わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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できるなら、幼子には幸せな道を 2

「それで? いったいなにがあったのかしら?」

 

 あまりにも大きすぎる事件から数日後──『銀百合』本拠の団長室にて。

 エリザベートにクレール、イザベル、ラシェル、リゼット、アンジェ。いつもの面々と共に集まったと思ったらいきなり本題を切り出された。

 そこまでわかりやすい表情は見せていないつもりだったのだけれど。

 彼女たちが鋭いのか、それともシルヴィアが自覚している以上にわかりやすいのか。苦笑しつつ肩を落として、

 

「ごめん。この件に関してはなにも言えないの」

 

 なにしろ自分自身を神聖魔法で縛っている。

 言おうとしても口がぱくぱく動くだけで声が出てこない。

 それを見たエリザベートは納得がいったという表情を浮かべて、

 

「わたくしたちにも話せないような事態が起こった、ということですのね?」

「うん」

「なにそれ。……シルヴィアがそこまで言うって、いったいどんな事件なのさ」

 

 表情を歪ませるクレールへの公爵令嬢の返答は。

 

「この国を揺るがしかねない事件、かしら」

「大事件じゃん!」

「だからそう言っているのですわ! ……まったくもう、いつものことながらあなたときたら」

「まあまあ、エリザベート。話してくれないんじゃなくて本当に話せないってわかっただけで気分的にはぜんぜん違うじゃない」

 

 ラシェルがとりなせばエリザベートはため息と共に気を取り直して。

 

「まあ、いくつかの情報を総合すればおおよその想像はつきますわ。……わたくしの想像が正しいとは正直、思いたくありませんけれど」

「エリザベートでもそこまでわかっちゃうってことはけっこう、事態を把握してる人っているのかな?」

「いる、かもしれませんわね。……リゼット様はいかがですの?」

 

 水を向けられたもう一人の公爵令嬢は困ったように眉を寄せて、

 

「わたくしはプレヴェール家と距離を置いておりますし、目も耳もさほど広げておりませんので。……とはいえ、あまり良くない状況なのは把握しております」

 

 謙遜しているけれど、リゼットはシルヴィアたちと生きてきた年月が違う。

 歴代の貴族学校卒業生──すなわち一定年齢以下の貴族ほぼ全員と面識のある彼女の元に情報が入ってこないはずがない。

 

「シルヴィア様。どうか、必要な際はわたくしたちを頼ってくださいませ」

「そうです。私たちにもできることがあるはずです」

「ありがとうございます。わたしも、自分だけで動くつもりはありません」

 

 可能な範囲でみんなにも力を貸してもらうつもりだ。

 それを表明するとみんなはほっとした表情を浮かべて、

 

「……ところで、アンジェ様はどうして黙っていますの?」

「え!? い、いえ、特に深い意味はなく……」

「あやしい。あ、あれでしょ? アンジェ様はなにか知ってるんでしょ?」

「し、知っていてもなにも教えられませんから!」

 

 焦った表情を浮かべながら言い募るアンジェ。

 実際、彼女も神聖魔法で縛られているし、神殿にいる彼女にはさらなる情報も入ってきている。

 どういうことかというと。

 

 

 

 

 

「シルヴィア!」

「ごきげんよう、ステファニー様。お部屋に閉じこもりきりになってしまって申し訳ありません」

「ううん。……これも私を守るためだからって、お母様が」

 

 聖女アンジェリカと共に離宮を訪問。

 使用人でさえごくごく限られた者以外立ち入ることのできない奥まった部屋に、いたって元気なステファニー第十王女がその身を隠していた。

 すでに本人にもある程度の状況説明は済んでいるらしい。

 複雑そうにしながらも納得の表情を見せる王女にアンジェリカが進み出て、

 

「お久しぶりでございます、ステファニー様。私のこと、覚えていらっしゃいますか?」

「う、うん。……えっと、アンジェリカ?」

「はい。しばらくお会いできませんでしたが、覚えていてくださって嬉しく思います」

 

