ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

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第58話 憧れの先へ

『ゼンノロブロイがタップダンスシチーを抑えました! 秋のシニアG1を3連覇!!! そして、チーム『アルケス』が、なんとグランプリを3年連続制覇です!!』

 

会場に響くアナウンスの声を聞きながら、私はゆっくりと足を止めた。

ゴール板からはだいぶ離れたところまで走ってきてしまった。

両膝に手をつき、肩で呼吸を繰り返しながら、遠目にスタンドの様子をぼんやりと眺める。

私の勝利を、大勢の観客の皆さんが祝ってくれている。

その事実がとても誇らしかった。

 

「トレーナーさん、クリスエスさん……私は、なれましたか? 皆さんにとっての、憧れの英雄に……」

 

自身の胸に手を当て、ポツリとそんな言葉を溢す。

すると背後から、大きな手のひらが私の背中を押してきた。

驚いて振り向くと、滝のような汗を流したタップダンスシチーさんとヒシミラクルさんの姿があった。

 

「やぁ、ゼンノロブロイ! 最高のレースだったね!」

「こちらこそ、全力で戦ってくださり、ありがとうございます。タップダンスシチーさん」

「それにしても、嗚呼、今年も有マに勝てなかった! グランプリ連覇で年度代表ウマ娘の座をゲットするつもりだったのにさ!」

「ダメだよタップちゃん、今は素直に、勝者を讃えないと。ね、ロブロイちゃん?」

「本当に、なんとお礼を言えばいいのか……私が勝てたのは、ヒシミラクルさんのおかげと言っても過言では……」

「それは過言だよ〜。私には何にも出来ないよ、だって普通のウマ娘ですから」

「ホラ、私たちに構ってるヒマがあったら、ロブロイの帰りを1番待ってるヤツらのところに行ってやりな!」

 

タップダンスシチーさんに促され、私はスタンド前に向かって走り出す。

客席が近づくにつれて、私に向けての歓声が一際大きくなった。

それに圧倒されながらも、私を待ってくれている人たちの姿を探した。

皆さんの姿は、ゴール板のすぐ側で見つけられた。

 

「トレーナーさん! クリスエスさん! チームの皆さん!!」

「ロブロイ! お前さん、本当に成し遂げられたんだな!! おめでとう……本当に、本当によくやってくれた……」

 

柏トレーナーは柵越しに私の頭を撫でると、声をくぐもらせながら、人目を憚ることなくボロボロと落涙し始めた。

私はビックリしたのと同時に、細くも武骨で大きな手のひらからのジンワリとした温もりを感じていた。

トレーナーさんが私の勝利を祈ってくれた事実が、とても誇らしかった。

その隣には、漆黒の長身なウマ娘が私を見下ろしていた。

私の、憧れのウマ娘だ。

 

「Congratulations──おめでとう、ロブロイ。私にも、成せなかった、秋シニア3冠の達成……実に、見事だった」

「ありがとうございます、クリスエスさん。その言葉だけで、私はとても満足です……」

 

静かに呟きながら俯く。

そう、この言葉に嘘偽りはない、憧れのクリスエスさんに認めてもらえただけで、私は満足なのだ。

だけど私の口は、勝手に、私の内面を曝け出す。

 

「……クリスエスさんの背中に憧れて、私はレースの世界に飛び込みました。クリスエスさんの強い走りを見て、物語の『英雄』のようだと感じてしまったから。昨年の有マ記念に一緒に走って、その凄さを、偉大さを、再確認することができました……」

 

これは、私の完全なエゴだ。

私の承認欲求が突き動かす、醜い部分を曝け出してしまっている。

止めなければと頭で思うも、口が勝手に言葉を紡ぐ。

『認められたい──他でもない、憧れの貴女に』と──。

 

「クリスエスさん……私は、少しでもあなたに、追いつけましたか?」

「──ロブロイ……答えは、"No"だ。君は……私の『前』にいる」

 

そう言ってクリスエスさんは、スタンドビューモニターを指差す。

つられて振り返った私の目には、自分でも信じられない言葉が映し出されていた──。

 

「………………ウソ?」

 

 

 

 

 

『ゼンノロブロイの勝ちタイムは、2分29秒5!! なんと、『レコードタイム』での決着となりました! 去年、シンボリクリスエスがマークした、2分30秒5というコースレコードを更新しました!』

 

「ロブロイ──君は、二つの偉業を成し遂げた。今度は、私が追いかける番だ。偉大なる英雄、『ゼンノロブロイ』の背中を」

「……とても、不思議な気分です。ずっと憧れていたウマ娘から、宣戦布告されちゃったんですから」

「怖い、か?」

「……いいえ、とっても嬉しいです! 私、逃げ出さなくてよかった! 諦めないで、全力で走り続けてよかったです!」

 

いつの間にか、私もトレーナーさんと同じように、大粒の涙を溢れさせていた。

臆病で、引っ込み思案な私でも、誰かに勇気を与えたり、誰かの目標となれるような、そんな『英雄』になれたんだ。

そんな実感が、ジンワリと、身体の奥の方から広がりだしていた。

 

「ロブロイや、そろそろ控え室に戻って、ウイニングライブ準備をしよう。主役がそんな顔だと、みんなに笑われちまうからな」

 

泣き顔のトレーナーさんに促されて、私は大きく頷いた。

私は大きな自信をつけた。

これからはみんなの『英雄』として示していくんだ。

私が走り抜けてきた、王道と覇道の行く先を──。

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