身は自覚がないのかもしれないが、キツい坂路練習の直後なのに、もう呼吸が整っている。

彼女のスタミナの底知れなさ、それを見せつけられたようで、胸の奥がゾクリと逆立った。

 

「でも、天皇賞のときのロブロイちゃん、本当に強かったよ〜。私なんて、離されないように必死で、着いていくだけで精一杯だったんだから」

「そ、そんな! 私の方こそ胸をお借りしていたのに……」

「いやいや〜、そんなに謙遜しないでよ〜」

「い、いえいえ、そんな……」

「いいやいいや、そんなそんな……」

 

お互いに腰を低くして遠慮し合ってしまう。

側から見ると、とても滑稽に写っていたことだろう。

そんな私たちを諌めるように、クリスエスさんが咳払いをした。

 

「ロブロイ、ミラクル……どちらも、強い。私が、保証する」

「あ、ありがとうございます……嬉しいです」

 

私は頬が熱くなるのを感じた。

憧れのクリスエスさんから、そのように評されるのは、名誉以外の何者でもなかった。

けれど、私とは対称的に、ヒシミラクルさんは困ったような笑顔を浮かべていた。

普段から『普通のウマ娘』を自称する方だから、やっぱり過大評価だと思っているのだろうか?

そう考えていると、何かを思いついたように、急に両手をパンと鳴らした。

その顔はニヘラと弛んだ笑顔に染め上げられる。

 

「それよりも〜、せっかく練習を頑張ったんだから、なにか食べに行かない? 美味しいお好み焼き屋さんを見つけたんだ〜。私が腕を奮って作ってあげるよ〜」

「Oh〜! そりゃないゼ! せっかく来たって言うのに、もうオシマイなのかい?」

 

唐突に、明朗快活な絶叫が、背後から投げかけられた。

驚きながら振り返ると、ジャージ姿のウマ娘がコチラに歩み寄ってきていた。

鹿毛のボブカットに整えた、長身のウマ娘だ。

シャチホコを模した髪飾りと、赤と青を編み込んだリボンが印象深い。

その姿を見て、クリスエスさんの眉がピクリと動く。

 

「Come back──帰ってきたのか、タップダンスシチー?」

「Of course! 私にとっての舞台はコッチだぜ、シンボリクリスエス!!」

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