ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
『年末の風物詩、一年間を締めくくる総決算、暮れのグランプリレース『有マ記念』。今年も錚々たるウマ娘たちが選ばれて参りました』
『ここからは参考レースを見て参りましょう。まずはジャパンカップを振り返ります』
『これはゼンノロブロイが快勝でしたね。誰かをマークするという彼女の走り方ではなくて、自信を持って中団から抜け出すというね──』
控え室のテレビから聞こえてきた、今日のレースの特番放送。
これから出走するウマ娘たちの情報が流れていく。
当然、私のことも……。
「ロブロイや。今日までのお前さんの努力は、全部見てきた。全部見てきた上で、コレだけは胸を張って言える。お前さんは、本当に強いウマ娘だ」
「柏トレーナー……」
「心配そうな顔をするな。心配性だけは、遂にどうにもならなかったな」
トレーナーさんは優しく、穏やかな笑みをこぼした。
私の緊張感を解きほぐそうとしてくれているのだろう。
ガチガチになって、最高のパフォーマンスが発揮できなくならないようにとの気遣いなのだろう。
その隣にはクリスエスさんがいた。
私がチーム『アルネブ』を目指したキッカケの先輩が、応援に駆けつけてくれた。
クリスエスさんだけじゃない、他のチームメンバーも観客席で見守ってくれているという。
本当に、良いチームに巡り合うことができた。
「作戦は何度も重ねたミーティングの通りだ。今回の枠番は1枠1番。最高のポジションと言って良い、理想通りに走れるだろう」
「けれど、その分、周囲からマークされる……」
「その通りだ。そのリスクだけは、常に頭の片隅に置いておくんだ。なにせお前さんは、圧倒的1番人気に支持されているんだからな」
渡された新聞の一面には、上位人気のウマ娘たちの顔が大きく映し出されていた。
そこには、自信満々のポーズを決める、タップダンスシチーさんもいた。
けれど、彼女より、どのウマ娘よりも大きく、私の姿が掲載されていた。
派手で大きな見出しで、『秋シニア3冠に挑む』と刻まれながら。
「……………………」
「──怖い、か?」
「クリスエスさん……はい、少し……」
深緑のキルトスカートを握り締めながら俯いてしまう。
私の小さい身体は、『期待』という言葉に押し潰されてしまいそうになる。
私はクリスエスさんのように強い英雄には……
「Understand──気持ちは、分かる。私も、同じ気持ち、だった」
「クリスエスさんも、同じだった? どういう事ですか?」
「気付いていなかったのか? クリスエスもレースの前は、お前さんのように緊張でガチガチになっていたんだよ。この鉄仮面のせいで分かり辛かったかもしれないが……」
柏トレーナーはクスクスと笑いながらクリスエスさんを見やる。
クリスエスさんは視線を落とした。
常に凛とした立ち振る舞いをしているクリスエスさんからは、全く想像もつかない。
ふと、思ってしまう。
私は、本当のクリスエスさんのことを、どの程度知っているのだろうか?
私がクリスエスさんに抱いていた『英雄』の姿は、私が勝手に作り出していた『もう1人のクリスエスさん』だったのではないか、と。