わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
別作品のキャラが出たりします
本編には特に影響のない話なので読み飛ばしていただいても構いません
「……あれ?」
目を覚ますと自宅マンションのベッドの上だった。
身体はシルヴィア・トーのままなので実に「あ、これ夢だ」とわかりやすい。
頬をつねってみると痛い。
「こんなにはっきりした夢は初めてだなあ」
妙に落ち着いているのは今までいろんな不思議を体験してきたおかげか。
どうせ夢なら満喫してやろうとスマホを手に取る。
指紋認証は使えなかったので暗証番号でロック解除。十数年ぶりなのに覚えているものである。
表示された日付をしばし見つめて、
「……そっか。今日はわたしが死んだ日なんだ」
ゲームの大会に出かけた日。
「これ、なにかの意味があるのかな?」
迷った末に出かけることに。
その前に朝ごはん。チンしたご飯とカップ麺。少しでもバランスを取るために飲み物は野菜ジュース。
「美味しい……!」
夢にまで見た白いご飯。ありがとう夢。
なんの変哲もないカップ麺も久しぶりに食べると感動的な味だ。夢中で完食して息を吐くと、食べすぎたのか少し眠くなってきた。
いやいや、行くって決めたし。
顔を洗って眠気を覚まし、櫛とドライヤーで髪を整える。服をどうしようか……と思ったら、勝手に落ち着いたドレス姿に変わった。
「うん、これでもすごく目立つ気がするけど」
どうせ夢だから気にしないことにした。
外。
向こうの世界よりも排気ガスの分だけ淀んだにおい。車の音。
駅まで歩いて電車に乗り、最寄りの駅へ。
座席で揺られる間はスマホをいじる。これも十数年ぶりの感覚。
──あれ、DMが来てる。
ついさっきだ。
つぶやいたーを利用してメッセージを送ってきたのはネット上の友人。アンスリウムなる名前を使っているものの、その言動は女子には見えない。むしろおっさんが濃厚である。
『感動した。この作品はほんと神。絶対損しないからやりなさい』
以下つらつらと感想が続く。
一度も会ったことのない友人はゲーム好きだが、そのジャンルは成人向けの──つまりはエロゲに偏っている。
シルヴィアが前世でプレイしたエロゲのほとんどは彼女からのオススメだ。確かにそのチョイスはハズレがなくありがたいのだけれど、こうして長文を送りつけてくるのはたまに面倒くさい。
こんなやりとりもなんだか懐かしいな、と、思いながら返信を送った。
『今出先だから、帰ったらDLで買うよ』
『いい時代になったわよね。先人たちは早起きしてショップに並んでたっていうのに』
うん、やっぱりアンスリウムはおっさんだ。
それにしてもネットやSNSが普通に使えるのはどういうわけか。不思議に思いつつも巡回。
──あ、キャロル・スターライトの配信もあったんだ。
好きなAtuber(アバターを使って配信をする人)。そういえばあの日も「帰ったらチェックしよう」と思った気がする。
結局、それは自分のせいで叶わなかったのだけれど。
今なら、違う未来が待っているだろうか。
電車を下りたあと、会場に向かう前に近くの神社へ寄った。
あの日もこうしてお参りをした。
験担ぎくらいのつもりだったけれど、思えば寺社仏閣を訪れるのは前から嫌いじゃなかった。機会があれば教会とかも行ってみたかった。
原因の半分、いや八割くらいはゲームやマンガの巫女さんやシスターさんだけれど。
「来ちゃったなあ……」
シルヴィアにとってはかつて悪夢を見た場所。
あの時は緊張でいっぱいいっぱいだったのに、今はなんだか落ち着いている。
周囲から向けられる好奇の視線にも気づくことができた。これはあの日もそうだったのか、それともシルヴィアの姿だからなのか。
とにかく受付を済ませ、開会式。それが終わればあの、思い出したくもない一回戦が始まる。
とあるDCG(デジタルカードゲーム)。
使うのは自分自身のスマホだ。会場にいる誰かとランダムにマッチングするので相手が誰かはわからない。
