ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
「よーい……スタート!!」
トレーナーさんの合図を受けて走り出す。
トレセン学園の練習用コース、走り慣れた芝の上だ。
練習しているのは言わずもがな、皆が期待するグランプリレースへの出走に向けてだ。
中山レース場、芝2500メートル、右回りのコース──有マ記念に出走するために。
昨年の有マ記念では、シニア級の強豪ウマ娘たちに苦戦を強いられ、そして敗北を味わった。
勝利したのは、シンボリクリスエスさんだった。
ただの勝利ではない。
最終直線に入る直前に、ジェット機のようなブーストをかけ、他のウマ娘たちを一気に薙ぎ払った。
懸命に追う者を1人として寄せ付けず、2着に9バ身差をつけるという圧倒的な強さを、勝利を見せつけた。
それだけじゃない、決して破られることはないと言われていたレースレコードすら塗り替えてしまったのだ。
2分30秒5──あの衝撃は、いまでも私の中に深く根付いていた。
あのレースに、もう一度挑む。
それも今度は、ただのチャレンジャーではなく、2冠ウマ娘として──秋シニア3冠を狙うウマ娘として……。
「……ロイ……ロブロイ! 聞いているのか?」
「……ぁ……あ、えっと、すみません! トレーナーさん!!」
「メリハリをつけるのが上手いお前さんが、練習中に考え事とは珍しいな」
物思いに耽っている内に、いつの間にかコースを走り終え、ベンチでトレーナーさんとのミーティングをしていた。
こんなに余計なことに思考を縛られていた事実が申し訳なく、私は耳を垂らして俯いてしまう。
しかしトレーナーさんは嫌な顔一つせず、私の背中を軽く叩いてくれた。
「気にするな。最近は練習だけじゃなく、マスコミへの対応でも忙しかったからな、きっと疲れが残っているんだろう。少し早いが、今日の練習はここまでにしよう」
「い、いえ! 最後まで練習させてください! もう本番まで、有マ記念まで時間が……」
「何度も言っているだろう。焦って練習をしても、怪我のリスクが上がるだけでメリットは何もない。十分な休養を取って、万全な状態で良質なトレーニングを重ねてこそ意味があるんだ」
真剣な表情のトレーナーさんに諭される。
確かに私は、強い焦燥感に駆られての発言だった。
私は、無言で首を縦に振った。
「まぁ、何だ。丁度お前さんに会いたいと言ってる連中がいてな。いい機会だから一緒にリフレッシュしてきたらどうだ?」
「私に、お客さんですか?」
首を傾げる私の視線は、コース沿いのベンチに誘導された。
離れたところには2人のウマ娘が座っていた。
1人は尾花栗毛のウェーブかかったロングヘアのウマ娘、何を考えているか分からないような表情をしていた。
もう1人は桜色のボブカットのウマ娘、強気そうな笑顔でコチラに手を振っている。
「ネオユニヴァースさん! チェリーマイスターさん!」
私とクラシック戦線を競った、同期のウマ娘たちだった。