ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

54 / 61
第54話 夢の激突

『さぁ! 遂に登場しました! 強力なライバルに辛酸を舐め続けさせられたクラシック、高い高い壁に阻まれ続けた春のシーズンを超えて、ようやく悲願に手が届いた今秋! 天皇賞、ジャパンカップの2冠を掲げ、見据えるは史上2人目の快挙! 1番人気、ゼンノロブロイ!!』

 

実況者さんの煽動によって、中山レース場がより一層、湧き上がったのを肌が感じた。

大気が震える、たくさんの期待が寄せられている。

まだ、自分自身に向けられる視線に怖さは残っている。

けれど、今に始まったことじゃない。

レース前に緊張して、足が震えて、ターフに立つのが怖くなったのは、これまでのレースも同じだった。

今日は、それが特別に強く感じるだけ。

仕方がないことだ、だって私にとっても、応援してくれる皆さんにとっても、今日は特別なレースなのだから。

 

「いやぁ〜〜、フラれちゃったなぁ〜〜……。一緒に逃げようって、一世一代のプロポーズのつもりだったんだけど……」

「ヒシミラクルさん、まだそんなことを言ってるんですか?」

 

私と一緒にターフに立った芦毛のウマ娘、奇跡のステイヤーと呼ばれたヒシミラクルさんは、頬を掻きながらテヘヘッと笑う。

私は少し不満げに口を尖らせるが、すぐに微笑を浮かべて向き合った。

 

「ミラクルさんのお言葉は、本当に甘美で、蕩けてしまいそうで、まだ未熟な私だったら手を取ってしまったと思います。でも、大切なことを思い出せました」

 

私の視線は、観客席へと向かう。

今いる第3コーナーのスタート位置から、中山レース場のスタンドが一望できた。

そこには、所狭しと駆けつけたファンの皆さんが、張り裂けんばかりの声援を送ってくれていた。

私やヒシミラクルさん、他のウマ娘たちを応援する声で溢れかえっていた。

 

「私は……私が憧れた『英雄』になりたくて走っていたんです。あの日の私と同じように、たった一度のレースで、観た人を魅了し、背中で羨望を与えられるような、そんな偉大なウマ娘になりたかったんです」

「確かロブロイちゃんにとっては、クリスエスちゃんがそうだったんだよね?」

「そうです。私は、クリスエスさんのように強くてかっこいいウマ娘になりたかった……。その夢を、ヒシミラクルさんが思い出させてくれました。本当に、ありがとうございました」

 

深く、深く、首を垂れる。

ヒシミラクルさんは驚き慌てていたが、私の気持ちを伝えるには足りないほどだ。

それ程、彼女には感謝している、してもしたりない。

 

「だから、もう一度……私の背中を見せつけます。今回のレースで、また私に魅せられてください」

「……強気だねぇ〜〜。宣戦布告、と受け取っちゃおうかな? 私だって、いつまでも追いかけてばかりじゃないんだよ? 普通のウマ娘が勝つ瞬間、新たな『奇跡』を見せてあげるよ」

 

私とヒシミラクルさん、両者の拳が交わる。

すると背後から、陽気な高い声がかけられた。

 

「Yo-Ho! 中々ターフに出てこなかったから、何か"Accident"かと思ったよ、英雄ガール?」

「ご心配をおかけして、すみません。あなたとの約束を果たしにきました、タップダンスシチーさん」

 

長身で陽気な笑顔が印象的なウマ娘だ。

ウェーブかかったミディアムヘアに、鯱鉾の髪飾りがキラリと輝く。

赤と青を基調とした勝負服は、タップダンスの衣装のように煌びやかだ。

凱旋門賞にて世界に挑んだウマ娘、勝利に飢えたタップダンスシチーさんが、覗き込むように私を見下ろしていた。

 

「日本のウマ娘の頂点の野望、まだ温めているんだ。宝塚記念に続いて有マ記念を制し、春秋グランプリの覇者として『年度代表ウマ娘』の栄誉を掴む!」

「去年、一昨年と、クリスエスさんが戴冠した称号は、私も欲しいです! 『秋シニア3冠』を制覇して、私が『年度代表ウマ娘』になります!」

「Fantastic! ジャパンカップの前よりも、ギラギラした眼をするようになったじゃないか! Let's party time! この厳冬のターフの上で、アタシと踊り明かそうじゃないか!!」

 

それぞれの野望が、眩いほどの欲望が、勝利への渇望が、複雑に交錯する。

15人の思いとは裏腹に、スタンドの方からファンファーレのラッパが聞こえてくる。

いよいよ、ゲートインだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。