これもあって、かつてのシルヴィアはどきどきしながら必死に指を動かした。
やっぱり、あの時の再現になるのだろうか。
息を吸い込み、初めのドローを見る。
違う。あの時とは引いた札が異なっている。それなら。
「やれるだけやってみよう……!」
剣と魔法のファンタジー世界における戦争を描いた作品。まがりなりにも『戦略家』となった今なら、もしかしたら。
当時の経験に、新たに得た思考力を加えて必死に食らいつく。
速攻能力を持つ剣士でリードを奪い、遅れて展開された敵部隊を全体バーンを持つ騎士で一掃。返しのターンで登場した強力なユニットを姫騎士ユニットで相打ちに取る。
潜伏能力を付与した弓兵でちまちまと残りのライフを削り取り、デッキに一枚だけ挿している強力な魔法でのフィニッシュを狙って。
「……負けちゃった」
結果は、互いにライフを削りあった末の惜敗。
駄目だったか。落胆の息を吐き、ゲームアプリを終了させる。敗退した参加者は観戦に回るか帰宅するか好きに選べる。
配信も見たいし帰ろうと、と思ったところで。
「お前試合終わった?」
「ああ、勝ったよ」
前回の出来事がフラッシュバック。
『相手雑魚だったなあ。◯◯って奴。なんであんな弱いのに大会来たんだろ。マジ一勝ゴチって感じ』
『いいじゃん。環境もメタも気にしてないカジュアル勢がいてくれるからポイント稼げるんだし。ありがたいっしょ』
自分のハンドルネームまで聞いてしまったのはほんの偶然だった。
けれど、名前が出なくても同じことだっただろう。
会場には快勝を喜ぶあまり相手を罵倒する者がたくさんいて。当時のシルヴィアは対戦ゲームの民度に絶望すると共に、自分の腕のなさにはそれ以上に絶望を覚えた。
結果、強くもない酒を飲んで事故死。
本当につまらない死に方を──。
「やばかったわ。環境デッキじゃないからって油断した。あれ多分変なフィニッシャー持ってたわ」
「ああ、たまにいるよな。ファンデッキを使いこなしてくる変態」
ああ。本当に、つまらない死に方をした。
口元に笑みを浮かべ、シルヴィアは一歩を踏み出した。
負けてしまったけれど悔いはない。あの時とは真逆の晴れやかな気持ち。
さらりと揺れた銀髪に、話していた二人組が顔を上げて息を飲む。羨望の眼差し。
「あんな可愛い子もいたのかよ」
「負けちゃったのかな。可愛そう」
かつてのシルヴィアは自分に自信がなさすぎた。そして他人の悪意に弱すぎた。
試合の過程が変わっただけで、ちょっと可愛い子を見ただけでこんなに反応が変わってしまうのが人間だというのに。
うん。酒を飲むなら頑張った自分へのご褒美がいい。
間違っても事故に遭わないように家で飲もう。
つまみはなににしようかとうきうきしながら会場を出たところで、向こうから歩いてくる銀髪の美女と目が合った。
日本で会うのは珍しい。いや、向こうでもそうそうお目にかかれない巨乳──もとい美貌。その傍らにはどこかあの、ハーフエルフの令嬢のような──見た目と知性、知識量の一致しない雰囲気を持つ小さな女の子。
美女は少し驚いたように目を丸くすると、微笑して手を振ってきた。ぺこりと会釈しながら一礼すればふわりと薬品のようなにおい。
「今のは、もしや吾輩たちの同類か?」
「声かければよかったかな? でも、なんだか邪魔したくない雰囲気だったんだよねー」
「まあよかろう。関係者ならまた会う機会もあるだろうしな」
意外とこの日本にも不思議が溢れているということか。それとも夢だからシルヴィアの願望が混ざっているのか。
「そうだ。もう一回お参りしてから帰ろうかな」
駅へ向かおうとした足を別の方向へと向け、再び歩きだして──。
◇ ◇ ◇
「やっぱり夢だった」
起きたら夢の内容をほとんど忘れてしまっていた。
白米の味も、カップ麺のジャンクさも、晩酌になにをつまみにしたのかも。
勿体ないと意気消沈していると、起こしに来たゼリエからものすごく不思議そうな顔をされてしまった。
書いてから思いましたが、
夢オチ部分削ったら最終回っぽいですねこれ