回生の者とカルデア 作:……
─────今まで、この場所で多くの
それでも、その大半が
いわゆる滅私奉公とは少し違うけれど、役割を最優先として、果たされるまでは自分の欲を捨てていた。
しかし、彼女はそうではなかった。
そもそも、
選ばれた者の魂は、英霊の座から転写された
記憶の中にいくつも存在するのだから、どれが自分のものかなどわからなくなるんだ。
……そうして、自我と記憶のみが残ったとある少女は、人生の短さを知り、この世の全てを欲した。
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全ては突然だった。
混ざり合うカタチ、流れ込む記憶と使命。
残ったのは疑問と、恐怖。
〝なんで私が?〟
〝死とは、なんと暗く寂しいのか〟
疑問はともかく、恐怖はすぐに解決した。
暗く寂しいのなら、暗くもなく寂しくもない最期を求めれば良い。
そして、疑問も後に答えを出した。
〝私がその役割に準じる必要はない〟
そう回答を出した私は、商人となった。
商人という立場と私が得た知識と力があれば、この世界で多くを手に入れられるはずだ。
物が欲しい、金が欲しい、証が欲しい、安らぎが欲しい。
あぁ、ほしい、欲しい欲しい欲しい!
こんなにも欲しいものがあるのに、私は全てが欲しいのに、人生はなんとも短い。
急がなければ、もっともっと欲しい、この世界の全てが欲しい。
手に入れなければ、私は満たされない。
─────
エリザベート・バートリーには、たった一人の友がいた。
彼女はエリザベートが知る他の誰よりも強欲だった。
騙したり貶めるような悪行を行うことはないが、取引の相手には鐚一文負けず、相手がどのような状況にあろうとも必ず支払わせる。
しかしながら、金さえ払えばどんな願いだろうと叶える彼女と多額の契約を交わし全てを奪われたものは数知れず。
一代で凄まじい富を築いた彼女は、世界を手に入れるとまで言われる一方で、彼女との取引を
「ベート──エリザベート!」
「ひゃつ!?何かしら?」
「せっかく来てやったのに、ボーっとしてるんじゃつまらないわ。せっかく親友のために時間を費やしているのだから、お前も私を見なさい」
彼女は傍若無人だ。
彼女は常に彼女自身を彩る金銀財宝を求め続けている。
それらがあればなんでもできると信じているし、それを多く持ち得る自分は何をしても良いと思っている。
そんな彼女はそれでも、エリザベートの唯一の親友で、彼女を色眼鏡なしで見てくれる数少ない人だった。
「……また頭痛?今日は和らげる
「いいえ、違うのよ。そういうことではないから安心して」
「ならいいのだけど」
金銀の腕輪や指輪、宝石があしらわれたピアスやネックレス。
まさに富という言葉を体現したかの如き様相の少女は不機嫌そうにエリザベートの目の前に鎮座している。
しかしそれでも、彼女は不機嫌などではないとエリザベートは理解している。
本当に不機嫌ならば、彼女は自身の口調を取り繕うことなどしない。
それをするのは逆に上機嫌な時だ、そうでない時の彼女の口調はもう少し
「……なんでアンタ、私みたいなのを気にかけるワケ?私たち貴族すら歯牙にかける必要もない大富豪でしょ?」
「それとこれとは話が別。お前と私は似たもの同士だもの、永遠に満たされない、私は死ぬまで目に映る全てを求め続ける。お前は……」
そこまで言って、少女は口を閉ざした。
「簡単に言うものじゃないわね。人の未来って」
そう言って口を閉じた彼女のその言葉の意味をエリザベートは未来に知ることになった。
永遠の美貌、それをエリザベートは求めることになる。
そうなれば、その渇望は永遠に満たされない。
永遠に求め続ける者として二人は似たもの同士だと、彼女は言っていたのだ。
やがて、狂気の果てに虐殺に手を染めたエリザベート。
彼女の友は未だその隣で、その罪を咎めることもなく彼女のそばにいた。
エリザベートが殺した者の死体の隠蔽を彼女は自ら請け負った。
「……仮にも友達だしね、特別価格で請け負ってやるわ」
その言葉の通り、彼女はバートリ家にとって差し出してもさして損失のない額でそれらの仕事を請け負った。
──少額にしろ金を払わせるのは彼女のポリシーらしい。
「──今頃、あの蝿商人も死んだ頃だろう。せいせいするぜ」
エリザベートを石牢へと閉じ込めた兵士の零したその言葉でエリザベートは初めて、彼女が自身と共に罰せられたのだと知った。
──────────
轟く爆発、反転する視界、背中への強い衝撃。
集めた金銀財宝を馬車に乗せて運ぶその最中、何かの襲撃により馬車そのものがひっくり返されたのだ。
あたりに私の財宝が散らばり、足音が近づいてくる。
「──エリザベート・バートリーの虐殺を幇助したな?」
「あぁ、そうだな」
「お前はすでに死刑が相当であると決定している」
それを聞いて口調を取り繕うことすら面倒になった。
「……今この場で俺を助ける奴は?いるなら金は払う。私の全財産から8分の1だ。どうだ?お前たちが世界の半分と呼ぶ、その8分の1だぞ?」
「っ!貴様!今更そんな言葉に惑わされる者がいると……」
私を糾弾していた騎士の頬に血飛沫が降りかかる。
後ろに控えていた者たちの一人が剣を抜き、真横にいた別の騎士に切り掛かったのだ。
不意打ちに対応できないまま、その場にいた騎士は一人を残して倒れ伏した。
「……よくやったな」
「そ、それで、約束の報酬は──」
「悪いが、その話はナシだ」
流し込まれた記憶の中に残っていた〝他者の記憶を改竄する魔術〟。
用意をしていた甲斐があったというものだ。
残った騎士の記憶を掻き消し、私はハンガリーを離れた。
1614年、エリザベートが死んだ。
その頃には、私は溢れんばかりの金銀財宝や魔道具、いわく付きの品から神聖な品までおよそ手に入れられる全てを手にしていた。
……それでも満たされなかったのはきっと、私が強欲であるからなのだろう。
でも……そう、少しだけ
『……あなたって、本当に欲深いのね。満足出来る量の金銀財宝を集めたなら、その時は私に見せて頂戴!』
そう言って笑ったあの無垢で残酷な少女との──私の親友との約束を守れなかったことが、彼女に善悪というものを説いてやらなかったことが、心残りではないのかと、微かに思うのだ。