回生の者とカルデア 作:……
ナピシュテムの牙にヒビが入る。
二柱の女神の足止めによって押し留められていたティアマトがウルクへと迫り、勢いを増したケイオスタイドの前に、ナピシュテムの牙は未だその形を保ち、ウルクを守り続けていた。
「……なぜ、あの牙が瓦解せぬか教えてやろう。アレは我が造ったモノではない。アレは遺産だ、お前も知っているだろう?我の不在の間、その身の全てを賭してこのウルクを、メソポタミアを守った女を」
「……それって──」
「あぁ、そうだ。奴は我の不在の穴を埋めるため、多くの事を成した。あの牙もその一つ、奴がその人生の全てを費やして構想し作り上げた神性すら遮る堅牢の城壁……アレが壊れたその時が、戦いの時だ。覚悟しておけよ」
ギルガメッシュは目を細める。
できる限り軽く口にしてはいるが、彼の数少ない友の一人が残した遺産が壊れたその時が開戦の時だという事実は、やはり不快ではあるらしい。
その時、立花はふと思い出す。
彼/彼女は、人の手に負えない事ならば戦闘も行うと言っていたはずだ。
(……これ、人の手に負える案件じゃないよね……?)
ナピシュテムの牙が瓦解したその時、焦った声のロマニが通信越しに叫ぶ
『ウルク上空に極大魔力反応!何者かが現れようとしてる、最大限の注意を!』
「その必要はない」
その言葉に動き出そうとしたマシュを、ギルガメッシュが手で制した。
直後、上空から女王の帰還を告げる声が、メソポタミア全土に響くほどの大音声で告げられた。
「第
突如現れた巨大な魔力源へと反射的に攻撃を行ったティアマト。
しかし、その膨大な魔力の投射を彼女の宝具が遮る。
『なんだこれ……、あのティアマトと同等の霊基だ!それにあの宝具──』
「──骸王、単独権限である。民よ、黄泉返りし女王を喝采するが良い」
色素の抜けた白い髪をたなびかせ、ケイオスタイドによって滅びた都市を見下ろした女はそう言って胸を張る。
右手には黄金の槍を持ち、左手にはその身に宿る〝呪い〟が脈動している。
その瞳は髪と同じく色が抜け落ち、金色に輝いているようにも見える。
骸王、またの名をレイ。かつてウルクの民に讃えられし彼女は今、上空よりジグラッドに降り立った。
「──全く、愚かな羽虫だな。『
100を超える砲門が、彼女を脅威と看做し攻撃しようとしたラフムを撃ち落とす。
「……やはりお前は
ギルガメッシュはそう呟く。
骸王と呼ばれた彼女の肉体の全盛はギルガメッシュの不在を守り抜いたその時ではなく、ジグラッドに招かれるより以前のこと。
自らの不死に驕り、その不死の肉体を利用して戦い続けていた頃のこと。
傲慢で傲岸不遜、高圧的な支配者のように振る舞っていたその時こそ、彼女の肉体の全盛期だった。
仕草を見るに、中身は骸王として国を守った時のままだが、肉体は全盛期へと遡り、それに釣られて言動が過去のものへと戻っているのだろうとギルガメッシュは理解した。
それと同時、近づいて来たラフムの全てを撃ち落とした彼女が肩を振るわせて笑う。
「──はは、久しいな、ギルガメッシュ!一人で玉座に座る貴様が余りにも惨めな表情をするものだから……会いにきてやったぞ?」
「……貴様──」
「迎え酒の用意はないのか?相変わらず気が効かんなぁ」
明らかに額に青筋を立てたギルガメッシュの表情を知ってか知らずか、彼女は不遜な態度のままギルガメッシュに語りかける。
わざとらしくため息を吐いた彼女の頭をギルガメッシュは籠手を身につけた右手で殴る。
「なっ!?貴様っ…私の脳の損失は世界の損失だぞ!?」
「その程度で消える軽い脳なら損失にはならんだろうよ」
「──っハハハハ!違いない!……さて、それで策は?」
「奴を冥界に落とす」
「つまり、この足元に冥界を移動させたと?」
「……あぁ」
ならば、と言って彼女は『
そして
「──天の鎖!コイツをくれてやる!私が足止めをする間、露払いは貴様に一任する」
キングゥを呼び寄せ、彼へと放り投げたのはキングゥにとって二つ目の聖杯。
キングゥは一瞬の逡巡の末、それを取り込んでラフムの掃討へ向かった。
「……さて、私には関係のないことではあるが、あの蛇の女神が身命を賭したのであれば、それを無に帰す訳にはいかんな」
直後、ディンギルの制御権がギルガメッシュから彼女へ移行する。
かつて、この世のあらゆる力を求めた彼女は、戦士でありながら魔術師であった。
ギルガメッシュのような真似事でなく、生粋の魔術師であり王に名を連ねる一人。
彼女の莫大な魔力を糧として、ディンギルはその威力を増す。
ナピシュテムの牙が迫り来るケイオスタイドの圧力に耐えかねてその形を失う。
「『
再び展開される第二宝具。
それは彼女個人を守っていた先ほどとは違い、まるで城壁のように、ティアマトの進路を阻む。
「今だぞ、金星の」
「わかってるっての!──ゲートオープン!大いなる天から、大いなる地に向けて!『
金星の女神の一撃が大地を割り、都市を破壊してその下の冥界を露わにする。
「……懐かしいな」
冥界へと堕ちる巨躯を見送り、骸王もまた懐かしき冥界へと身を投げた。