ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

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第57話 二度目の有マ記念(後編)

『タップダンスシチーが先頭、3バ身から4バ身のリード! ゼンノロブロイが既に2番手に上がってきている! ヒシミラクルは僅かに後退か?!』

 

間も無く第4コーナーを抜ける、最後の短い直線に差し掛かる。

全員が次第にスパートをかけていく。

私も同じだ。

タップダンスシチーさんも、ヒシミラクルさんも同じだ。

全員が眼前の、たった一つのゴールだけを見ている。

私もそうだ、ゴールだけを見て走る。

ゴールだけを見ようとしている。

それ以外の情報を遮断しようとしている。

背後からのプレッシャーに押し負けないように、眼前を逃げる強敵に圧倒されないように。

だけど、私の両眼は、眼鏡を通して現実を突きつけてくる。

前との縮まらない差を、視界の端に見え隠れするライバルたちを、私に突きつけてくる。

怖い、怖い、負ける未来が怖い──。

 

『第4コーナーをカーブして、310メートルの直線に入ってきた! さぁ、最後に坂がある! タップダンスシチー先頭! タップダンスシチー先頭! そしてゼンノロブロイ、トライスプラッシュも来ている! 外の方からミルキーウェイも来ている!!』

 

怖い、怖い、ここまで走ってきて、覚悟していたと奮い立っておいて、最後の最後に湧き上がるのは恐怖だった。

 

 

 

**********

 

 

 

──俺は、トレーナー失格だ。

 

昨年の有馬記念……ロブロイとクリスエス、2人のチームメイトが争った。

両方を平等に指導し、応援して、どちらの勝利も願わなければならない立場だった。

だと言うのに俺は、クリスエスの勝利を、僅かばかし願ってしまった。

漆黒の背中に、俺は夢を見てしまった。

そんな、トレーナーの風上にも置けないような俺だが……頼む神様、もう一度だけ夢を見せてくれ。

俺の、自分勝手な願望を、もう一度だけ叶えてくれ!!

 

「走れぇ、ロブロイ! お前さんが走る道が王道だ! お前さんの勝ち取った全ての道が覇道だ!!」

 

柵を乗り越えんばかりの勢いで叫ぶ。

否、クリスエスたちが抑えてくれなければ、本当に乗り越えていたかもしれない。

俺には応援する資格がないのは、重々承知の上だ。

だけど、今だけでいい……今だけ、たった1人で戦っている、あの小さな背中を押させてくれ。

言葉が届く保証はない、結果だって変わらないかもしれない。

それでも、伝えたい──掛け替えのない愛バに、俺の想いの全てを!

 

「勝ってくれ! 勝って俺に、俺たちに、『英雄』の姿を見せてくれ! ゼンノロブロイイイイイイイイイッ!!!」

 

 

 

**********

 

 

 

嗚呼……トレーナーさんの声が、聞こえた気がする……。

気のせいかもしれない……だけど、不思議と、恐怖が萎んでいき、逆に勇気が湧き上がってくる。

力が湧き上がってくる。

ゴールへと向かう強い意志が、湧き上がってくる──。

 

『残り200メートルを切った! 最後の坂だ! ゼンノロブロイ! タップダンスシチー! ゼンノロブロイが躱わすか? ゼンノロブロイが躱わすか?!』

 

タップダンスシチーさんに並ぶ。

心臓が痛いほど拍動し、全身に血液を運んでいく。

手脚の感覚はとうに失われている。

残っているのは、ゴールへ向かうという意志だけだ。

 

「Unbereavable! 私の隣に立つのがアンタだとは、初めて会った時は夢にも思わなかった!!」

「私も! クリスエスさんを倒したあなたに並べるなんて、夢にも思いませんでした!!」

 

そう、夢にも思わなかった。

だから、ここから踏み出す一歩は、夢の先への第一歩!

私が、このレースの勝利へと、日本一へと至るための決死の一歩だ!!

 

「これが、私の……英雄としての、第一歩なんだああああああああああああっ!!!!!」

 

 

 

 

 

『──ゼンノロブロイが先頭! ゼンノロブロイが先頭! ゼンノロブロイがタップダンスシチーを抑えました! 秋のシニアG1を3連覇!!!』

 

 

ゴールの瞬間──いままでで1番、実感が伴ったゴールだった。

無意識のうちに、私は自分が勝利したことを確信していた。

それはきっと、昨年の有マ記念で、遠く遠く、遥か前方を駆け抜けていった憧れの背中が、今も脳裏に焼きついていたからかもしれない。

私が憧れ、追いつこうとした、あの漆黒の背中が……。

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