ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜   作:C.S

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第59話 エピローグ

『さぁ! 今年もこの季節がやって参りました! 暮れの大一番、中山レース場のメインレース『有マ記念』が間も無く開催されます!!』

 

張り詰めた緊張感が、中山レース場の選手控え室を支配していた。

テレビからアナウンサーの声が聞こえる。

出走の時間が、刻一刻と近づいているのを、まさしく知らしめられていた。

緊張感が高まる。

だけど、決して居心地の悪いものではない。

むしろ、気持ちを引きしてめくれる、心地よい緊張感だった。

この一年で精神面が随分と成長できたと実感した。

 

「……あの有マ記念から、もう1年も経っちまったか。歳は取りたくないもんだ。時の流れが早く感じてしまう」

「フフッ、まるでお爺さんみたいなことを言いますね、柏トレーナー?」

「否定はしない。俺もいい歳だからな」

 

柏トレーナーは白髪混じりの頭髪を梳きながら笑う。

隣ではシンボリクリスエスさんも、静かな微笑みを湛えていた。

 

──昨年の有マ記念から……私が『秋シニア3冠』を達成した有マ記念から、早くも1年が経過していた。

この1年は、本当に激動の年となった。

私こと『ゼンノロブロイ』は、史上2人目の偉業達成ということで、連日テレビなどの取材でてんてこ舞いとなった。

昨年の年度代表ウマ娘にも選出していただき、日本一の『英雄』として、『ゼンノロブロイ』の名は轟いた。

引っ込み思案な私としては、そこまで堂々と広められるのは気が引ける思いだった。

だけど、私の意図するところとは別に、私の名前はすぐにメディアから消えていった。

クラシック級の、とあるウマ娘が台頭してきたのだ──。

 

「さて、最後のミーティングだ。ロブロイ、お前さんは今回、残念ながら2番人気に収まった」

「1番人気は──Undefeated、デビューから無敗で、クラシック3冠ウマ娘に輝いた、『彼女』だ」

「ナリタブライアンさん以来、6人目のクラシック3冠ウマ娘──1番人気になるのも納得の実力ですね」

「アイツの走りを見た人間は、それをこう評する。『まるで、飛んでいるようだ』とな」

 

私はキルトスカートの裾をギュッと握りしめた。

悔しいことに、世間の注目は新たなスターに注がれてしまった。

私が憧れ、追い求めた『英雄』の呼び名も、今では彼女の二つ名として広く認知されている。

素直に、悔しかった……。

 

「確かに相手は強敵だ、未だかつてないほどにだ。だがな、ロブロイや。お前さんならこの逆境も跳ね除けられるんじゃないかと、信じているんだよ」

「ロブロイの強さは、私が保証する。昨年の"Race record"の実力は、誇るべきことだ」

 

二人はそれぞれ、私の両肩を軽く叩いてくる。

ある種の応援の形なのだろう。

一体、誰の真似をしているのやら、二人の普段の言動からは似つかわしくないと感じ、思わず吹き出してしまう。

だけど、すぐに頭を下げた。

 

「ありがとうございます。柏トレーナー、そしてクリスエスさん。今年1年は、正直、皆さんの期待には応えられなかったと思います。だからこそ、最後のレースで、私の経験の全てをぶつけて、ファンの皆さんへの感謝の形にしたいと思います」

「そうだな……お前さんは優しくて、気弱だけど強い芯を持った娘だ。俺の誇りだ。胸を張って、挑んでこい!」

「Believe──ゴール前で、1番に帰ってくるのを待っている。私たちの『英雄』の、凱旋を……」

 

二人のエールに背中を押されて、控え室から地下バ道、ターフへと移動する。

割れんばかりの大歓声がスタンドを揺るがす。

きっと、1番人気の『英雄』への喝采なのだろう。

私も負けられない。

胸の内に燃ゆる闘志を滾らせて、必ず勝利してみせる。

もう一度、私が『英雄』としての道を歩むために──。

 

 

 

『クリスマスに迎える有マ記念! 最強の衝撃対歴戦のシニアクラス! いま、スタートが切られました!!』

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