ゼンノロブロイの英雄譚 〜Rob Roy of the Royal Road〜 作:C.S
図書委員の仕事を終えた後、一層の情報を集めるため、トレセン学園のレース場にやってきた。
この時間、ここではチェリーマイスターさんが練習をしていると聞いたからだ。
皐月賞を僅差2着の実力者、一体どのような人物なのだろうか。
そう思いながら観に行ったのだけど……。
「ウオオオオオォォォォォォォリャアアアアアアアッ!!!!」
雄叫びを上げながら芝の上を爆走するウマ娘が1人。
桜のようなピンクのショートボブに、強い自信を内包した釣り上がった瞳、いずれも見覚えのある姿だ。
勝負服ではなく学園指定のジャージ姿だが、見紛うハズがない。
彼女がチェリーマイスターさんだ。
「ッハァ! ハァ! フゥゥゥーーーーッ!!」
チェリーマイスターさんは、ゴール板を通り過ぎた後、荒い呼吸を整えながら水を飲み始める。
彼女を観察していて、分かったことを、持参したノートにメモする。
チェリーマイスターさんの脚質は、前半はややローペースで走り、終盤に一気に追い上げていく『差し』型だ。
序盤にスタミナを温存できる分、最終直線に差し掛かってからの爆発的な末脚は、並のウマ娘を寄せ付けない。
また、彼女のパワフルな踏込みも差しの脚質に合っている。
何と言うか、生まれ持った身体も才能なんだなぁっと、少し嫉妬してしまった。
「……お〜い? 聞こえてますかぁ〜?」
「…………ふぇ?」
意識の外からかけられた声に、思わず気の抜けた声が溢れる。
快活な声に導かれて顔を上げると、満面の笑みを浮かべたチェリーマイスターさんが、私を覗き込んでいた。
好奇心にも似た、少年のような純粋な眼差しだった。
「アッ……あのっ……」
「アッハッハ! そんなに縮こまってないで声をかけてくればよかったのに!」
「れ、練習の邪魔をしてすみません! チェリーマイスターさん!」
「おっ? アタシのことを知ってるのか? ってことは、ダービーの対戦相手か?」
コチラの素性を悟ったのか、チェリーマイスターさんの瞳が鋭くなる。
失言だったかと思うより先に、少し何かを考える素振りを見せ、また満面の笑みに戻った。
「アッハッハ! ライバルだって言うんなら、存分にアタシの走りを見てってよ!」
「チェリーマイスターさん、良いんですか? てっきり追い返されるものかと……」
「『チェリー』でいいよ、皆そう呼んでるから。存分に、隅々まで見てってよ! だって、その程度で負けるつもりはないからね」
チェリーさんは曇り無き眼で、堂々と宣言した。
どれほど対策されようとも、決して自分を曲げない走りをする。
誰が相手であろうとも、自分のスタイルを貫き通す。
自分の走りに絶対の自信を持っている、それが彼女の力強い走りに反映されているのだろう。
「わ、私も負けません! 日本ダービーを勝つのは私です!」
「見た目に反して威勢がいいねぇ? アンタ、名前は?」
「──ゼンノロブロイです」
「『ロブロイ』……英雄の名前だ。覚えておくよ、例えアタシが負かす相手でもね」