ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

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第45話 ジャパンカップ(後編)

『3コーナーから4コーナーに差し掛かり、まだ縦長の隊列となっている! バンノウナイトが逃げを打っている!』

 

私が1000メートルの標識を超えた頃には、既に先頭のウマ娘が最終コーナーに差し掛かっていた。

東京レース場の名物である大欅、それを超えるように全力を尽くしていた。

思い返されるのは春の天皇賞、あのときも逃げの作戦を取ったウマ娘に敗北した。

いま追わないと二の舞になる──私の脳が、激しく警鐘を鳴らした。

その判断は、他のウマ娘たちも同じだった。

 

『3コーナーから4コーナーに、そしてパワフルシューターが2番手、ヒシミラクルが3番手に上がってきている! その後ろに13番のホワイトワイルド! そしてウィルウェールズが動いている! そしてその後ろ、ゼンノロブロイが中段からやや外目に持ち出してきた!』

 

遠心力に逆らわず、集団から外れるように外側へとコースを移す。

前方には5人のウマ娘、その中にはヒシミラクルさんの姿もあった。

ステイヤーとして数々のG1レースを勝ち抜いてきた彼女ならば、この距離から先頭を捉えることも難しくはないだろう。

先頭のウマ娘は、明らかにペースが落ちてきていた。

捕まえるならば、最後の直線コースしかない。

東京レース場が誇る、長い直線コースで。

 

『4コーナーをカーブして直線コースに入ってきている! バンノウナイトを躱して、パワフルシューター先頭に立ったか?! 真ん中を割ってやってくるウィルウェールズ、ヒシミラクル! さらに天皇賞ウマ娘のゼンノロブロイ飛び込んできた! さらにノストラダムスは外から! 大外からセブンソルジャーも来ているぞ!』

 

ラストスパートをかける。

2000メートル以上を走り、既にスタミナは限界を迎えている。

喉が焼けるような息苦しさ、四肢が砕け散りそうなほどの痛み、それらを全て押し殺して、一歩、また一歩とゴールに向かう。

背後からは、私ど同様に、先行する者を差し切ろうとする猛勇の気配が迫っている。

けれど抜かせない、絶対に抜かせない。

どんな強者が相手でも、世界の頂点に立った王者が相手でも、私は決して怯まない。

己のを信じて突き進む、それこそが『英雄』だから!

 

『さぁ、先頭は! ここでロブロイだ! ここでロブロイだ!! ここでゼンノロブロイが先頭に立った!! ウィルウェールズ、パワフルシューターは内側でどうか?!』

 

直線の坂道に差し掛かり、一人、また一人と追い抜き、私が先頭に躍り出る。

一瞬の安堵が心中に滲み出すが、すぐに押し殺す。

まだレースは終わっていない、この位置からの逆転は、いつの時代のレースでも起こってきた。

抜かせるな、抜かせるな、決して、最後まで気を緩めるな──!!

 

『先頭は、ゼンノロブロイ! ゼンノロブロイ先頭!! パワフルシューター、ウィルウェールズが2番手!! しかし先頭は、ゼンノロブロイだ! ゼンノロブロイだ! これはブッ千切った! 強い!! ゼンノロブロイ1着!!!』

 

諦めるな!

すぐ後ろまで迫ってきている!

決して足を緩めるな、ゴール板を通り過ぎる、その瞬間までは──

 

「……ゴールを……通り過ぎるまでは……?」

 

『勝ったのはゼンノロブロイ! 日本総大将!! 史上3人目、天皇賞とジャパンカップの連覇達成!!』

 

遠くの実況が、ぼんやりと私の耳に届いてくる。

それを掻き消すほどの歓声が、大気を大きく揺るがして、私の肌をビリビリと刺激する。

徐々に冷静さを取り戻すにつれて、私の足もスピードを緩めていった。

完全に停止したときには、第1コーナーに差し掛かるところまで進んでしまっていた。

荒々しく呼吸を繰り返しながら掲示板を見る。

電光掲示板には、1着に9番の文字が浮かんでいた。

私の枠番だった──

 

「…………勝ったんだ…………私が、世界を相手に、勝てたんだ…………」

 

そう、小さな声を漏らすことしかできなかった。

それ程の大きな衝撃に襲われて、勝利を実感したのは、随分と後のことだった。

この後のことは、よく覚えていない。

ウイニングライブを上手く踊れたかどうかも、トレセン学園にどうやって帰ったかも、トレーナーさんとどのように喜びを分かち合ったかすらも、何も覚えていなかった。

それほどに、私の頭は、真っ白だった。

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