わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
ステファニー第十王女の葬儀は内々に執り行われた。
葬儀を担当したのは聖女アンジェリカ。
シルヴィアとアンジェは呼ばれず、後日墓前に参る形になった。
墓、と言ってもそこにステファニーはいない。
これは彼女の死が偽装だから、という以前に、王族の亡骸は神聖魔法によって浄化されて後に残されないからだ。
墓地には悪い魔力が溜まりやすく、死体がアンデッドと呼ばれるある種の魔物になって動き出すこともある。それを防ぐためと、副葬品を暴く不届きな輩を出さないための措置だ。
だから、墓参りと言っても形だけ。
──それでも。
シルヴィアたちには誰から、とも言えない厳しい視線が向けられた。
「ほら、あれが」
「殿下の神託を担ったという」
ステファニーが体調を崩したのは神託の儀式の後。
それから大した期間を置かずに亡くなったのだから「儀式が原因じゃないか」と囁かれるのはある意味当然のこと。
担当者が見習い聖女と新米巫女の二人だったとなれば尚更だ。
「本当に儀式を行ったのか」
「あるいはスザンナ殿下も共謀して」
そんなわけないじゃん、とでも叫んでやりたい気持ちはあったものの、ぐっと我慢。
そんなことをしてもなんにもならない。
むしろ疑惑を加速させるだけだ。
「これが陰謀だとすれば、首謀者と主犯は重罪だぞ」
ひそひそ声は残念なことに、墓前だけでなく街中や貴族学校の中からも聞こえてきた。
◇ ◇ ◇
「思ってもみない形で公爵領行きがずれ込んでしまいましたわね」
幸い、『銀百合』騎士団内では悪い噂は流れていない。
シルヴィアやアンジェと直接面識のある者ばかりだということに加え、聖職者の働きや神聖魔法の力を目にする機会が多いからだ。
幼い王女を殺すような真似をするわけがない、とみんな言ってくれている。
おかげでだいぶ気楽ではあるのだけれど、
「この際ですから、噂がある程度収まるまで向こうに滞在してきなさいな」
実を言うとステファニーはもう公爵領に向けて出発した。……というかとっくに着いているはずだ。
当初はシルヴィアが運んでいく予定だったのだけれど、そうするとタイミング的に王女の葬儀に参加せず、墓参りもしないことになる。
なのでちょっと予定を変更して後から追いかける形になったのだ。
葬儀に出られなかったのは主に噂のせい。
都にいるけれど表立って動いていない──となれば、神殿等々の意向で自粛している、という印象になるだろう。
「うん。ごめんね、エリザベート。忙しい時に仕事を任せちゃって」
「構いませんわ。……というか、ある意味そちらも仕事ですもの」
元王子の依頼かつ国王命令。
逆らえるわけがない。
「むしろ良かったのではなくて? これから出かけるのなら三年生の始めに戻ってくれば良いでしょうし」
七十五日には少し足りないけれどある程度ほとぼりは冷めてくれるだろう。
「シルヴィアとアンジェ様の護衛はクレールとイズに任せますわ」
「任せて! ちゃんとあたしたちが守ってあげるから! ね、イザベル?」
「は、はい。私の弓は屋外のほうが使いやすいですし……」
公爵領行きの人選はなるべく騎士団に負担にならないようにした結果だ。
リゼットを連れていってしまうと運営が滞るし、エリザベートも同様。となると役職についておらず、まだ成人もしていないクレールとイザベルが適任。
部下として都の兵士が十二人ついて来てくれる。騎士一人につき兵士四人計算である。
あとマルグリットはスザンナの護衛として同行。
別途メイドたちが来るのも確定として、
「リゼット様? アンも連れていって本当に大丈夫ですか?」
「ええ。……正直、わたくしも騎士団の運営で忙しく、魔道具の研究があまり進んでいないもので」
魔法使いギルドから騎士団に移籍した魔法使い、アンも同行することになっている。
「けれど、アンを同行させるのは少し意外ですね?」
「ええ。殿下──もとい、クロヴィス公爵の依頼が依頼ですので、魔法が必要になることもあるかと」
というか「領地を盛り上げるのに手を貸せ」みたいなふわっふわした依頼なのでなにがあるかわからない。
「アンにはアレがありますし、きっと力になってくれると思います」
「そうですね。あれはアンの気質に良く合っていたようです」
「アレかあ。接近戦ならともかく、距離があるとちょっと厄介だよね」
「なにが来るかわからないのも怖いです……」
旅行の準備はすでにほぼ終わっている。
前もって決めておいた通り、二日後には出発することにした。
◇ ◇ ◇
そして。
荷物とシルヴィアたちを載せた馬車が城へと到着。
「さ、一回降りよっか」
「ん。あれだよね? ここで馬車を乗り換えるんだよね?」
「そうそう。わりと二度手間だけど、お城で馬車を手配してくれてるから」
スザンナ第四王妃と合流するのも目的の一つだ。
王妃が同行するのは表向きシルヴィアのお目付け役。裏の理由その一が傷心旅行で、その二が悪い噂から遠ざかるため。そしてさらにその裏にある本当の理由がステファニーと会うためだ。
クレールたちには表向きの理由しか説明していない。
クレールとイザベルは特に話の裏を詮索しようとは思っていないようだ。クレールはどんな陰謀があってもあまり気にしないタイプだし、イザベルは裏があるのを察したうえで「自分には読みきれない」とできることに尽力するタイプ。
「あたし、王妃様と話す自信ないんだけど大丈夫かな?」
「平気だよ。優しい方だし、基本的にはわたしがお相手するから」
「あの。シルヴィアさんは男爵で、クレールさんは伯爵令嬢ですよね……?」
「イザベル? 人には得意不得意があるんだよ?」
積み替えの間にシルヴィアたちは一度離宮へ。
アンも誘ったものの、
「わ、私なんかがそんな場に同席するなんて絶対無理です!」
がくがくぶるぶるしながら拒否されたので積み替えを観察してもらっている。
さて。
「お待たせして申し訳ございません、スザンナ殿下」
「いいえ。時間通りよ、ごきげんよう、シルヴィア」
「ごきげんよう、シルヴィア様」
「ごきげんよう……って、イリス様!?」
到着したスザンナの部屋にはなぜか第六王女イリスの姿があった。
スザンナはもちろんイリスも黒を纏い喪に服する格好で──イリスまで旅行用の軽装だ。
「いったいどうなさったのですか?」
「ええ。私もお兄様の領地を見学させていただこうと思いまして」
「見学、ですか?」
「そうです。だって、シルヴィア様が産業の発展に協力なさるのでしょう? でしたら我が商会が一枚噛まないわけには参りません」
イリスは私財をぱーっと使って商売の準備を進めている。
その一つが国内各地から売り物を確保することと、その売り物を輸送する手段の確立だ。
「新しい商品が見つかった暁には是非我が商会に」
「はい、それはもちろん構いませんが……まだ貴族学校の期間中でしょう?」
「問題ありません。というか、それはシルヴィア様も同じではありませんか」
それを言われると痛い。
「いいじゃない、シルヴィア。大勢のほうがにぎやかで楽しいわ」
声に湿り気を混ぜつつ微笑んだスザンナにシルヴィアもそっと微笑みを返して、
「そうですね。……こういう時こそ笑わなくては」
イリスもまた悼むように頷く。
「お二人の事情はおおよそ把握しております。邪魔にならないようにいたしますので、どうぞよろしくお願いいたします」