ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
『さぁ! 今年もこの季節がやって参りました! 暮れの大一番、中山レース場のメインレース『有マ記念』が間も無く開催されます!!』
張り詰めた緊張感が、中山レース場の選手控え室を支配していた。
テレビからアナウンサーの声が聞こえる。
出走の時間が、刻一刻と近づいているのを、まさしく知らしめられていた。
緊張感が高まる。
だけど、決して居心地の悪いものではない。
むしろ、気持ちを引きしてめくれる、心地よい緊張感だった。
この一年で精神面が随分と成長できたと実感した。
「……あの有マ記念から、もう1年も経っちまったか。歳は取りたくないもんだ。時の流れが早く感じてしまう」
「フフッ、まるでお爺さんみたいなことを言いますね、柏トレーナー?」
「否定はしない。俺もいい歳だからな」
柏トレーナーは白髪混じりの頭髪を梳きながら笑う。
隣ではシンボリクリスエスさんも、静かな微笑みを湛えていた。
──昨年の有マ記念から……私が『秋シニア3冠』を達成した有マ記念から、早くも1年が経過していた。
この1年は、本当に激動の年となった。
私こと『ゼンノロブロイ』は、史上2人目の偉業達成ということで、連日テレビなどの取材でてんてこ舞いとなった。
昨年の年度代表ウマ娘にも選出していただき、日本一の『英雄』として、『ゼンノロブロイ』の名は轟いた。
引っ込み思案な私としては、そこまで堂々と広められるのは気が引ける思いだった。
だけど、私の意図するところとは別に、私の名前はすぐにメディアから消えていった。
クラシック級の、とあるウマ娘が台頭してきたのだ──。
「さて、最後のミーティングだ。ロブロイ、お前さんは今回、残念ながら2番人気に収まった」
「1番人気は──Undefeated、デビューから無敗で、クラシック3冠ウマ娘に輝いた、『彼女』だ」
「ナリタブライアンさん以来、6人目のクラシック3冠ウマ娘──1番人気になるのも納得の実力ですね」
「アイツの走りを見た人間は、それをこう評する。『まるで、飛んでいるようだ』とな」
私はキルトスカートの裾をギュッと握りしめた。
悔しいことに、世間の注目は新たなスターに注がれてしまった。
私が憧れ、追い求めた『英雄』の呼び名も、今では彼女の二つ名として広く認知されている。
素直に、悔しかった……。
「確かに相手は強敵だ、未だかつてないほどにだ。だがな、ロブロイや。お前さんならこの逆境も跳ね除けられるんじゃないかと、信じているんだよ」
「ロブロイの強さは、私が保証する。昨年の"Race record"の実力は、誇るべきことだ」
二人はそれぞれ、私の両肩を軽く叩いてくる。
ある種の応援の形なのだろう。
一体、誰の真似をしているのやら、二人の普段の言動からは似つかわしくないと感じ、思わず吹き出してしまう。
だけど、すぐに頭を下げた。
「ありがとうございます。柏トレーナー、そしてクリスエスさん。今年1年は、正直、皆さんの期待には応えられなかったと思います。だからこそ、最後のレースで、私の経験の全てをぶつけて、ファンの皆さんへの感謝の形にしたいと思います」
「そうだな……お前さんは優しくて、気弱だけど強い芯を持った娘だ。俺の誇りだ。胸を張って、挑んでこい!」
「Believe──ゴール前で、1番に帰ってくるのを待っている。私たちの『英雄』の、凱旋を……」
二人のエールに背中を押されて、控え室から地下バ道、ターフへと移動する。
割れんばかりの大歓声がスタンドを揺るがす。
きっと、1番人気の『英雄』への喝采なのだろう。
私も負けられない。
胸の内に燃ゆる闘志を滾らせて、必ず勝利してみせる。
もう一度、私が『英雄』としての道を歩むために──。
『クリスマスに迎える有マ記念! 最強の衝撃対歴戦のシニアクラス! いま、スタートが切られました!!』