回生の者とカルデア 作:……
『生者が冥界へ踏み込むなど……許されん』
『許せん』
『恨めしい……』
『憎たらしい……』
暗い冥界に怨念がこだまする。
生者で有りながら、冥界へと足を滑らせて落ちてきた女を責め立てるような声だった。
そこから先は女の記憶にはなく、それを書き記す書物も存在しない。
気がつけば女は死を奪われていた。
死ぬことのない女は、半神の王に寄り添うことのできる数少ない者としてジグラットへ招かれた。
女は英雄王とその友と多くの言葉を交わし、心を通わせた。
まだ若かった女は、自らの不死を心の底から誇った。
そして、それが果てなき苦しみと知らず、長い時間を英雄王とその友と共に過ごした。
英雄王の友が死に、英雄王は女に国を任せて旅に出た。
女は彼女の力の限りで国を治めた。
しかし、年月と共に身体は衰えてゆく。
不死でありながらその身体は衰える。
骨は弱り、肉は削げていく。
指一本動かすにも苦労して、歩くたびに激痛が走るようになってもなお、女は死なない。
もはや骨と皮だけのような姿になろうとも彼女は死を許されず、人々は彼女を骸のような姿になろうとも国を守る姿に敬意を込め、骸王と呼んだ。
「…………帰ったぞ、レイ」
「──おかえり、随分と、長かったな。答えは、見つかったのか?」
死ぬことのできない女は、玉座の上で帰還した王を出迎えた。
もはや彼女は立ち上がることすら瞬時には行えなくなっていた。
そして再び英雄王が国を治めてすぐ、彼女は声を聞いた。
声は、彼女に死を与えると言った。
もしもそれを受け入れるなら、対価としてこれから幾度も生まれ変わり、決められた役目を果たしてもらうと。
一晩考えた女は痛む体を引きずりながら英雄王の元へと向かい、それを彼に伝えた。
そして……
「──私は、長く生きすぎた。長い生の苦痛に、私はこれ以上耐えられそうにない。だから──すまないな、ギル」
「謝るな。むしろ、よくぞここまで耐えてくれた。お前がいたからこそ、我は後顧の憂いなく旅に臨み、答えを得た」
「──ふ、ありがとう。それでは、明日の朝日が昇ると同時に私は旅立つ。さらばだ、友よ」
女は、そう言って王の座る玉座の間を後にした。
次の日の朝日が昇り切った頃、王は自ら彼女の細くなった身体を抱き上げ、墓へと運んだ。
骸のようになろうとも、王が不在の国を守り続けた骸王は、全ての民に惜しまれながら埋葬された。
これが不滅の魂に残る一番初めの記録であり、彼女/彼の長い旅の始まりであった。