 二人がここに来た理由はステファニーのお見舞い、そして()()のためである。

 あの日、あれからステファニーは有無を言わさず体調不良ということで面会謝絶の状態になった。

 シルヴィアたちも「王女殿下がお疲れなので」などと言い訳してそそくさと退場。王女の神託については誰も明言しないままにやり過ごす形を取った。

 そして、都で一番の癒し手である聖女アンジェリカの訪問。

 すでにアンジェリカにも経緯は説明済み。

 ステファニーは日に日に弱っているということになっているので、聖女が癒やしに来るのは自然。そのうえで快癒しないとなれば「死亡説」にも信憑性が出てくる。

 

「癒やすためではなく、死を偽装するために聖女が赴くというのも不本意ですけれど」

「……しかたないよ。私がここにいるとみんなが困るんでしょう?」

「……ステファニー様はとても聡明でいらっしゃいますね」

 

 本当にその通りだとシルヴィアも思う。

 教育環境のおかげか、それとも生まれ持った資質か。将来女の身で王になると言われても納得できるほど、五歳のステファニーは頭が良い。

 だからこそ、こんな子が苦しまなければならない現実には文句を言いたい。

 

「ステファニー殿下。みんながあなたのことを嫌っているわけではありません。それはどうか、覚えておいてくださいね」

 

 この言葉にスザンナ第四王妃も頷く。

 

「……うん。ありがとう、シルヴィア」

「あら。シルヴィアはずいぶんステファニー様と仲良くなったのね?」

「はい。その、芋羊羹のおかげです」

「あのお菓子ね。小さい子と仲良くなるのに使えるなら、私も見習おうかしら」

 

 元気なステファニーに治療は必要ない。

 一応、怪しまれないために癒やしの魔法は用いたものの、ぴかぴか光った以上の成果は得られなかった。それでも構わない。

 来た、という実績がこの先の役に立つ。

 治療のフリが終わった後はしばらくステファニーと歓談して、

 

「では、ステファニー様。また参りますね?」

「うん。……もう行っちゃうの?」

「はい。ですが、必ずまた顔を出しますので。その際はシルヴィアも連れてまいりますか?」

「うん!」

 

 明るい笑顔。なんだかもう、この少女を抱きしめてお持ち帰りしたくなってくるけれど、もちろんそういうわけにはいかない。

 後ろ髪引かれるものを感じながら、シルヴィアは聖女と共に城を後にした。

 馬車に乗るまでの間、いつも以上に視線を感じたのは果たして気のせいだろうか。

 

「シルヴィア。わかっているとは思うけれど、諜報や暗殺には十分気をつけなさい」

「はい。……あの、アンジェリカ様もなにか対策を?」

 

 ぶっちゃけ、シルヴィアはほぼ二十四時間、最も大事な心臓を魔族──ヴァッフェに守られている。彼女が常時展開している魔力防壁だけで攻撃の類はかなり軽減されるはずだし、事前察知が間に合えばもっと強力な守りを受けられる。

 気まぐれなもう一人──あるいは一匹の魔族、ティーアがいればさらに安心。

 

「立場上、お金には余裕があるもの。守りの魔道具は多めに身に着けているわ。ある日突然、馬車が爆破されないとも限らないものね」

「それ、別の人からも警告されたことがあるんですけど、本当に起こるんでしょうか?」

「あら。だって移動の時間は人が油断しやすいでしょう?」

 

 確かに、これが例えば自動車だったとしても、いきなり爆発するとか考えない。

 魔道具を使えば科学的な爆弾より場所も取らないのだから──なんというか、なかなかに物騒だ。

 

「まあ、私たちになにか仕掛けるとしたら暗殺よりも捕らえて情報を引き出すほうが主だと思うけれど」

「それはそれで物騒ですよね……?」

 

 それからさらに二度の訪問を経て、ステファニー第十王女の病死が発表された。

 並行してシルヴィアにはクロヴィスの領地への訪問が王命として下る。

 まだ授業のある期間中だけれど「すでに実務をこなしている其方ならば休んでも問題なかろう?」とのこと。まあ、学びたいことはまだまだあれど、確かに今更感はある。

 シルヴィアは公爵領への訪問に際し、みんなと話し合ったうえでクレールとイザベル、マルグリット、その他一名についてきてもらうことにした。

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