回生の者とカルデア 作:……
神話の時代のギリシャは最も彼/彼女の転生体が多い時代である。
なにしろ多すぎる、あれらの宝具や神話全てを収集するのは人間一人分の人生で足りるわけがない。
故に、彼/彼女の記憶の中で最も長い時代の一つがこのギリシャだろう。
そんな彼/彼女の思い出の全てを語るには時間が足りない、だからここには一番の思い出を。
それは美しき三姉妹との記憶。
その時、男として生を受けていた彼はメドゥーサ、ステンノ、エウリュアレの三姉妹と仲が良かった。
初めの出会いは地面に倒れ込んだ彼をメドゥーサが見つけたところからだった。
メドゥーサは彼を助けようとしたが、彼は助けはいらぬと言う。
理由を問えば、自分は死んでも生き返るのだと、そしてまた人を見送ることになるのだと嘆いた。
そんな彼に、ステンノとエウリュアレが興味を持った。
そんな二人に彼が語ったのは、いくつかの神話。
しかし、その語りは彼がまるでその場にいたように真実味を帯びており、話を聞いているだけで時を忘れるほど鮮明だった。
それから、男と三姉妹は頻繁に会うようになった。
「今日はどんなお話を聞かせてくださるの?」
「そうだなぁ、今日は人類最初の文明の話をしようか」
「ふふふ、面白そうね。私?」
「そうね」
「いつも姉様たちが押しかけてすみません……」
「いいんだ、気にしないで」
エウリュアレとステンノ、そしてメドゥーサ。
彼と話をする中で、一番彼の話を聞きたがったのはステンノとエウリュアレであったが、彼と最も心の距離が近かったのはメドゥーサだった。
男はメドゥーサの容姿も何も気に留めず、ただ対等な話し相手として接した。そんな体験は彼女にとって初めてだったのだ。
そんな彼女たちと男の関係は、彼女たちが迫害され形のない島に逃げ延びるまで続いた。
さて、時は進み形なき島の中で、メドゥーサが自身の姉を食らわずにいることすら難しくなった頃、形なき島に一人の男が、昔にステンノたちに遠くの伝説を教えた男がやってきた。
「……やぁ、探したよ」
「何故、ここに?」
「腐っても親友だしね。僕はそう思ってるから、君たちを助けたいと思ってさ」
「──っなら!」
「ごめん、今の僕に以前までの僕の力はない、分たれているからね。だから、終わりを遅らせることしかできない。……そのかわり責任は取るよ。僕の命の全てを使ってでも、1日でも長くメドゥーサをメドゥーサのままに留める」
男はそう言うと、地面に多くの紋様を刻み始める。
首を傾げるステンノとエウリュアレに男は語る。
「メドゥーサは成長する女神だ。成長し、喰らい、いつかは変性を遂げる。だから、今刻んでいるこれは、全てを停滞させることに重きを置いている……完全には止められないけどね」
紋様が完全になると同時、彼の全身から悍ましいほどの魔力が迸る。
それは完全でないにせよ女神の歩みを止める停滞の代価。
刻一刻と彼の命を削る残酷な対価だった。
一週間分の停滞が、彼の寿命を一年削る。
それがわかっていながらも、男はその魔術を発動し続け、そして昔のように三姉妹に様々な話をして共に暮らした。
形のない島での生活は決して楽しいだけではなかった。
三姉妹を討伐しようと訪れる英雄たち、それを撃退していたのも男だった。
メドゥーサは、自らが好意を寄せた男が自らのためにこの島にいる事実が嬉しくも、悲しくもあった。
しかし、何事も終わりは訪れる。
ある日、訪れた者たち全てを殺した男が島の中央に戻ると、そこにいたのは変性を遂げた
ゴルゴーンはその髪で男を捕え、その首元に噛みついた。
そして噛みついて初めて、ゴルゴーンは自らが命を奪おうとしている者は、外敵ではなく、三姉妹のたった一人の友であった男だと知った。
「…………あ……え?」
目を見開いたゴルゴーンの頭を男は抱きしめる。
「……ずいぶんとまぁ、大きくなったね。メドゥーサ」
「あ、わ……私──」
「いいんだ。責任は取ると言っただろう?」
「でも……あなたには役目が…」
「僕の再現は、それを触れて、見て、知ることができれば達成される。もう終わったんだよ」
「…………でも、」
それでも、と言葉を続けようとするゴルゴーンを男は先ほどより優しく撫でる。
もう終わったんだと諭すように、変わらぬ結果を教えるように。
「──これから僕は何度も生まれ変わるだろうけれど、今の僕は君を愛していた。だから、君の中に残ることができるなら本望なんだ。だから、君が悔いることは何一つないんだよ。それが君の運命だったんだから。せめて美味しく召し上がれ」
魔獣と化した女神は、自らを信じた男の最後の願いを受け取った。
口が血に塗れてゆく、愛した人の体温が、体を濡らし温めてゆく。
こうして女神は完全に魔獣へと変性し、ペルセウスに討たれるその時まで魔獣としてあり続けた。
……とある地域にのみ伝わっていた異説だが、ゴルゴーンはペルセウスに追い詰められたその時、ただ一人誰かの名を呼び続けていたという。