ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
『ロブロイ──秋のシーズンの活躍に、私は期待している』
夏合宿のときに行った夏祭りで、クリスエスさんに言われた言葉だ。
「期待してるぞ、ロブロイ! お前さんなら、次も、この先も、必ず勝てる!」
トレーナーさんからは、こんな声援をかけてもらえた。
『ゼンノロブロイ、アンタの走りにも期待してるよ。ジャパンカップを勝って、アタシとターフで踊ろうじゃないか!』
秋の天皇賞の後に、タップダンスシチーさんから激励を受けた。
『ネオユニヴァースは、『期待』しているよ』
『私も『期待』してる。絶対に勝てるって、信じてるから!』
ネオユニヴァースさんやチェリーマイスターさんにも、期待されている。
期待──そう、期待されているのだ。
誰が? 私が──。
こんな、どこにでもいる普通なウマ娘の私が?
ただ、本を読むことが好きなだけで、憧れに近付きたいと不純な動機で走っているだけの、平凡な私が?
否、もう平凡という評価は遠い昔の話だ。
今の私は、G1レースを2勝したウマ娘だ。
世間的には賞賛され、競技的にはチャレンジャーから挑戦を受ける立場へと変わった。
そう、変わってしまったのだ。
私自身は内気で臆病な『ゼンノロブロイ』のままなのに、世間での私は、世界の強豪をも払い除けた王者の『ゼンノロブロイ』だった。
たった3ヶ月にも満たないうちに、私は押し上げられてしまった。
それ相応の振る舞いをしなければと、何度も自分自身に語りかけた。
けれど、やっぱり、『期待』という言葉は、あまりにも重すぎた。
私の身体は、『期待』というたった2文字に押し潰されそうだった。
逃げたくても逃げられない。
だって、逃げるということは、私に期待してくれた全ての人たちを裏切る行為だから。
クリスエスさんやトレーナーさん、共に駆け抜けてきた同期のウマ娘たち、これからもターフの上で競い合うライバルたち、応援してくれる観客の皆さん。
多くの期待を裏切ってしまう。
そんなことは、許されないことだ。
けれど、周囲の目は、私と同じ名前の別人を見ている。
私ではない『何か』を求めて、メディアを追いかけて、レース場にやってくる。
もう、作り上げられてしまったと言っても過言ではない。
『ゼンノロブロイ』という『英雄』が、私以外の皆さんによって作り上げられてしまった。
『ゼンノロブロイ』という『英雄』なら、秋シニア3冠の偉業に手が届くと、信じて疑わない。
本当の私は、そんな『期待』に恐怖する、野ウサギのように貧弱なウマ娘なのに──。
──これが、私が憧れた、『英雄』の姿だったのかな……。
歪で、虚飾に塗り固められた、上っ面だけの姿が……。
中身が空っぽになってしまった、ただそこにあるだけの像のような私が……。
こんなのが、『英雄』だったのかな……。