ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
こか具合が悪いの? トレーナーさんか誰か呼ぶ?」
「すみません、ヒシミラクルさん……もう、平気です……」
きっと、この時の私の状態は、誰の目から見ても明らかに異常だったのだろう。
『大丈夫』と言った自分の声の弱々しさにも驚いた。
途中で足が止まるなんてことは、今まで一度だってなかった。
ましてや、レースで走ることに『恐怖』を抱くなんて、人生で初めてだった。
私は、どうしてしまったのだろう……。
「ご心配をおかけしました。ターフに行きましょう。もうすぐ、レースが始まります……」
そう言って一歩踏み出そうとする。
けれど、足が言うことを効かない。
まるで厚い蝋で塗り固められてしまったように、私の全身はピクリとも動かせなかった。
焦燥感と苛立ち、そして情けなさが沸々と湧く。
嗚呼、あまりにも無力だ……。
「いやいやいや、どう見ても大丈夫じゃないよ〜。ちょっと座って休もう? その間にトレーナーさんを呼んでくるから。……それとも、お医者さんの方がいいのかな?」
ヒシミラクルさんは私のことをずっと気遣ってくれていた。
彼女だって、今日のレースに走るのに……きっと彼女だって、私のことを気にかける余裕がないハズなのに。
「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫……」
「焦らなくてもいいんだよ。まだレースまで少し時間があるから、私に話してみて。今のままだと、レースを全力で走れないでしょ?」
ヒシミラクルさんは穏やかに微笑んでくれた。
その鈴のような声音は、不思議と心を軽くしてくれた。
色んな感情でグチャグチャにされていた頭の中が、少しだけ透き通った気がした。
私のことなんて聞いても、迷惑でしかないハズなのに、自然と胸の内を吐露していた。
「……怖いんです……今日のレースで勝てなかったらと思うと……応援してくれた、たくさんの人の期待を裏切ってしまうんじゃないかって……」
「うん、知ってるよ。私もニュースで見たよ」
「私だって、レースに勝つためにたくさん、たくさん、練習してきて……憧れの姿に、一歩でも近づきたかったけど、怖くなっちゃって……」
いつしか、ヒシミラクルさんの勝負服の袖を握りしめていた。
心の内を、言葉にして吐き出すにつれて、気持ちは逸り、止めどなく溢れ出していく。
もう、私の意思で止めることは、出来なかった。
「皆の期待が苦しいんです! 押しつぶされそうなんです! 私は……皆が期待するような、すごいウマ娘じゃないのに……」
「それなら、今日のレース……私と一緒に、逃げちゃおっか?」
「…………え?」