ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
有馬記念まで数週間と迫っていたのだけど、身体とモチベーションを回復させるために、週末はお休みをもらった。
私を応援するために、ネオユニヴァースさんとチェリーマイスターさんと一緒に出かけることとなった。
二人の同期と共に訪れたのは、街で一番大きな書店だった。
全部で3つのフロアに分かれており、各階層ごとにジャンル分けされた書物が販売されている。
また、1階にはカフェも併設されており、購入した本を読みながら穏やかな時間を過ごすこともできる。
最近は多忙のせいもあり、滅多に訪れられなかったので、二人の好意に甘えて、思う存分楽しむこととした。
「す、すみません……私1人でこんなにはしゃいでしまって……」
「ネガティヴ──ネオユニヴァースも、『楽しい』を、感じているよ」
「私も楽しいよ! 1人だと滅多に本なんて読まないからさ!」
コーヒーや紅茶を飲みつつ、私がオススメした本を読みながら、2人は笑顔を返してくれた。
ネオユニヴァースさんにはSF作品を紹介した。
普段の彼女の不可思議な言動からインスピレーションを受けたのだが、少し安直だっただろうか……?
チェリーマイスターさんにはサスペンスを勧めた。
普段は直情的な性格なので、頭を悩ませる展開を新鮮に感じてくれるだろうとの配慮だ。
「ロブロイは、何を読んでいるの?」
「わ、私は……『英雄譚』を読んでます。大好きな偉人に、英雄に、少しでも触れたくて……」
自分語りをしていると、頬が熱くなってくるのを感じた。
今日は思い切って、図書館で読んで気に入った本を、自分のお金で買ってしまったのだ。
もったいなかったかもしれないけれど、読んだことのある文章を見るだけで、心の中に満足感が溢れてきた。
「ロブロイは、言ってた。憧れの『英雄』になるために走っているって」
「そう、ですね。今でも、憧れの背中に追いつこうと、毎日のように必死で……」
そう、あの背中に、憧れの姿に追いつきたくて、私は毎日走っている。
深緑の勝負服を纏った漆黒のウマ娘──2年前の有マ記念で観た、あの姿に追いつきたくて……
「でも、私の中では、ロブロイはとっくに『英雄』だと思ってるよ」
「え……? わ、私なんか、まだまだ……」
「もうG1を2勝もしてて、ましてや秋シニアの3冠に王手までかけている。今だけでも十分凄いんだよ、ロブロイは」
チェリーさんに賞賛され、気恥ずかしくなってしまう。
けれど、なんと返せばいいのか分からず、熱った顔を隠すようについ俯いてしまう。
すると、隣のユニヴァースさんが、私の肩にそっと触れた。
「ロブロイはすこい。でも、ネオユニヴァースは、『もっとすごいロブロイを見る』をしたいよ」
「もっとすごい、私ですか……?」
「私も、ユニも、足を止めちゃったけど、ロブロイはまだ走ってる。ロブロイはまだ、レースに挑んでる。私もユニも、ロブロイが創り出す『未来』を見たいんだよ」
『未来』──それはきっと、ううん、間違いなく、『有マ記念』のことだ。
私が憧れを見つけた舞台に、2人の同期は『未来』を見ているんだ。
私の勝利を、願ってくれているんだ……。
「ネオユニヴァースは、『期待』しているよ」
「私も『期待』してる。絶対に勝てるって、信じてるから!」
2人の熱く、頼もしいエールを受け取ってしまう。
こんなに応援をされては、期待を寄せられては、絶対に負けることは出来ない。
無論、負けるつもりはないけれど、それでも強く意識してしまう。
勝負へのプレッシャーが、まるで風船のように大きくなっていく。
今にも弾けてしまいそうな程に、寄せられる『期待』は大きくなっていく。
「……ありがとう、ございます。一生懸命に、走りますね」
口からは心からの感謝が溢れ出す。
だけど私の心は、真冬の海みたいに、ひどく冷え切っていた。