ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

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第43話 世間の期待

地下バ道を通って地上に出る。

西に傾きつつある陽光が、私の目を鋭く焼く。

深呼吸をすれば、青い芝の香りが肺いっぱいに流れ込んでくる。

カラッとした蒼天を仰ぎ、そのまま視線を観客席へと向ける。

ドオッと、大気が揺さぶられるような歓声が、ターフ上の私たちへと浴びせかけられる。

11月末、東京レース場にて、一つの国際的な決戦が火蓋を切る。

芝2400メートル、秋シニア2冠目の称号を讃える『ジャパンカップ』だ。

 

『遂に、ジャパンカップの日を迎えました! 今日という日のために、世界中からG1クラスのウマ娘たちが集まりました!』

『私が注目したいのは、英国からの挑戦者『マーロン』です。イギリスのコロネーションCとドイツのバーデン大賞、2国でG1を勝ち抜いた実力を評価したいです』

『私は今年のクラシック級ウマ娘、9月のセントライト記念を制覇したばかりの『パワフルシューター』を応援しています。その名の通りパワフルな走りに期待です』

『その他にも日本勢からは、今年の菊花賞ウマ娘の『トライスプラッシュ』や、3冠のステイヤー『ヒシミラクル』などの強者たちが、海外からの挑戦者たちを迎え撃ちます。その中でも1番人気に推されたのが、先日の天皇賞にて初のG1制覇となりました、新たな日本総大将『ゼンノロブロイ』です!』

 

実況のセリフに煽られて、より一層観客席が湧き上がる。

スタート地点が客席の目の前ということもあり、その勢いがいつも以上に強く感じられた。

しかし、冷静になって考えてみると、私を取り巻く環境は、目が回りそうなほど激しく巡っている。

今だってそうだ、『日本総大将』という肩書きだって私には荷が重すぎる。

その称号はかつてのジャパンカップにて、凱旋門賞ウマ娘を打ち破った『スペシャルウィーク』さんのものだ。

私が彼女に比肩するとは、とても考えられない。

けれど世間の評価は、私の思いとは裏腹に、『ゼンノロブロイ』というウマ娘を装飾していく。

私と同じ名前の、まったく別人が作り上げられていく。

決して悪いことではないハズだ、私に期待をしてくれているということなのだから。

けれど、私にとっては、その期待が──

 

「ロブロイちゃ〜ん」

「ひゃい!! あっと……ヒシミラクルさん」

「ご、ゴメンね? 急に声をかけちゃって……ビックリしちゃった?」

 

不意にかけられた声に飛び上がってしまい、逆にヒシミラクルさんを驚かせてしまった。

申し訳なさに頬を赤らめていると、ヒシミラクルさんは私の両肩に手を置いた。

何だろうと思っていると、ユサユサと優しく前後に揺さぶられる。

そして、こう言われた。

 

「息を大きく吸ってぇ〜……今度は吐いてぇ〜……また吸い込んでぇ〜……」

「えっと? は、はい!」

 

指示に従って深呼吸を繰り返す。

次第に、近く聞こえていた歓声が少し遠かったように感じられる。

頭の中がスッキリとし、雑念が払われていく。

 

「うんうん、身体の余計な力が取れてきたねぇ〜」

「あ、ありがとうございます。私のことを、気にかけてくださって」

「気にしないで? 私にできることは、こんな民間療法くらいだから。それに、ロブロイちゃんのことは、何か放っておけないんだ。まるで、私自身を見ているみたいで……」

「私が、ヒシミラクルさんみたい?」

「……ううん、なんでもない。お互いにベストを尽くそうね」

 

そう笑いかけてから、ヒシミラクルさんは自身のゲートに向かっていった。

真っ白で偉大なる後ろ姿を見つめる。

ヒシミラクルさんの最後の言葉が、私の心の中に深く入り込んできた。

ふと、意識の外側で、観客の手拍子とファンファーレが鳴り響いていることに気づく。

間も無く発走となる──今年のジャパンカップが。

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