ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
「アファーマティブ。私は、『ネオユニヴァース』だよ」
眼前の少女は、少し辿々しい口調で名乗る。
皐月賞の覇者『ネオユニヴァース』さん、その唐突な登場に、思わず頭が真っ白になってしまう。
お願いされた本の返却すら忘れて、ただ呆然としてしまう。
そのうち、ネオユニヴァースさんが私のスマホに視線を落としていることに気づく。
そこには、皐月賞をゴールした直後のシーンが映し出されていた。
「……これって……私?」
「いや、あの、コレはその、何と言いますかぁ〜〜……」
まさか、正直に言えるハズがなかった。
『日本ダービーの対策として、過去のレース映像を研究している』だなんて。
ましてや、同じ出走相手の本人に。
かといって適切な言い訳が咄嗟に浮かぶハズもなく、両手を振り乱して言葉を濁す。
すると、ネオユニヴァースさんは小さく微笑んだ。
「──スフィーラだよ。私と、同じだね、ゼンノロブロイ」
「ふぇ? な、なんで、私の名前を?」
自己紹介をしていないのに、ネオユニヴァースさんは私の名を知っていた。
それに、同じと言うのは……?
「ネオユニヴァースも、あなたのことを『知りたい』だったから。青葉賞のアナタを『調査する』をしたよ」
「わ、私のことを調べたんですか? まだG1レースに出たこともないのに?」
「アファーマティブ。日本ダービーに出る以上は、あなたも"STDA"だから」
ネオユニヴァースさんの独特な言い回しは、ちょっと何を言ってるのか分からないけれど、分かったこともある。
それは、彼女が私を、日本ダービーの『ライバル』と認めてくれていること。
「クラシック三冠は"星間宙域"。次のダービーも、『絶対に勝ちたい』、だよ。だから、『調べる』をしている。出来る限りの力を尽くして、ネオユニヴァースは、日本ダービーに『勝つ』をするよ」
「わ、私だって! 私だって、勝ちます……世代の頂点に、立ってみせます!」
ネオユニヴァースさんの言葉に当てられたのかもしれない。
柄にもなく、立ち上がってまで、私は堂々と宣言していた。
きっと彼女にとって、私は警戒すべき数人の1人かもしれない。
だけど、言葉の中から、ネオユニヴァースさんが全力で挑んでいることが理解できた。
ならば、私もそれに遅れないように、最後まで出来ることをするんだ。
「スフィーラだね。あなたと走るの、『楽しみ』だよ」
「私もです、ネオユニヴァースさん」
ネオユニヴァースさんは踵を返すと、図書室を後にしてしまう。
本当に短い邂逅だったけど、とても大きな収穫が出来たと思う。
レース映像を見返して、ライバルの弱点を探すことに、無意識な後ろめたさがあった。
けれど『勝利』を求めるならば、己に出来る準備は全て整えた上で臨まなければならない。
皐月賞ウマ娘だってそうしている。
ここに後ろめたさを感じていては、絶対に勝てない。
「……もっと、勝つことに、貪欲でいいんだ」
私はスマホを握り締めると、今後の指針を決めた。
実際に見に行こう。
これから戦う相手が、実際に走っている姿を。
肌で感じ取ろう。
ライバルたちの息遣いを、走法と癖を。
私が勝利するために──目指すべき『英雄』に近づくために。
「……その前に、本の返却手続きを終わらせなきゃ」